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七生目 生存 食事時でない人はご覧ください

 私達子どもとハートの番はかなり後ろの方だ。

 それまでにハートのペアにいくつか群れの話を尋ねる。

 私達が今日初めてキングを見た理由はなかなか変わっていた。


 群れの掟でクイーンの子育て中は付近への立入禁止らしい。

 それはキングですら覆せなくてジャックの片側(今回は姉のジャックだそうだ)が近くで用事を伺える程度なんだとか。

 王女様のヒミツの園で私たちは育てられたわけか。


 王様立入禁止とか含め色々と妄想が膨らみそうな感じはある。

 いやまあ現実は私達が見た光景そのままなんだけどね。


「それじゃあ、あとは……さっき話していた、外の群れからやってきた仲間というのは彼らの中に?」


 多すぎて兄弟という実感が薄い面々だがさらに元々家族ではないメンバーもいる話だ。


「うん、一匹はね。もう一匹はまだ帰ってきていないみたいだ」


 あら? まだ別の役職があるのかな?


「と言う事は、まだ別のお仕事を持つホエハリがいるのですか?」

「そう、クローバーって言ってまあ探検するのが仕事のチームだからタイミングが悪いととことん会えないからね」


 今度はそう姉ハートが答えてくれた。


「別の群れから来たからと言っても差別しないであげて。もう同じ群れの仲間なんだから」

「もちろんです!」


 釘差しは当然である。

 イとハも同意したしそもそも兄弟だろうとそうでなかろうと会ってない相手なのだから大した違いはない。

 そうこうしているうちに自分たちの番が回ってきたらしくハートのふたりが動き出した。


 残りの食べ物。

 きのみはまだまだ大量に残っている。

 しかしバラされた鹿系魔物の肉はもはや原型をとどめていない。

 かなり綺麗に解体されていて残る可食部分は足とか尾とかか。


 ちなみに股の部分は無し。

 食べ残しといっても過言ではない。


「あ、キミたちの食事はこっちじゃないからね」


 3兄弟で生々しい死のにおいに顔をしかめていたらハートがそう訂正した。


「このきのみから慣れてもらうよ」

「かたそう〜」


 ハがきのみを突きつつしかめっ面。

 まあ実際固いだろうなぁ。

 からを剥き潰してアクをザルか何かである程度とってから良く茹でてなるべくアクを除いてからペースト状になるまですり潰しその後味を調えてからよく焼いて上からバターとはちみつをよくかけていただきたい。


 こんなことをさらっと思いつく辺り私は前世ではそれなりに食事に通じてたのだろうか?


「まあね、だから私達が柔らかくするから、それから食べようか」

「よく食べよく眠りよく学ぶ、それこそ、はなまるな仔どもだよ!」


 ハートのペアが姉と兄の順でそう言ったがいわゆる離乳食を作ってくれるのだろうか?

 私としては最悪生肉を食べる覚悟をしていたのでとてもありがたい。

 3兄弟仲良く並び座って待つことに。


「さて、確かこうやって……」


 そう言うとおもむろにハートペアはきのみをムシャムシャ食べ始めた。

 えっと?

 私が呆気に取られている間にその"離乳食"は完成した。


 彼らの口から出てきたものは確かに柔らかいかもしれない。

 えっと……これは頭の中で想像しては行けない類の奴だ。


「さあ、ここまでしたなら大丈夫!」

「よく噛んで食べてな!」


 うええぇぇ。

 地面に直に置かれたそれシャレになってないですよ!

 ああぁぁ……どうすれば、どうすれば良いんだこれは!


 ハートのふたりはやりきった感溢れてるし!

 自然界厳しすぎない!?

 人間の赤ちゃんがコレ出されたら速攻で母乳に戻るよ!?


 あわわ……兄弟ふたりが顔をしかめたままのろのろと動き出した。

 そして舐めるように食べ始めたーッ!

 私か! 私が悪いのか!?

 下手に前世の意識を引きずっているから!?

 ぼんやりとおいしいご飯の存在を知っているからダメ!?


「どうした?早く食べないと兄弟たちにみんな食べられちゃうぞ?」


 ウワーお兄さんが朗らかな笑顔だー!!


「最初はびっくりするかも知れないけれど意外と食べられるからね!」


 お姉さんが微妙にズレた応援の仕方だーッ!!

 つらい! ハートペアの健気さがつらい!

 兄弟たちがなんやかんやムグムグ食べてるのがつらい!!


 お腹は減ってるはずなのに頭から上が食欲そのものを抑える程度につらいッ!!

 うああ……やるしかないのか……

 私はふらふらとした足取りでゆっくり進めて行った。


 私は細いバランス台を歩くような足取りで戦地へ向かう。

 ふらりふらり。

 僅かな距離がはるか遠い。


 わかってる、私は兄弟が食べ終わるのを期待してしまっている。

 だから時間さえたてばって思ってしまっている。

 一歩あるくごとに濡れたアクだらけのきのみと不快なにおいが混ざり合い良く表して生ゴミの臭いが強まる。


 目が回る。

 こ、これが……

 生きるという……

 事なのか……


 距離が短すぎる。

 当たり前だ目の前に置かれたものだ。

 時間稼ぎしようにもぶっちゃけ数歩でついた。

 主観での時間感覚は一時間くらい戦っていたのだがどう考えても流れた時間は僅か。


 あまりに嫌なことから気持ちを避けたい集中力で達人の極みにたどり着く所だった。

 結局私にはこいつに口をつけるという選択肢しかない。

 でなければ飢え死ぬ。


 それは私の大目標である生き延びるという事に反する。

 それに、それにえーっと……

 そう! 私は生き延びる事を手段に前世での私がなぜこちらの世界にこれたのかを探らなければならない!


 そして失った記憶を埋めこちらの世界にやってきた理由を完遂しなくては!!

 私は殺されるわけにはいかないからと言って餓死を選ぶわけにはいかない。

 いかない、いかないのだから動け私の身体!!


 めっちゃプルプルしている!!

 生まれたての子鹿か私は!

 生まれて3週間、生まれて1分の子鹿に先輩ヅラしなくてはならない!

 震えていてわぁッ!

 いられぬのだぁッ!!


 この日私は、たとえ人ではない身だとしても調理を習得しようと心に決めた。

 正直味はわからなかった。

 なんというか、わからなかった。


 わからないけれど息を全力で止めなければ私は今頃母の隣で安らかな顔をして冷たくなっていただろう。

 だから、調理を習得します。

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