七百九十四生目 儀式
「をみちびの儀……?」
「さあ、ローズ、こちらへ」
イロテナガの長が私を指す。
まっまた私!
「まっ、待ってください! そろそろ説明を!」
「大丈夫、大丈夫! 全て良いようになるように、これからおまじないをするだけだから!」
嘘をつけ!
いや彼らにとっては嘘ではないのか!?
そうこうしているうちに引っ張られ歩かされる。
「さあ、君たち、こちらへ」
「ローズ! 俺達はこっちにいるからな!」
「う、うん!」
イタ吉たちは別の方向へ。
多分観客席のような場所に。
対して私は中央ど真ん中。
するといきなり周囲に葉を縫い合わせたカーテンみたいなのを持つイロテナガたちが周りからやってきた!
そして私を囲む!
な……なんだ!?
視界程度が軽く阻害されただけでこんなのはなんでもないが……
攻撃ではないとしたら?
すぐにカーテンの向こう側から追加のイロテナガたちがやってきた。
その腕には抱えきれないほどの草花が。
「コレは一体!?」
「おとなしく、しててね!」
「飾り付け!」
「きれい、きれい!」
「わわっ!?」
めちゃくちゃあちこち全身に草花を押し付けられる!?
うわっ!? ちょっとどこ触っ!
あわわ!?
あっという間に終わってカーテンオープン。
そこにいた私は。
「「おおーっ!!」」
「ブッ! フフッ!!」「え?」「うわ」
イタ吉後で覚えておけよ。
……私の全身至るところに結われた花々。
尾の白いイバラにすら輝かしい花がいつの間にか咲き乱れ。
毛並みも整え加工しなんだか上品なたたずまいに。
首に草の輪をかけられている。
また"鷹目"で見てみたら絶妙にセンスが良いのが困る……
化粧のような塗料的なものもちょいちょい使われたっぽいなあ。
左右に立ち並ぶイロテナガたちが植物たちを身構える。
あれは……武器ではない?
最初の音は叩くもの。
低く響く打楽器に似た音が響きそれに合わせて一斉に音が鳴り出す。
弦楽器だったり吹奏楽器だったりソレは様々だが奏でる音楽は1つ。
まさにこの時のために準備し練習されたかのような音楽。
ニンゲンの作ったものとは違った原始的な……
それなのに神秘性そのもののような。
まさに自然の歌が響いていた。
「さあ、前へ」
4匹のイロテナガたちが私の前をゆっくりと歩む。
1歩1歩完全に同期して。
……乗って利用すると決めたんだ。やらねば!
少し遅れ私も同じように歩む。
イロテナガと違って4足の私は前後を同時に動かしていく。
あと単純にイロテナガの歩幅が狭いのもあってかなり調整してゆっくりに。
彩られた道に満ち満ちた香り。
それは透き通るような美しさを持つ気品高き香り。
そして巧妙に隠されたかぐわしい毒のにおい。
雨により余計に混じったそのにおいだけど昨日のアルコールも残っていないしわかるぞ。
果たしてこの中でその毒についてわかっている魔物はどれほどいるのかわからないが……
なにせ彼らほとんど毒が効かないからここにいるんだし。
ただこの毒は結構危険だ。
ゆっくり歩めば知らずしらず汚染されるだろう。
ジャンルとしては麻痺毒とか……麻薬とか呼ばれるもの。
『みんな、意識してただよう毒を防いで。多分、アルコールに近い毒』
『何ぃ!? マジか!』
『……もしこの配置も神の指示ならば、侮れませんね』
『ゆっくり歩かせている間に……ってことが』
"以心伝心"の念話でみんなに危険を伝えた。
私も意識してこの毒を無効化する。
あくまで薄そうだからこれで防げるはずだ。
頭を麻痺させて正常な思考を奪い違和感をごまかし逃げられなするつもりか……
そして周りのイロテナガやヒュードックたちの心理を"見透す眼"でチェックしていくが感じられる思考は歓喜や緊張でほとんど。
明確な頭の中のつぶやきを拾えることもあるがほぼ感嘆符……
つまりは知らない。
彼らすらもこの異常な世界にのまれている側とも言える。
……やっとイロテナガたちが止まった。
そそくさと左右に別れて離れる。
正面にはたくさんのヒュードックたちぎ待ち構えていた。
宗教によって群れを越えて繋がる彼ら。か……
「おおー!」「すごい!」
「かわいい!」「美しい!」
「すごいすごい! じゃあ、こっちだよ!」
ヒュードックたちが一斉に動き出して道が開く。
褒められる言葉ひとつひとつがなんだか濁って聴こえるのはさすがに穿った見方し過ぎか……?
そもそもなんで私がこんなことに選ばれたのだ。
開いた道の先はそのまま歩いていいらしい。
ぐぐいと進めば今度こそ毒沼の近くへ出る。
ヌマグローブの道は下の毒沼まで続いているのがあったのか。
そこにはこれまた彩られた船が用意されていた。




