八百七生目 奉仕
ホルヴィロスという神はまるで話が通じないタイプだった。
「ホルヴィロス、戦って私が勝ったら自由にさせてもらう! というよりなにがなんでも自由にさせない!」
「イイヨイイヨー!! その生き生きとした声! 推しは元気が1番! 私に勝つというのあれだよね! 互いにもっと深め合うという異種格闘技戦ってやつだよね! 知ってる! さあさあやろうよ!!」
まるで話を聴いていないのは今までどおり。
ただ戦いはしてくれるらしい。
「さあ、私に全力で恋心をぶつけて!! 神だから何をされても死なないからね!! そのかわり受け止めたらキュン死するけど!!」
おそらくはナブシウたちと同じ不老不死……
こっちが出せる札全部出してもなんともならないかもしれない。
だからあくまで冷静に仕掛ける必要がある。
大きく霧が晴れていく。
それと同時に身体を大きく持ち上げていわゆる座っている格好に。
あれ? そう言えばさっきから身体がなんとなくうるおっているような。
「ローズさん、今なら毒沼の上に乗れそうです」
「わかった、行こう!」
ホルヴィロスは不敵な笑みを浮かべたまま待っている。
こちらから仕掛けさせてもらおう。
補助魔法はばっちり!
植物ならば良く燃える!
火魔法"レイズフレイム"!
熱射光線が解き放たれる!
ホルヴィロスの身体胸部分を焼き尽くす!
身体が燃えたぎり……
「おおー! これが貴方の熱いあアブッ!!」
大爆発!
先手としては十分。
煙っている間に全員で毒沼の上へと駆け出す。
「おお! 確かに弾くな!」
「けど、足を置いたらどんどん沈むな」
「基本的には歩きながらのほうが良いでしょうね!」
足元毒沼はまったく身体を侵食しない。
柔らかい地面みたいだ。
ただズブズブと少しずつ足が沈む。
足は駆けていれば問題なし。
ホルヴィロスの身体に矢が飛びイタ吉が跳び斬撃が飛ぶ。
次々ど攻撃を受けて――
「わああ! すごいねすごいね!! びっくりしたよお!!」
「なっ!?」
煙が晴れたホルヴィロスの胸は確かに焼けていた。
しかし次の瞬間にはもう何事もなくなっていたのだ。
刺さった矢も。イタ吉の尾刃も。斬り裂いた斬撃も。
当たる。喰らう。治る。
何も効いてない……!?
「なんて再生力!?」
「さあ! こういうのは受けたら返すのが礼儀だよね!! 私のことももっとローズにしてもらいたいから、ぜひ受け止めてね!! そーれ!!」
ホルヴィロスが身体を揺さぶると雪が……さらに強く降る。
ゴウが視線を細めた。
正体を見抜くスキルだろう。
「いけない! 危険な胞子です! 撤退を!」
"同調化"で全員に意思疎通を素早く済ませ高速でホルヴィロスの近くから離れる。
それでも雪は範囲が広い……!
「ぐぎゃあ!? なんだこりゃ!?」
「私の天気避け魔法を貫通……いや、元々効いてなかった!?」
この雪はただの胞子の塊たちが弾けたものだった。
それならば……天気ではないからこの雪にははじめから私の魔法が効いてなかったのだ。
ただホルヴィロスの裁量で当てに行くか外しに行くかを選んでいただけで。
イタ吉の尾の刃は胞子がつくと音を立てて溶ける。
胞子なのになんて強力な接触毒!
普通は摂食しないと大した効果はないはずのに……まさに特別性だ。
「手で払うのも危ないっ……! ぐっ……」
「とにかく逃げましょう!!」
「うっ! ……?」
ダカシやゴウにも雪があたりあちこちジュクジュクと恐ろしい音をたてている。
私にもそれは例外なく降り注ぐが……
おや。私には思ったよりジュクジュクせず消え沈んでしまった?
「さあ! 私の愛はみんなにも降り注がれる!! けれどローズにはもうね、限界まで注いじゃうからね!! もう、アレもソレも!!」
「みんな!」
「……! 無理するなよ!」
「うん!」
"同調化"で意思を伝える。
私はこの雪程度のダメージならなんとか抑えられそうだということを。
おそらくは今薬の効果がありかなり高く腐食毒に耐性を持っているからだろう。
それに先程から見ている限り……
白い植物と地面にはジュクジュクと腐食が行われず浸透していくのみ。
幸い私はどちらにも近い。
「おや……? 私の白き愛はローズのご友人たちには厳しかったかな? まあでも……これでローズだけをちゃんと見てあげられるね! わあすごい! 私の白き愛を受けてもピンピンしている!! やっぱり私の愛を注いでもローズは平気なんだよね!! 良かった!! どんどん限界まで注いじゃうぞー!!」
「イヤッ、だ!」
まずはホルヴィロスの身体の特殊性を見極めなければ。
イバラを伸ばして攻撃!
ドラーグ100%並に大きいホルヴィロスを攻撃する箇所は迷うが……足だ!




