八百十二生目 強襲
夜中。
私達の作戦をついに実行する時がやってきた。
決めれるのはこの1度のみだろう。
なにせやることがやることだからな……
それを決めるはずの相手が真横にいつづけた状態でやる作戦というのも奇妙なものだ。
まあ狙うのはもちろん分神ではなく本体だ。
「ねえねえ、何をするつもりなのかな?」
「知ってても教えませんよ」
「そうそう、自分の身の心配でもしたらどうなんだ?」
「えーっ、それだとローズを見れないから! モノホンがいるのに見ておかないだなんて生きている時間の無駄でしょ!!」
シカンするのはやめてほしい……これからぶっとばすけど。
それもこれもさっさと勝てば終わるはずだ。
確実に決める……!
2つの月が美しい空。
今だ蒸し暑いのは変わらないが。
戦いの時にふさわしい。
補助魔法をひととおり全員にかけていく。
"指導者"の効果で全員への補助魔法は強くなり最高に質も高めておく。
効果時間よりも質を優先しすぐにキメる!
「よし、やれそうです」
「お、何を見せてくれるんだい? ローズのものならなんだって見せてほしいよ!」
「そう……じゃあ」
私達が用意した全力を受け取って欲しい。
私達がやることとは。
ドンッ! と。
出来上がったのはダカシに私とイタ吉がトゲなしイバラでしがみつきゴウが私のイバラで作られた巨大弓を構える。
巨大弓自体はゴウが元々持っていた変形する弓がさらにさらに増したものだ。
行動力を注ぎ込むほど強く大きくなるゴウが持つ不思議な弓。
私の力とゴウの力を合わせてダカシすらも飛ばせるほどに大きく。
矢は私のイバラでそれっぽくしただけでとても矢と呼べる代物ではない。
「え、なんなんだいこれ!?」
「何って、秘密兵器ですよ」
「いや、さすがにこれでどうにかなるようなものではないと思うんだけれど……」
ホルヴィロスは完全に舐めている。
その方が良い。
まあ舐めているというか驚いて呆れているが。
ゴウの身体だけでは弓を引けないところをダカシの身体や私のとげなしイバラで引っ張る。
引き絞る弓は鳴りゴウの身体から行動力が送り込まれていく。
強烈な射撃攻撃として私達ごと光に包まれていく。
この無茶苦茶なそして無理やりな射出を完璧に成功させるためになんどもシミュレーションしたのだ。
"同調化"により引き絞る動きもきっちり合わせ済み。
私達は今1つの攻撃となる。
「なんだかわからないけれど、そろそろ戻った方が良さそう……?」
「さあね。私の嫌だという、あなたとくっつくつもりなどさらさらないというこの気持ち、歪めさせたりしない、絶対に直接受け取ってもらうよ!!」
「もう、私のために頑張ってくれているのに、何を言おうと――」
「いくよー!」
「「やあああっ!!」」
怒声のように響く叫び。
ホルヴィロスの面倒な声をかき消して叫ぶその声とともにゴウと私達が渾身に引き絞って……
――放った!!
それは1つの花火。
夜空に高く撃ち放たれる1直線の光。
空気の抵抗を掻き分けて咲こうとあがく1輪。
「良し!」
「んぐおおおおっ!!」「オ、オ、オ、オ、オッ!」「ぐぬぬぬううッ!」
凄まじい圧!
飛ぶ速度は当然手加減なし。
さらに私達は攻撃として光をまとっている。
普段から肉体の1部に光をまとい使えるからもしやとは思って使えた技。
今私達はゴウの曲射射撃術スキルを上乗せしたとんでもない威力の飛翔をしていた!
とうぜん私達にも負担は凄まじくかかりさっきからみな変な声ばかりだしている。
だがここからである。
なにせまだ遠い。
雪がひどく降る範囲から外れたところからなので仕方ないが……
勢いが少し収まってきて下に見えるは雪と霧。
霧の真ん中にいるのがホルヴィロスだからまだ遠い。
白い土地は雪が降る区画だから……そろそろだ。
「よおおし! やるぞ、お、お、お!」
「「わあああっ!!」」
もはやハチャメチャ。
気分もハチャメチャ。
もうタガが外れるしか無い。
こんなもん怖いに決まってるからな!
『なあ、俺は……』
『うん?』
"以心伝心"を使っての会話なら音速による遅れも空気での阻みも関係なく思考したあまりに早い速度でも言葉が伝わってくる。
それが大きすぎるメリットだから使うのだろうが。
今か。
『俺は、お前に赦されなくて良かったと思う。こんなこと言ってしまうとダメだってわかっているが……赦されないことで、改めて自分と……妹と向き合える気がした。だから……帰ってこい』
『……うん!』
「うお、お、おぉ!!」
ダカシが私達を蹴って私達はダカシを蹴ってさらに加速!
ダカシは代わりに落下していく。
魔法で着地時の衝撃はなくなるようにしてあるから平気だ。
これこそあまりにハチャメチャすぎる空中落下強襲作戦だ!




