七百七十六生目 辛味
虎の爪というバナナは辛かった。
最初のにおいがひどく甘く口に含むと火を噴く。
けれどまずいかというと美味しい。
なんだこれは!?
食べれば食べるほど味の整理がつかず美味しいけどわけがわからない。
混乱する……!
「あ、1本食べきっちゃった……」
な……なんだったんだろう。
未だ口と鼻の中が整理つかない。
まだ房にはたわわに実っているから後にしよう。
ではもうひとつの木苺であるアカラベリーは……
こちらは1つが一口サイズの小柄なきのみ。
たくさんなっていたので少しいただいた。
においはそこまで主張しないみずみずしい甘さ。
だけれどもさっきのことがある。
警戒しつつ1つぶ口に含んで……
噛む。
口いっぱいに広がる果汁。
そして含まれる毒。
毒そのものは効かないのだが……
「かっ!?」
チカッと頭の中が輝いた!
一瞬のきらめきの名は激辛。
意識に光がついてすぐ消える瞬間激辛剤だ!
一瞬口も鼻も焼けたかと思ったが今はなんともない。
ひらめくような辛みと後々にひくうまみ。
ううむ……なんというかすぐ次を食べたくなる。
「どうだ?」
「ううん、おいしいかどうかで言えばおいしいんだけど、だいぶ求める方と違ったかな……?」
「おまえ、結構甘いもん好きだもんなあ」
「へえ、そうなんですか」
な……なんだろう。
イタ吉のフリにゴウまで反応してきた。
「た、確かに甘いものは好きだけど……」
「へぇ、ローズもなんか普通の点もあるんだな」
「ダカシまで、ええ、私別に変な物好きじゃないよ!?」
失礼な。
携帯パンをかじりつつアカラベリーを放り込む。
結構マッチしている……
アカラベリーが弾ける強烈さで携帯パンは柔軟さがあるので味わいがちょうど合わさり飽和する。
うまいなあ……なかなかいける組み合わせを見つけた。
求める方向性は違ったがこれはこれで。
「ムグムグ……なんっかローズはそういう風に思われる所あるよな?」
「ローズはもっと変な類のイメージがな……っんく」
「ですね。今も取ってきたものをいきなり食べてますし……うん、うまい」
「みんな私のことなんだと思っているの……」
ひどいものである。
虎の爪とをムシャムシャと食べ……
お茶を絡め含む。
うんうまい!
複雑な二重のにおいが収まってかわりに芳醇なかおりに。
甘辛いモチモチとした実がより味わいやすく。
うん……意外と当たりだった!
歩みを再開。
キキノコの森をそろそろ抜けると言っまところで。
そこには高い見上げる崖があって……
「滝だー!」
「うわっ、虹、じゃない! キキノコってやつか!?」
イタ吉の叫びの通り激しく崖から水……ではなく毒が流れていた。
見た目だけならエメラルドグリーンできれいだから困る!
更にダカシのいうとおり崖に沿って大きくいくつも展開している虹。
だがさすがにこの距離だとわかる。
大きなおおきなキキノコってだけだ。
景観という点だけなら100点満点なのになにもかもヘンなのがもやもやとした気持ちになる。
「見た目はきれいなんですがね……」
「イタ吉、うっかり飛び込まないでよ?」
「しねーよ!」
道に沿う形で滝壺を迂回する。
そのままぐんぐん進めばキキノコの森を抜けるようだ。
"千里眼"で視えた。
植物からの視線は途絶えることがない。
気を引き締めて道になっているところを歩もう。
何回か戦闘をこなしたあと大きな沼地が見えてきた。
大きなキキノコたちがなくなり代わりにエノキアシの林になってきている。
背が高くとも細いので意外と見通しが良い。
さらにそこも抜けると。
「ついにここまで来ましたね」
「うわあ……これは、厳しい」
「全部毒か……」
「踏み外さないようにしないと、この身体の大きさじゃあ……」
目の前に広がるのは大毒沼。
そうとしか言いようがないほどに遥か遠くまで続くエメラルドグリーン。
ただ静かに広がっている。
そしてヌマグローブがあちこち生えていてまた道のようにつらなるところも。
あれでしばらくは渡っていけそうかな。
「こうやってこの大毒沼を見せつけられると……毒沼を渡る方法が必須だと感じますね」
「こっからどこへ行くんだ?」
「現在は西の森……毒沼を渡って一旦南の森に行きます。そこで沼渡りの品を調達できるはずです」
大毒沼は見渡す限りはずっと続く。
"千里眼"で見渡すと遠くにヌマグローブの森が視えた。
あそこまでは一本道だ。
毒沼の一部が赤いと思っていたらゆっくりと顔を出す存在。
真っ赤なカバだ。
それとも汗なのかな?
あのカバも毒沼を無事に渡れる希少な存在らしい。
しかし狙うのはあのカバではない。
刺激しないように歩みを再開した。




