七百九十六生目 屍獣
大きな丸い葉のような形の船に乗って進む。
ヒュードックたちが引っ張るのでだだっ広いなか私はやることがない。
やたら植物たちから注目されている気がするし落ち着かない。
しばらくカエリラスを警戒していたが何もなく……
神というのも見つからず。
なんとか先手を打って人身御供から逃れ脱出したい。
うーん……うん?
「おい……あれ……」
「どうしよう……」
「進まないと駄目なのに……」
「どうしたの?」
先導していたヒュードックたちがざわめきだす。
毒沼の形的に大きくヌマグローブを回り込んだあとに何かがあるらしい。
聞きつつ"千里眼"!
「そ、それが……ゾンビたちの群れが」
「えっ!? ゾンビ!?」
ヌマグローブたちの向こうがわ。
そこにいたのは……
どこか覇気なくノロノロと沼の上を歩み続ける集団。
全員が南の森方面へと歩み続けている。
数はざっと100はくだらない大小様々な動物魔物たちだ。
共通項として覇気のない動き。
そして頭頂部が何か光っているような。
その光から大量の汁が分泌され全身を覆っている。
大行列は迫力があるが……何かに引っ張られるように歩くその様はとても不気味。
ゾンビと言われても仕方ないものだった。
あの液体……もしや毒沼を弾いている?
『ね、ねえ。この向こう側に変なのたちがいるんだけれど、それが頭頂部光っていてたくさん汁が出ているんだけれど、それのおかげで沼を歩けているみたい。もしかして……』
『ああ、それは目的のものかもしれませんね。私達が求めるのは木そのものですが』
『おっ、期せずして目標を見つけたか』
そういえばゴウにそのようなことを言われていたような。
ゾンビたちの周辺をよくよく見てみると不思議な光る実をつけた美しい木を見つけた。
ランプのように実がたれ白く発光してまるで……人工物のように美しい。
[キセイジュー 本体はほとんど攻撃能力がないがうっかり近づくと操っている魔物に頭を噛まれる。そうしたら寄生されキセイジューに操られる。ある程度したら回収して実のようにぶらさげ食べるのだ]
『あ! 木があった! なんだあれ!?』
『それの樹液さえ確保すれば僕たちも毒沼に沈まなくなりますが……危険な相手です』
船がヌマグローブを迂回して進めばついに直接ゾンビたちと相まみえる。
よしこの距離ならなんとか直接見える。
"見透す眼"!
彼らの頭の中を覗く。
光り輝くものが頭から這い出ているがそれは脳にまでつながっていた。
複雑に脳へ入り込んでいる……
おそらく毒素を出して特定の行動を指示しているのだ。
電気信号やホルモン受容体に割り込めばそのようなことは可能だろうけれど……
これで死んでいないのが凄まじい。
いくら他の部位で操作できてもマスター権限は脳が握っている。
あれに捕まったらまさに一巻の終わりだ。
「うわあ、見えた」
「たくさんいて通れないー!」
「近づくと危ない!」
ヒュードックたちもやはりなんとなくは理解しているのかかなりざわめいている。
強行突破すれば犠牲はまぬがれないからね。
キセイジューは1つだけじゃなく複数あるっぽいからこんなに巨大な列に……
取るべき行動は……
「みんな! 船を押して近づけて! 彼らを治療する!!」
「「ええっ!?」」
「そんな、いくらなんでも相手が危ない!」
「何、だったら俺達もいるだろう! よっ! と!」
イタ吉が小舟からジャンプしてこちらに乗り移ってきた。
理解が早くて助かる。
「そ、それに治療って……ああなったらもう助からない!」
「そういうみんなを見たことある……倒すしか……!」
「まだどうなるかわからないけれど……見込みはあるよ!」
ゴウやダカシも小舟を近づけさせてもらっているようだ。
こちらの船はドラーグの100%が乗っても沈まなそうな大船。
問題なく戦えるだろう。
「ど、どうする……?」
「どうするもうこうするも……」
「み、みんな、押そう! 引っ張るんじゃなくて!」
ヒュードックたちが駆けて背後に周りだした!
よし。これでひとまずヒュードックたちの安全は守られる。
一斉に大船を押して少しずつ寄生ゾンビたちに接近。
「首から上だけは絶対に噛みつきされないで! ああなる!」
「へっ、楽勝だな!」
「特にイタ吉はこういう時うっかりするから!」
「なんでだよ!?」
別にイタ吉の性格面だけの話ではない。
ゴウは接近しないしダカシは大きすぎて首上は反撃以外ダメージを負わない。
イタ吉はもうどう考えても位置的に喰らうから1番イタ吉が危険なのだ。
私の攻撃はリーチがあるし……
そうこうしている間に船は近づき寄生ゾンビたちが一斉にこちらを振り返る。
「「キシャアアアアァ!!」」
どうやら迎撃体制に入ったらしい。
迎え撃とう!




