八百十六生目 邪魔
"無敵""ヒーリング"掛け合わせでホルヴィロスは落ち着くかと思われた。
なにせ都合の良い下位存在の玩具だという認識をとっぱらってしまったのだから。
ホルヴィロスなら一気に冷めて去っていくかと思ったのだが……
「私……貴方に本気で……いや今までも本気のつもりだったけれど、今感じている胸のときめき……! 本気でこの想いが、止められな、あっ!?」
遠くから何かが飛んできた!?
この宝石の欠片みたいな浮いているもの……
もしや神格のかけら!
「おお、それって前聞いたやつか?」
「多分。神格だけれど、なんで今……」
「きっと、私が本当に貴方の事を認めたから。ううん、貴方に、ちゃんと惚れ直せたから、かな。いずれにせよそれはもう私のものじゃない。あなたのもの」
ナブシウのときにも似ている……
もうひとり認めてもらってないのに貰えたのはあったがアレは転生させて完全に神として切り離したからだろう。
実際のところ彼の力そのものが貰えたわけじゃなかったしね。
ということは今回これは……
とりあえず受け入れてみる。
いつもどおり私の中に吸い込まれて同化した。
「あっ……増えた」
[毒沼に咲く花 毒に対して特別な耐性を得る。また花系統が肉体にあるまたは持つときに多くの毒に対し耐性と強化を得て同時に多種性能の花粉を撒ける]
"猛毒の花"と相互互換のありそうなスキルだ。
ホルヴィロスのあの胞子たちに比べればだいぶ性能は下がっていそうだが新しいことができそうだ。
今なら……毒沼の上を薬なしで歩けるかも。
[千の茨 自身に植物の特徴を持つときにイバラを伸ばしより高度なコントロールが可能となり、肉体全体に自己再生能力が増す]
ホルヴィロスのように毒沼をそのまま超再生力にすることは出来ないが弱くても肉体の自己再生ができる……か。
イバラも前でも100の分解は出来たから1000……さらに器用なことができそうだ。
本格的に練習してみるかな。
増えたスキルはともかくとして。
目の前で変な顔をしているホルヴィロスはどうしたらいいのだろう。
「改めて、私は、貴方の事が、どうしても、今でも、はちきれそうになるほどに、好きだ。この私の想いは……受け取ってもらえないだろうか」
「……無理だね。私は当面キミを許す気は無いし、好感度そのものがない」
「ああ、わかっている、だけれども、悩ましい! この想いはそう言われても、より膨れ上がるんだ……! だから、迷惑はかけない! 貴方のことをもっと、ちゃんと深く知りたい! そばにいさせてもらえないか!?」
うわ。
なんかこじれるとストーカーと化しそう。
やはりここはなんとかきっぱりと諦めてもらって――
「良いんじゃないか? アノニマルースはたくさん魔物たちがいるからな!」
「えっ!?」
「アノニマルースというのは、俺みたいなのや、人もいるし、神もまあいたな。いまさらひとり増えたくらいでってやつだ」
「本当!? ありがとう!! 私、いつまでもローズを見守って応援できると思うと……やる気出てきた!!」
な……流れで決まりおった!
ゴウが軽くこちらを見て肩をすくめる。
諦めろってか……!
うぐぐ……まあ……
「と、とにかく悪さをしたり法を犯さないこと! アノニマスルースの決まりは守ってもらうし、私も嫌なものは嫌と言うからね!」
「もちろん!! あああー!! 分神でだけれど今から楽しみすぎて身体の中身全部出そう!!」
汚いので出さないでもらいたい。
どうやら多数決で決められてしまったらしいからホルヴィロスが悪さしないように監視するしかあるまい。
まあ分神ではそんなに悪さは出来ないが……
「ああ、そうそうそうだった! 本当に申し訳ないんだけれどローズ、実はまだ貴方との儀式は終わっていないんだ。これを終わらせないとキュービットたちがどんな行動を取るかわからない!」
「……えっ?」
あのあとひたすら懇願され連れてこられたのはヌマグローブの森。
やはり沼地は薬なしで歩けたのでこのスキルは有用かも。
ヌマグローブの森にあるイロテナガたちの住処で何をするのかと言えば……
「「待っていました、おしろいさま、ならびにローズさま」」
「ああ、これから祝分の儀に入る」
ずらりと並ぶイロテナガとヒュードックたち。
あと記憶がなくなったので物見気分な元寄生ゾンビたち。
そして私の横でさっきまでの様子が消え失せた真面目顔のホルヴィロス。
「やっぱりお似合い――」「きれいなふたり――」「将来安泰――」「なんか半透明? 演出――」
「うう……ん……」
私までさまがついてしまった。
魔物同士なのでそんなに敬語とかではないが。
いわゆる彼らの中で上位者を意味する単語だ。
そう彼らには私達が結ばれたということにするらしいのだ。
神も1度やりだしたことには縛られるのだ……




