七百七十八生目 最強
南の森行きの道へとついた。
さすがに高所から毒沼付近まで道は下りたようだ。
ここからヌマグローブの橋を渡り毒沼を渡る材料を取りに行く。
橋を渡るだけだからまた植物たちの空襲あたりに気をつければいいだけだ。
「楽ではあるけど張り合いはねぇよなあ」
「何も起こらないことそのものは良いことだが……だからこそ嫌な事に気を配らないとな」
「例えば……?」
「まあ空襲もそうだが……また妹が襲ってこないかとかな」
「カエリラス、ですね」
橋を渡るために駆けてゆく。
雑談がこなせる程度の速さでね。
余裕を持った走りでないとまさに危機に対応できないからね。
ダカシの妹……アカネ。
魔王復活秘密結社カエリラスの一員としてなぜか襲いかかってきた彼女……アカネは私との戦闘後召喚獣に回収されてしまった。
つまりまだ向かってくる可能性は高い。
なぜアカネちゃんは襲ってくるのか。
ダカシのことに関して何も反応しないのはなぜなのか。
ダガシの姿が変わっているにせよ名前に反応を示さないのはおかしい。
ニセモノ……ってだけの線は考えづらいだろう。
何か裏がある。
あの強さも含めてだ。
もし彼女がここで思う存分暴れられたら私達ではどうしようもない……
私はネオハリーではないという点も大きい。
警戒には十分すぎる理由だった。
「まあカエリラスが襲ってこないのが1番だよ」
「なんか、あの植物たちと戦っても面白くないというかさ、やり合ってるというより、処理されそうなのをどけているよというか」
「ああ、気持ちはわかります。疲れますよね……」
「……うん? なんだ、向こうの方」
苦笑いしつつダベっていたらダカシが前方に注目する。
私も見てみたら遥か向こうに立ちつくす何か。
ニンゲン……いや魔物?
姿だけではよくわからないのは全身をギリースーツで覆っているからだ。
つまり草の迷彩服。
草の魔物かと思ったがにおいが違う。
冒険者……? いずれにせよ警戒。
歩みを緩め全員戦闘体制をいつでもとれるようにする。
「なあ、アンタは――」
「むっ、魔力!」
「やるのか!?」
私の言葉で全員身構える。
だが相手は悠長にしていた。
攻撃魔法……ではない?
そっと腕らしき部位を前に伸ばすと空中に光の軌跡が走る。
そうして描かれていくのは……帝国文字!
これは!
「文化系魔法の"ライディング"! しかも空中転写とかレアだ!」
「あ、それは後で聞きますのでまずは読みましょう」
いけないいけない。
ついレアな魔法を見られてテンション上がってしまった。
当たり前だが空中に書いて正面の相手に向かって書くには文字を全て左右反対にしなくてはならない。
魔法だから結構まっすぐに書くことはできてもここが大変なのだ。
同時にこなす難易度は高い。
わざわざ習熟するのは物好きだということは間違いないだろう。
ええと書いてあるのは……
[こんにちは、諸君]
文章は一旦消えて書き足される。
「お、おう、ちは」
[今回は、散々苦しめてくれたキミたちに会いに来た]
「何!? ということは……!」
ダカシが低く唸りだす。
獣がいっちょまえに身に付いてきたがそんな事に集中している場合ではないか。
さらに文字が新しくなる。
[カエリラス最強と謳われる私が、小手調べをしてやろう]
さすがに散々調べた痕跡のせいでどこに行くかがバレてしまっていたか!
何をするかと思いきや今度こそ強烈な魔法反応!
危ない! 聖魔法でカウンターマジック!
[バウンスバック 対象を魔法から守りつつ跳ね返す]
相手は大きめの魔法準備だから間に合う!
範囲拡張し私達をひとまとめとして認識。
拒絶するという聖魔法の本領発揮!
「ローズ!」
「間に合えっ!」
[舞え]
敵の周囲から炎が足元を張って素早く出てくる!
目の前まで炎が迫り……
魔法展開!
素早く光の膜が展開され私達正面側を覆う!
炎は波のように勢いよく広がり光の膜だけは避けて遥か後ろまで広がる。
つまり大きく裂けた形だ。
跳ね返された炎は敵を炙る……かと思ったらすでにそこにはいない。
ただ空中に文字が残されている。
[楽しんでくれたまえ]
「あ、あいつ!」
「ローズ! 木が!」
「なんつう火力だ、橋が燃える!」
なっ!?
今ので炎がヌマグローブの道に広く引火した!?
木とは言え今も生えている木が一瞬で引火を!?
「前から来てます! 焼け落ちる前に走りましょう!」
「う、うん!」
言っている場合ではないか。
今は炎の手から逃れねば。
炎は前方広く広がっていて魔法が跳ね返しているが……
後方は道がまだある。
"バウンスバック"もいずれ消えるから今すぐ走ろう!




