八百三生目 白雪
長がわけのわからない呪文を唱えるなか私が1歩1歩花を崩さないように歩く。
というかイロテナガってああいう風に話せたんだ……
うーん……この死装束を持って神の前で唱える言葉……
「ソォーミィウイウーシ! チィー! ハァァーシッおおぉ……ァアミィーヤッ!」
あ。確か祝詞とか言うやつじゃないか。
全然聞き取れないけど。
それにしても祝詞まであるだなんて本当に宗教だなあ。
「ォオメェー! サッラァーハッ! ミオウレウソウアガラァー!」
ついに祭壇の坂へ足をかける。
緊張の糸を切らさないようにしないと……
「コンジャラアァー! ダガァー……! ス、ワカアー! ツリャアーアーレェーコクゥー……!」
長の腹から出る声が凄まじい……
叫んでいるわけじゃないのに力がこもっていて響く。
まるで呪ってくるかのよう……
「カアンタイタル! ナアンニーゾッ、ナアンニーゾッー……!」
静かになった。
今まで歌うかのようにナニカを唱えていたためかギャップが凄まじい。
痛いほどに静寂が場を支配する。
私が台座の前にたどり着くと長がふたたび口を開く。
「少し、待て、読み上げる、取る、置く」
「途中で長さんがわかりやすく聞くから、そうしたら交換してね!」
えっ。
まさかまだあるの。
ここからが本番なの。
「イマアーアァー! イィチカァンギ! おぉもぉー……! ワァラァウオシィロォイゥー! アァラァイウイローズワオォ!」
あれ? 今私の名前言った?
ちょっとヒュードックの方に首を向けたらヒュードックたちが否定の意を示す。
まだ交換しちゃだめってことか。
「ヤアメントーノォ! スウコォークアァールトーノォ! ツオォメーントォーノォ! マアズウゥートォノォーーー! イツマァアァアウス! ウヤマウン! エェツウゥカアーーオォ……」
ま……まだかな。
「カァムウロオ! ローズウゥーアァムーウ、オシロオォインーマサァオー!」
い……今!? あっまだ!?
「ヤアメントーノォ! スウコォークアァールトーノォ! ツオォメーントォーノォ! マアズウゥートォノォーーー! イツマァアァアウス! ウヤマウン! エェツウゥカアーーオォ……」
……あれ? これさっき聴かなかった?
「チカァーアァヨオォー! カエェエェー! ヨオォー……
では、交換」
「えっ、あっ、はい!」
普通へ急に戻ったもんで対応が追いつかないよ!?
ええとくわえている輪を置いてある輪と交換して……と。
なんだかまだ植物の中に液が循環していそうで不気味。
振り返るとヒュードックやイロテナガたちが大喜びの歓声!
「「わあーー!!」」
「やったあ!」「いいね!」「わおーん!」
「ウム」「ヨシヨシ」
ええっと……もうおりていいみたいだ。
それではゆっくりと。
その後持ってきた輪を長に渡す。
「ウム。コレを、こう」
長が改めて私の頭にその輪を乗せた……
えっまだ運ぶ必要が?
「こ……この後どうすれば?」
「我ら、下がる、ローズ、向こう」
「案内するね!」
イロテナガたちは帰るらしい。
ヒュードックも少しだけ残る。
ゴウたちは後ろへ私はほぼ最前列で歩かされることに。
祭壇の向こう側……
ここだけ異常な空間なことに気づけた。
とても自然だが……道になっている。
他の魔物たちが作った道ではない。
作られたというよりなるべくしてなったとしか言いようのないまっすぐ続く道。
神への直行通路。
足場は固められておらず草も生え木も普通にありキキノコたちは元気に日光を受けている。
それなのに大きくただ直進できる道になっている。
ここには植物たちの妨害もつまづく石さえも自然にない。
神が作った神のための道。
そう実感せざるを得ない。
「……ん?」
「あれは……雪?」
イタ吉やダカシたちの声が聞こえるように進む先の道は色が変わっていた。
そして雨の天気だったはずの境目むこうがわ。
それはまるで雪のようで。
「これが噂の……」
「毒沼に降る、白い雪……?」
「おしろいさまは近いよ! あ、この雪はみんな触らないほうがいいかも!」
「えっ?」
ヒュードックたちがごきげんに話しているのを受けてダカシが嫌な顔をする。
身体大きいもんね……
まあ今の所魔法効果で雪は避けていっているようだが。
「これはぼくたちでも耐えられない毒だからね!」
「あたりが真っ白なのも、この雪の力なの!」
「おしろいさまの力!」
「これが、神の……」
歩めば歩むほど世界が白くなっていく。
あれほど原色を塗りたくったような奇妙な世界が。
何もかも脱色し白くなっていく。
雪の白じゃない……元から色が抜けているんだ。
これがこの雪の力。
幻想的な世界か……終末的世界か。




