八百四生目 白獣
世界が白く染まっていく。
雪が積もったりはしていない。
降る雪はすぐに溶けてなくなる。
それでも世界は白い。
こんなに暑いのに。
雪は神の毒で世界の色を無くす。
「これ……不安になるな」
「大丈夫、悪さをしなければおしろいさまは怖くないよ!」
「悪さの範囲がよくわからないのが怖いんですよね……」
正直人身御供をしたあげく会うだけでこんな儀式をするだけでとんでもなく厳格なんじゃあ……
やめてもらうためにも今はとにかく出会って話すしかない。
この死装束をまとったまま機嫌をそこねないように。
カエリラスもどこかに潜んでいるかも……
警戒しているがココぞという時に来られたら困る……
「じゃあ、ぼくらはここでーお別れ」
「えっ!? 途中で!?」
「うん、ぼくたちはいけないからね。待ってる」
ヒュードックたちは私達の背後へと移動して座り込む。
逃げないように見張っているわけか……
仕方ないので前へ進もう……
それと同時に。
強化と補助詠唱!
敵にそなえる!
カエリラス……または神。
どちらでも手を抜けない。
全員に覚えている魔法を順に使っていく。
フル状態なら寄生ゾンビたちも蹴散らせる程度には戦力が増す。
今度は遅れをとらない……!
しばらく歩くとすっかりと世界は白に。
だが視界がひらける場所が先の方に見えた。
あそこが神の座かな……?
霧のような煙が立ち込めており視界が非常に悪い。
実際は霧よりたちが悪い。
毒でにおいがつき他のにおいすら遮断する力があるらしい。
表へ踏み出し霧をかきわけつつ進むとそこは久々に色づいたものを見た気がする場所。
毒沼のエメラルドグリーンが白い世界に生える。
毒沼の中にある陸地……? はやたら盛り上がっているがなんだろう。
……そう思ってから気づいた。
においが違う。
あれは……まさか……!
陸地だと思っていたものが音を響かせながら蠢き出す。
形が変わってゆき輪郭がはっきりしてくる。
あれは……丸まった獣のようなものの姿!
獣と断定できないのはこのにおいだ。
植物と動物が入り混じったようなかわったにおい。
これは……?
「うおお……!! でっかあ!!」
「俺よりでかい……北の森にいた魔物みたいだ」
毒沼の液が持ち上げられ巨体から大漁にしたたり落ちてゆく。
白がエメラルドグリーンで飾られ……そのそばから白に戻ってゆく。
霧が少しずつ晴れてゆき真っ白な身体の獣がその瞳を……開いた。
それは1つの美。
白で構成された肉体は行き着いた究極の自然芸術。
この圧倒的な気配……神に間違いない!
豊かな全身の毛は輝くように身を包み毒沼の上にいることをまるで感じさせない。
それとこの植物のにおい……
あの毛や身体はおそらく動物的肉質と同一化している……?
詳しくはわからないがだとしたらまさに……
自然を煮詰めて生まれた結晶みたいな存在だろう。
僅かな空白な時が流れ……
相手の言葉を待つよりも自分から話しかけたほうが良いか。
"観察"より先にヒュードックたちと同じ言語で。
「あなたが、神様ですか――」
「うわあああああああああああああああああーーぁーー!!!!」
え。
なに。今の。
言語がヒュードックたちと同じなのはかろうじてこの地の神だからわかるものの。
大口を開けての第一声が……え?
「あ、あの?」
「ヤバイイイイッ!! 尊いシンドいー!! 死んだ!!」
「おいローズ、こいつ大丈夫か?」
毒沼のうえで激しくジタバタしたり転がったり。
器用にもこちらにはしぶきをかけないようにしている。
なんだこの神。
「ア゛ッ!!!!!」
「今度は何だ?」
「も、もう一度やり直させて!」
毒の濃霧が再びあたりをしめていく。
あの……
まさか登場をやり直すつもりですか。
「……よくぞまいりました。私の片割れと守護たちよ」
「……うん?」
いやいまさらイケボで良いなおされても……
今更霧が徐々に晴れていく光景と共にキリッとした目つきされましても。
というより片割れって?
それにさっきの謎のテンションは何?
「さあ……」
大きい身体がざわめく音をたてながら頭を下げてゆく。
私を近くで視線が射抜く。
「シズイとユウズイを交えようじゃないか!」
「……はい?」
いきなり一体何を?
脳がうまく処理しない単語がポンと出てきたが……専門用語?
「何ってもう、本当に最高だよねキミローズって言うんだよねその私のために飾られた真っ白な姿が本当に最高だけどそれは素の部分がここまで良いから引き立てるのであって白いイバラが最高でああシズイとユウズイってほら雌蕊と雄蕊だよ」
めちゃくちゃ早口で何かを話し込まれる。
え? 何? 厳格な神様どこ?
それに何かやたや褒められ……待った。




