八百五生目 躁鬱
真っ白い大きな獣植物な神。
なんか思っていたのと違った。
「おしべと……めしべ……?」
「またまたとぼけちゃって~! だけど照れるのも仕方ないね、やっぱり想い人にあっちゃうと言葉が詰まっちゃうのもいるものね。いい? 私は貴方を見初めて招き、貴方は私の誘いを受けた! たくさんの祝福を受けたでしょう、純潔の花々の道を歩き、鳴り響く神輿に引かれ、そう、一目散に。あ、嘘ついた。途中でキセイジュのやつに邪魔されてたよね。心配でハラハラしたよ、でもあまり口出しをしないのも甲斐性だよね、うん。キセイマモノを救うキミの魂、かっこいいよ! 見た目もよくて中身もいいなんてホントもう最強! 最強! これほどコウゴウ相手に相応しいものが現れるなんて!!! 世界に感謝。ママに感謝。今日はいい日だな! うんうんうんうん、最初の姿も良かったけど、純白の姿すっごくいいよ!!! おとしやかであでやかで禁欲的で......あああああ! シズイがうずいちゃう!」
なぜだろう。
私の耳が勝手にしなしなと下がっていくよ。
というか今の儀式の話って……
「おいおい、こいつ何を言ってるんだ? 神の言っていることはよくわかんねえな」
「ぶっちゃけ俺も半分くらいしか……」
「キミたちは分からなくていいです」
「テンション高くてゴメンね? 引いちゃうかな? でも分かってほしいんだ 私はね、今本当に嬉しいんだよ! 今も胞子を撒き散らさないように必死で抑えてるんだ。あまり刺激しないでくれないか...............無理!!!! 無理だわ!!! だめほんとダメ。神の目でいくら覗いたって本物には叶わない! 胎内を血液が巡り、息で胸部を膨らまし、そして吐き出す吐息! その二酸化炭素ぜんぶちょうだい! おいしい!!! サイッコー、ああ姿も!その始めて見る表情も!! 本当に良い!! それがこんな風に結ばれることが出来るだなんて私は、ああ、ああ……!」
待って。
「待って」
びっくりした。
今私の声が心のままに出すぎて驚きの低さで響いてしまった。
「え! 何!?」
パアアと顔を輝かせる神。
イタ吉たちと違いまるで動じていない。
「私は何をされていたの? あの儀式は何?」
「ロ、ローズ?」
「照れ顔尊っ!!! もちろん私と貴方が結ばれるんだよ! きみを見つけたときからずーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっと、分神を使って見てたよ! キミだってわたしに気づいていたでしょ、こっちに時々目線くれちゃってさ~ ヒュー!! 流し目! 焦らしプレイ!! まさに雑草の中に咲き誇る白薔薇だ、その茨みたいに切り裂いて! 植え付けて!! ああ、ゾクゾクしちゃう!」
なんだろうこの気持ち。
褒め称えられていることは一切心に響かず。
ただ結ばれるための儀式だったということがリフレインする。
「ローズさん?」
「へぇ……私は何も聴いていない……もしかして世界から隔離してワープできなくしたのも?」
「キミを守るためだよ。綺麗なだけじゃなくてほんとに強くて凄いけどね、間男女がきみを狙ってる。近くにいるから凄く感じるよ、ほかの神のくさくてきたない最悪な匂い! きみの花の蜜のような天日干ししたナッツのような、こうばしくて甘くて食べちゃいたいくらいずっと嗅いでいけるナイススメルを台無しにしてる! 」
「…………」
「あ、そうだね。やっぱりここで突然暮らすのは不安だよね。それよりやっぱり種族の壁もあるものね。心配ご無用! 私が何も考えてないと思った? 私と貴方、雌雄異株、でも、私と共になれば受粉ができる!」
今までのことを振り返り。
異様に混ざった感情が奥底からわきでてくる。
私は……コイツと……つがいとなるための……儀式を踏まされた……と。
「……橋を燃やしたやつは?」
「え? 橋を燃やし……ああ」
興奮冷めやらぬ様子だった神の目が細められる。
いかにも嫌なやつの話を聞いたというように。
「アレは我々の同胞を傷つけ葬り去っておいた。客人をも傷つけるのならアレは客人ですらない。植物たちによる慎重な審査の結果、土に還り我々に還元される刑に処されたため、ああなった」
コイツが目をやった先には何かの液体状のものとどこかで見た服があった。
ギリースーツ……
まさかカエリラス……コイツに負けた……?
「うわっ、まさか勝ったのか!」
「そおおぉんなことはどうだって良いんだよおおお!! ローズの顔に傷でもつけてたら死ぬことすらなく苗床にしてやるつもりだっけれどローズはかっこよく切り抜けて無事! 今が大事!! 過去の遺物より今の推し!!」
うわまたテンションが戻った。




