七百九十八生目 除去
イタ吉がピンチから脱した。
「ワリイ、助かった!」
「補助魔法がない分、前に出ないで!」
「カバーします!」
暴れているゾンビたちは数で押してくるからさすがに100体もいるせいであっという間に船が埋まってくる。
ゴウもかなり頑張っているが詰められがち。
走り回って空いている場所を確保し弓で頭を撃ち飛ばす。
「クソが! 邪魔だ!」
ダカシは身体によじ登られているぶん余裕がない。
常に背から生えた腕の剣で切り払い暴れてよじ登りを振り落とし。
少しでも数を減らそうと頭の光る部分を叩く。
私はとにかく危なそうな相手を追い払ったり倒した寄生ゾンビを引き寄せて"リフレッシュ"をかける。
すでに寄生植物そのものは私のまわりにいくつもバラバラになって砕け散ってきた。
「強化魔法は!」
「無理!」
「ぐっ!」
ダカシが吠えるように求めるが補助や強化はこちらの作業が終わらない限り無理だ。
このロゼハリー姿だと魔法の詠唱枠はひとつのみ。
既に倒した寄生ゾンビが山積みになっているから手がまわらない。
一旦"リフレッシュ"をやめて強化に回る手もなくはないが寄生ゾンビたちがさっきから少しずつ復活するのだ。
今の所すぐにはたいて止めるがこれ以上になったら私も危険。
幸い"同調化"でこちらもむこうも状況が分かっているからギリギリを詰められる。
そしてギリギリだからこそダカシが求めるわけだが……とにかく耐えて欲しい。
残り数はみるみる減っているのだから。
時間が経ち残り50ほどまで減らした。
凄まじい勢いで攻め続けたがみんなだいぶ息が上がってきている。
生傷も耐えない。
この程度でへこたれるほど戦いなれしていないわけではないが……
「「ウォー」」「「ガァー」」
「ちいっ、気味の悪い鳴き声出しやがって……」
イタ吉が顔の汚れを拭い歯をくいしばる。
この寄生ゾンビたちやはりというかのんというか。
ほぼ宿主のことを気遣っておらず痛みも苦しみもシャットアウトしているらしい。
疲労もなく常に馬鹿力で押してくる。
特に今敵が強くピンチとみると寄生体同士無茶な連携をして数で押しつぶそうとしてくるようだ。
現在補助魔法も強化魔法も無いためイタ吉のようにうっかり組まれると力で脱出できない。
ヒュードックたちはちゃんと逃げれている。
私の側に積まれる『寄生ゾンビ』の山と『寄生体除去後』の山。
あとはもうどれだけ私は黙々とこなせるかどうかだ。
あっ。数歩先でゴウが回り込まれるな。
イバラを伸ばしてなぎ払い。
"同調化"しているためその把握も同時に向こうへ伝わる。
ゴウが駆けて私のイバラを避けたあと空いた場所に駆け込んで膝を付き爆裂する弓を射撃。
ゾンビたちは避けないから面白いように吹き飛ぶ。
ソレだけが救いだが……
「くっ、またですか!」
爆裂範囲ギリギリ外に第二陣。
肉盾を先にぶつけて本隊たちがすぐに突っ込む。
単純ながら恐ろしく効果的。
「おらよっ!」
イタ吉の分身がその前を舞う!
寄生ゾンビたちはフラフラと向きを変えた。
ゴウが一息をついて……そのスキに矢を頭の輝きへと放った。
そう。
キセイジューによって集団コントロールされるが別に寄生ゾンビたちがまともな思考を持って動いているわけじゃないのだ。
こちらが落ち着いて頭を働かすのをやめなければなんとかなる。
さらに矢がダカシの背にいる寄生ゾンビたちに連続であたり落としていく。
ゴウがフリーだとやはり強い。
「よし、今なら!」
ダカシが今度は船の上を一気に駆け抜け背の腕から剣2つを振るう!
ゾンビたちが面白いように跳ね飛ばされる!
足元や身体にまとわりつかなければダカシの打開力は随一だ。
かなりゾンビたちに対して有効な立ち回りが出来ていた。
結局思考能力が対してないため物量が処理されるとどうにも立ち回らくなってくるらしい。
さあてここからは私の仕事スピードが肝心か。
あ。山積みゾンビがうめいている。
頭の輝きを殴って静かにさせておいた。
さあ急ぐぞ。
「最後の……1体!」
結構なズタボロっぷりだがついに。
最後の寄生ゾンビから寄生植物体が抜ける。
そうしてバラバラになった。
「ようし、決まったな!」
「すいません、先にこちらの回復を――」
「――待てっ! なんだあれは!?」
イタ吉が手を振っていたがダカシの声に反応して振り返る。
そちらはキセイジューの方。
おとなしくしていてくれたら良いと思っていたが。
キセイジューの影付近からズルリと粘着音をたてて這い出てくるナニカ。
ソレは例えるならば粘液の塊。
人間大あるその塊に穴が3つ出来て下側にある穴ひとつが大きく開かれる。
「ギュガアアアアッ!!」
吠え声と共に明らかにアグレッシブに毒沼にとびこみ着地!
こちらへと向かってきた!