七百九十生目 不審
「気配……? ちょっと様子みてくる」
ヒュードックの群れを見つけた。
私単独で来ているからまだバレていない。
気配をできる限り殺す以上に弱化してある。
警戒の薄さの原因はそれだ。
そしてここで光神術"サウンドウェーブ"に"エコーコレクト"!
"サウンドウェーブ"は普段の会話にも使い"エコーコレクト"は気体の振動を遠くに届けたりよせたり出来る。
そうこれを組み合わせて出来ることは!
「「落ち着いてください。今姿を表します」」
「うわ!?」「なんだ!?」「声が響く!?」
まるでトンネルのような不思議なエコー!
いわゆる演出である!
さあ頑張れ私恥ずかしがるなよ。
「「驚かすつもりはありません。申し訳ないです」」
前へ歩み寄り影から出る。
それと同時に僅かに気配の弱さを変える。
わずかに強く……そして殺していた気配は解除。
相手に異様さをかもしだせればそれで良いのだ。
とにかく8頭たちにこちらを見てもらわねば。
「「私はローズ。イロテナガたちとの知り合いで、ツテを頼って来ました」」
ポーズはわざと仰々しく。
彼らに合わせて雰囲気に飲ませるように動く。
それで強さの気配を忍び込ませる。
声も普段よりも美声と言うか……
ちょっと外向きの音にしている。
それをエコーでグワングワン鳴らすのはまさに不可思議な世界観を生み出すだろう。
とにかく敵対させてはならない!
だから……"無敵"を常に展開!
とにかく近くにいかねば!
「え、あ、あれ?」
「イロテナガ! 知ってる知ってる!」
「ど、どうしたらいいんだ」
「「イロテナガに、沼を渡るにはあなたたちの力を借りれば良いと聞きました。なのでお願い――」」
「……きれー」
えっ?
今なんか流れと関係ない言葉が飛んできたような。
「ねえ、あのひといいよね?」
「え? う、うんそうだね、そういえば……」
「ねぇねぇいいんじゃない?」
「おしろいさま?」
「良いね」
え? え?
さっきまでの雰囲気がどこか吹き飛んでしまった。
緊張感はなくなりざわざわしだす。
しかもなんか褒められているような何かを見定めするかのような。
8頭の目がさっきまでの困惑と違って爛々とこちらを見抜こうてしている……
これは……まずい?
「え、ええと……」
「良いよね?」
「うんうん」
「じゃあ! 良いってことなので行こうよ!」
「……え?」
ほぼ無警戒に8頭全員に囲まれてしまった。
一体何が起こっているんだ!?
「ほら、毒沼を渡りたいんだよね。行こうよ」
「え!? いいんですか!?」
「ああ、かしこまらなくていいからさ、普通に話して。さあさ行くよ!」
なんだ……?
何が起きたんだ!?
なぜあっさり了承を……?
良いけど。うれしいけど!
何かがおかしい……
ダカシたちと合流した時は驚かれたもののなぜかまたすんなり。
"無敵"はもちろん効く前に終わらせちゃっている。
うーん……?
しばらく移動してまた植物たちが襲撃してきたのでヒュードックたちが隠れている間にみんなで撃破。
"無敵""ヒーリング"かけて治したら戦意をなくしてダッシュで逃げていった。
……うん。もう根っこで走りまくる木とか見てもなんとも思わないからね。ね。
「ふう!」
「ははは、完全勝利」
「す、すごい……」
イタ吉の笑い声で安全だと判断して8頭とも影から出てきた。
翻訳されているからこういうところもすぐに話が通じるのは昔を思い出すと楽。
全部私が翻訳していたからね……幼い頃は。
「どうだ見たか! 俺の力!」
「ローズ、やはりすごい、」
「もうさまってつけるべきかなあ」
「まだだ、アレの後だよ」
「ローズカッコイイ! 最高ー!」
「え? え、あ、ありがとう……?」
またである。
イタ吉をスルーして私に対して異様な態度を取る、
サムズアップしていたイタ吉が固まっている……
「まあ、見ていましたよイタ吉君の活躍は」
「俺達もがんばったもんな」
「……うおおーい!! 俺は、俺達は!?」
1頭がイタ吉たちの方を振り返りなんどか口をあけたり閉じたりしたあとにまた私の方に振り返ってわいのわいの褒め言葉。
イタ吉はさらに怒っているが私にはどうしようもない。
ええ……なんだろうこれ。
その後も何度か遭遇戦があり戦って私だけが褒められる。
私からも言ったのだが、
「これは、仕方のないことだから」
の1点ばり。
さすがに私もあまりに怪しいと思っている。
ただなんとか道に戻って北の森を無事に抜けれた。
あとは沼地の橋を渡りきるだけだが。
[イタ吉>なあ……本当にこいつら、大丈夫か?]
[私もそう思う……]
ログを使って無言の会話。
さすがに秘密会議を8頭に聞かれるわけにはいかない。
 




