七百七十四生目 木茸
謎の整備されている道を歩む。
ヌマグローブの根や枝伝いに安全毒沼渡りもしつつ何度か通り抜け……
なんだか思っていたより拍子抜けに危険地帯を歩んでいる。
私達のそばを敵意のない小さな魔物たちが道沿いに駆けるのをなんども見かけた。
どうやらちゃんと普通に魔物たちも使っているらしい。
私達と敵対する魔物にも出会いやすいということでもあるから気をつけないと。
「うん?」
今の気配……なんだ?
どこからか私達が見られている?
まるで獲物を品定めされるような……ハッ!
「どうしたローズ――」
「危ない!」
「うわっ!?」
私が警告した方向。
イタ吉がわずかに道を外れたその時。
そこに立っていた赤い樹木がいきなりその大枝を振り下ろしたのだ。
イタ吉が持ち前の反射神経で跳んだ!
大きく地面を叩き潰す!
もう片側からさらなる追撃!
「ぬおおお!!」
イタ吉が着地してそのまま転がり道まで逃げる!
道の端にきっちりと大重量の枝が叩きつけられた!
「っよし! 来い!」
イタ吉が体制を立て直して敵に向き合う!
…………
あれ。姿勢が普通に戻ってしまった?
「ん……? あ、あれ」
「これは……道の意味がなんとなくわかりましたね」
植物の多くは歩かない。
たまに歩いたり空を飛んだりしているが。
固定された位置からあらゆる猛攻をしかけてくる植物の魔物は多い。
今ロゼハリーだからなのか。
それともこの迷宮の異常性なのか。
とてつもなく私達は……植物たちに見られている。
「……よし」
近くの10kgほどの石をひっぺがえす。
そしてそのままとある道外れにぶん投げた。
あの近く……視線がある。
着地。
それと同時に地面したが盛り上がり大量のカラフルな根が岩たちに突き刺さった!
「「わあっ!?」」
根たちは脈すら打たず静かに先から大量の毒液を排出する。
石は凄まじい音を立てて変質してゆき……
最後には土くれのようにボロボロと崩れ去ってしまった。
「ひええッ!!」
「これは……! うっかり道の外にまで踏み込みすぎないようにしましょう……」
「み、道が広くて助かった……」
毒は多少防げても物理的に攻撃されれば傷つく。
こんな植物たちがあちこちに潜んでいると思うと……
この熱帯雨林は毒沼以上に厄介だ。
「それにしてもここは……」
「やたらキノコが多くないか?」
道からそれないというのを守れば良い沼地に慣れてきてしばらく駆けていたらやたらキノコの多いところに出てしまったようだ。
群生地というやつか。
あの毒沼を最終的に歩いて渡りたいので今はそれをこなすためのものをとるために探している。
エメラルドグリーンの美しい湖のようでいて入れば多重の苦しみの上で沈んでしまう。
ゴウによると白い雪の地は結構奥らしく道だけには頼れない。
そして歴代冒険者が使った方法があるのだ。
それを取りに行くらしい。
「このキノコデカイなー、食えないのか?」
白く細長いキノコが密集しててイタ吉が指ではじく。
どれどれ?
[エノキアシ キキノコのなかでも人の背丈以上に伸びるが細く群生する。繊維が固くやや毒を持つため魔物から食われにくくしてあり生き延びている]
……んん?
キキノコ?
そういえばさっきの虹キノコもなんか変だと思ったが。
[キキノコ 分類名。キノコに擬態をする傾向があるシダ植物の総称であり主に毒沼の迷宮に生息する。見た目や生態と違い実態は樹木に近い]
「これ、木なの!?」
「うん? 木? これが?」
「うん、調べてみたらキノコじゃないんだって。あんまり美味しくないかも」
「じゃあいらねぇなあ」
イタ吉は興味を無くし歩み直す。
私もサンプル以上はいらないかな。
木だし。
触ってみるとキノコとしかおもえない程度にぷるぷるしていた。
これが植物界本気の擬態か……
さらに歩み続けるとだんだんキノコの森に突入してくる。
周囲が毒々しいほどにカラフルなキノコで足場を埋め尽くす勢い。
なんで太陽が燦々と降り注ぐなかで彼らは元気なのか。
……キキノコだからである。
巨大キキノコの影になる位置に生えているのが本物のキノコだ。
逆にキキノコは出来る限り他のキキノコと日が当たる場所がかぶらないようにしている。
なんとなく見分け方がわかってきたぞ。
……うん?
「って魔物!?」
「どこだ!?」
「む……キノコにまぎれているけれど、そこですね!」
3つの視線。
ハントしようという殺意。
感づかれたのを悟って足が身体から生える。
そしてノシノシと短い足を踏み込んでキノコ魔物が3匹やってきた。
敵意はむき出しだ!




