八百十三生目 曲射
空を舞う。
イタ吉と私が2つの月光を浴びながら。
ゆったりと……空を飛べたら……良かったのに。
「「ぎゃあああああーーっ!!」」
それどころではない。
全力で互いに吹き飛ばしあったせいでものすごい加速がついている。
いやシミュレート通りだけどさ!
ロマンチックの欠片もないスリル満点夜間飛行。
ダカシから発射したら次ももう決まっている。
次はイタ吉だ。
ポイントはそろそろ。
『なあ? 恐いか?』
『え!? そ、そんなことないよ!』
『そうか!? 俺はすっげえこわいぞ! こんなん死ぬって!!』
『そ、そう、まあイタ吉は仕方ないよね!』
めちゃくちゃ私も怖いがなぜか虚勢を張ってしまった。
というか今はもう虚勢を張っていないと正気がたもてない。
『でもなあ! こんなに恐いからこそ、面白えな! こんな風にめちゃくちゃな冒険! まだまだやりたりねえよな!!』
『まあ……うん。私も冒険が楽しいって、ちゃんと思えてきた』
苦しい時をこなしていく旅と冒険。
それでも私が……私達が続けていくのは。
そこにはきっとワクワクがあるから。
ゴチャゴチャした諸事情はあったとしても。
今この時がとても良いときだと思えるから。
きっと私はここまでこれたのだ。
今絶賛悲鳴あげながら空に飛ばされているけどね!
『だったら、お前もアイツに捕まらずに決着つけてこい!』
『もちろん!』
「いっ……けっええええーー!!」
「わあああああぁッ!」
目標ポイント到達!
イタ吉が足場になり私を蹴り上げ私はイタ吉を蹴る。
反発でさらに空へ!
私のまとう光も最高潮に輝きながら尾を引いてゆき花火は今か今かと爆発するときを待っている。
だが。
ココじゃない。
私はイバラを全身に巻き付けながら伸ばしだす。
さらに細部化してゆき全身を覆っていく!
月明かりをバックに今私は花火から天からの矢へと生まれ変わる。
全身を覆うイバラは肉と植物を巻き込み斬り裂くドリル状に。
"見透す目"で先を見据えながらまずは空へ飛ぶ頂点へ到達し……
曲射として角度がどんどんと落ちだす。
そのコースはあまりにきれいにホルヴィロスのいる霧に囲まれた中央に。
ちゃんと透視するとまだ眠っている。
分神に意識が行っているのだ。
ココからは私のコントロールに左右される。
矢としての光を維持したままきっちりホルヴィロスを捉えねば。
……ん!? 動き出した!?
『そちらはどうですか? こっちはみんな無事です』
『こっちもなんとか! ホルヴィロスが起きたみたいだけど!』
『ええ。こちらでも分神の消滅を確認しました。あとは手はず通りに』
ここまできてミスするわけにもいかない。
軌道はきれいにのっている。
『まったく神というのも呆れたものですね。あなたを無理やり花嫁にしようだなんて』
『まさかこんなことになるとは思わなかったよ……』
『まあ貴女がみんなにモテる理由はなんとなくわかりますけれどね。魔物の身という分野すら越えてあらゆる相手と分かりあえる素の部分も』
『えっ!? な、なにを!?』
いきなり変なこと言い出さないでほしい。
コントロールがブレる!
『もっと自身が魅力的であることを自覚したほうが良いですよ。僕みたいに特にそこまで思っていない相手ならともかく、今回みたいなケースがまたないとは言えないのですから』
『うっ、それも、そうかあ……いや私がなんでそれで悩まされるんだ……? うーん……』
『まあ、だから今回のはそのひとつの案件に過ぎません。早くこなして、次へ行きましょう』
『……はい!』
ゴウなりに気遣ってくれている……のか。
軌道は安定。
後は直撃させる。
『やあ! なんだか貴方たちばかり話していたみたいだから、私もこうして話させてもらうよ!』
『うわ』
ホルヴィロスが念話してきた……
これはホルヴィロスの念話スキルなため私から切れない。
『やあ〜!! 感情がダイレクトにくる念話は良いね! 最高!! ゴミを見るような心がグイグイきてる!! でもね……』
ホルヴィロスがどんどん動いてる……!
危惧はしていたが……あの毒沼からも動けるわけか!
角度を合わせないと!
『くっ……!』
『私だって単に殺されたいわけじゃないからね! 狙いがわかったら全力で返す、それも異種格闘技戦だよね! 決戦のバトルフィールドを作ってまでご苦労だったけれど、ほらほら見てみて!
万の蔓草! 豊富な白毒胞子! それに爆発する爆弾胞子もたくさん! それに……ハートのツル! 全部貴方のために用意して待ってるよ!! そのあと優しく受粉活動してあげるからね!』
『な、あれは……!』
大量の攻撃群がホルヴィロスを覆っていく!
あれではうまくやれない!




