七百八十九生目 毒犬
あちこちに毒の持っている植物たちが無残な姿になっている。
道から外れたところは植物たちが縦横無尽に襲ってくるはずなのに……
まるで意に介さず食べているかのようだ。
毒を食べる……
異様な光景ではあるもののこの世界では理にかなっている。
そもそも毒が毒として効かなくて栄養変換できるのはどの種族も多かれ少なかれある。
そして多分これらを食べたのはその毒に特化して食べているのだ。
確かに毒沼も泳げそう……
"千里眼"!
視界のひとつが独立して地面に対して並行移動できる。
"鷹目"で慣れているし混乱はしない。
思った方向に視界を動かすというのは独特の慣れが必要だし余計にね。
痕跡を次々と追跡していく。
明らかに植物たちの罠を踏んでそのまま破っているのでそこまで苦労しない。
「うーん、あっちの方向に痕跡がしばらく続いているみたい。追いかけよう」
「よし、楽しくなってきた!」
「俺のデカイ身体だとうっかり罠の範囲にかかりそうなのがな……」
「仕方ないので順に撃退しつつ進みましょう」
ダカシの身体は隠すには大きすぎる。
対して追っている相手は全部の植物たちを倒しているわけはない。
植物魔物もうろついているだろうし無傷で通してくれるほど甘くはないだろう……
「結構深いところまで来たな」
「うん、と……あったあった。あっちの方」
歩いたり探ったり戦ったりと繰り返してしばらく。
"千里眼"のおかげで痕跡をかなり先回りして見つけれている。
どこまで続くんだろう?
さらに視界を飛ばして……うん!?
今の影!
何か獣がちらりと視えた!
視界をグリグリ動かして追いかける。
エリンギ型の巨大キキノコを回り込み……
茂みがそのまま大きくなったような場所を抜けていく。
さらにその先に……
たくさんの獣たちがそこにいた。
この大きすぎる世界であまりに小柄。
"観察"!
[ヒュードック ソーバが恒常的な毒に晒されることでトランスする。手足の先は強い対害性を持ち、大きなそれの指のスキマにある膜で、毒沼を渡り歩く]
ソーバとはホエハリの親戚で草のような魔物だ。
本当にいた……!
その見た目はまさにソーバに近く親近感がわく。
しかし前足には特徴的な葉がすらりと上に伸びている、
明らかにスパスパと切れそうな見た目。
そういえば今までの痕跡でもスッパリと斬り裂いたものがあったなあ。
足元と尾先がエメラルドグリーンなのは毒沼色に染まったのかな。
全体は森の保護色に合わせた色あいだが白っぽくなっている個体もちらほら。
白髪かな。
"千里眼"を切ってと。
「いた! もうちょっと奥にいるのが能力で視えた!」
「でかしたローズ!」
「まだ植物魔物たちの気配がします。油断せずに行きましょう」
私の誘導で植物の視線をかいくぐりつつ見つけた場所へと移動した。
近くまでなんとかこれた。
道から外れるだけでデンジャー率が跳ね上がるのはなんとかならないのか。
変な汗かいた。
この位置からさっきのところにいたヒュードックたちが見えるはずなんだが……?
「あれ、誰もいない?」
「場所間違えてるんじゃねーの?」
「いや、きっと……」
ゴウがダカシの方に視線を向ける。
この巨大キキノコの森でもそこそこ目立つ黒い巨体……
「あー、なるほど。先にバレたか」
「その可能性はあるかと」
「攻撃するつもりはないけど、気持ちはわかるかな……」
私だって森の迷宮時代にこういうのが来たら逃げる。
けどその場合逃げ先は決まっているから……
そうだな……
まずはこの周辺の地形をサーチ。
光魔法"ディテクション"と"千里眼""鷹目"を駆使しつつ周辺のマッピング。
私の種族の親戚ならだいたい似たことを考えるはずだから……
「じゃあちょっと私だけで話してくる!」
「ああ、頼んだ。攻撃されたら呼べ」
私はみんなを置いて素早く追跡を開始した。
まあ近くだろう。
よしいた。
予想通りの動きで助かった。
再集結してくつろいでいる様子。
背に生えている長い葉っぱたちのおかげでじっとしていると隠蔽率が高いのだ。
青紫色の身体がこの熱帯雨林では馴染むので不思議なものだ。
ちょっと開けたところにいた。
さて接触するには……
ホエハリ系統はソーバ含めて群れ内以外はほぼつながりがない。
ここにいるのは8頭。
おそらくは全員だろう。
単に接触すればバトルはまぬがれない。
少し賭けになるが分の良い方に賭けよう。
「さっきのやつ、びっくりしたねえ」
「ちょっとビビッた」
「うん……? 誰かの気配が……」
よし今だ。




