七百九十二生目 酒飲
「「乾杯!!」」
「か、乾杯……」
豊穣来華の宴と呼ばれるもの。
前日の食事も気合が入っていたが今日のは一線違う。
ヒュードックがいることを考慮しても食事が食べ切れないほど山となっている。
ちなみにイロテナガは果実食でヒュードックは雑食の草食寄りだ。
たくさんの果物や草や実やらで山盛り。
元気が出そうな組み合わせだ。
なお全て辛い。
イロテナガやヒュードックたちはそうでもなさそうだが。
あとイタ吉。
「もぐ……むぐ……うん! やっぱイケるな!」
「あーっ、辛い! 水!!」
ダカシはそうでもなさそう。
ゴウは静かに食べるが辛そうなのは見てわかる。
ゴウは特に毒への耐性を装備で獲得しているだけだからね……
それでだ。
昨日と1番の違い。
それは私に用意された席が何段か高く。
そしてやったらめったら豪華に飾り付けされているということだ。
この世界は金銀の代わりに色の強いの植物たちに恵まれている。
多分ニンゲンの世界に持っていったら毒で価値が上がったり下がったりするだけで。
「我らの代、ついに、この時――」
「いやあ良かったよかった! まさか――」
「ねえねえ、あそこにいるのが?」
「ああ、そうだ」
話があちこちから聴こえてくる。
なんかおかしいなと思ったらなんかヒュードックが増えてないか!?
ヒュードックたちがあちこちからやってきているのか。
そんな大事になるとは思っていなかった……
そもそと私としては沼渡りをしたいだけであってなぜ彼らはここまで親身に?
聴こえてくる単語もなかばおかしい。
無理やりここに座らされ私の方を見る目が止まらない。
ちょっとはこういうのに慣れたつもりだったが……
なんというかアノニマルースで味わうそれとは種類が違う。
殺気ではない。
悪意もない。
それなのにここまで気持ちの悪い視線たちは初めてだ……
そうこうしている間にも私の前にイロテナガたちが何やらひょうたんのような植物をもってきた。
上が口になっており最初から置かれていた豪華そうな赤く塗られた木皿に中身が注がれてゆく。
「さあさ、これ、どうぞ」
「これは……?」
「一気に、ダメ、一口、含む、ゆっくり、飲む、良い」
これは……酒?
色は赤黒く淀んでおりとてもそうは見えないが。
においにアルコールが含まれている気がする。
おそらく薄め。
"観察"したところやはり作られた酒の類らしい。
いわゆる漉していないお酒だ。
おそらく詳しい系統をわかって作られているのではなくたまたま出来るものをありがたがって集めてあったのだろう。
おそらくにおいが果実系……
植物の中に保存しておいたらたまたま発酵してそれを繰り返すようになったり?
考察はともかくとして。
なぜか周囲がすごくこちらを見つめてくる。
なぜだ。さっきまでもう少しはマシだったのに。
コレは飲まねばおさまらないのか……
断るつもりはあんまりなかったとは言えなんかすごくもやもやする。
……ええい!
皿に口をつけるように舌ですくい上げる!
言われたとおりひとなめきて口の中に含み……
……あっ! 甘い!!
ええっ!? この世界の食べ物なのに甘い!!
しかも甘ッ! かなり甘い!
どろりと粘り気があるのは見た目どおりだったが……
これはかなり驚いた。
この味ならゆっくり飲めそうだ。
「……おいしい!」
「「おおー!!」」
「さあさ、みんな、分ある」
「いやあ、良かったよかった」
「彼女にはたくさん飲んで貰わないとね」
みんな私よりもかなり小さい皿に少しずつ酒を取り分けて飲んでは舌鼓を打つ。
なんというか私の方はなみなみとあるんだけれど……
というか私のひとことでなんであんなリアクションが?
希少な酒なら特に私になんてわけず身内で回すのが基本のはずだけれど……
豊穣来華の宴……より怪しいところが満載だ……
まあ視線は和らいだからちびちびいただこう。
「あううーんー」
「ほら、あんなに飲むから!」
「だって、止めても止めても注ぐもんうんー」
なんかイタ吉に運ばれている?
どこに?
あー寝床かあ。
うーん困った困った。
身体がポカポカする。
頭がゆれ〜る〜。
なーんかどんどんつぐんだもん〜。
困っちゃうなぁ〜。
(ふにゃほにゃらぁ〜)
(う〜、周りが3つに見える……)
ま〜。水も飲んだし〜
私のロゼハリーとしての〜毒耐性も高いし〜?
残らないとは思う〜。
「ほら、ついたぞ、寝ろ寝ろ」
「うん、ありがとぅ」
ふかふかベッドでいい感じー。
……?
ベッドってこんなんだったっけ?
まあいいや〜。おやすみ〜。