七百七十生目 外敵
光教の螺旋軍を少し遠くから練習風景を見て何が起こっているのかを考えている。
「俺は宗教だの軍だのはそんなに詳しくないが、そこまでヤベェやつらなのか?」
「ええ、まあ、功罪ともに半端なものではありません」
「アイツらはまず当然のように少年兵が多数いるってところからだね。年端もいかない子らを孤児院のように拾い上げたり、熱心な信者の子らを寄せたりして、子供の頃から信仰のために戦うというのを仕込まれ、現場に出され、殺しを味わう。……っとまあ、それを言うなら、私達もあまり他者のこと言えた義理はないがね」
「お、俺は自分から志願したから!」
「それを止められないのも、大人の責任ってことさ」
ダンが小声でたずねて返答される。
オウカのどこかほの暗い声にグレンくんは何か返したがっていたがついには反論できず肩を落とす。
年端もいかない少年少女を戦いに繰り出す違いか……
あるとすれば。
「彼らと私達が何か違うと言える部分があるとすれば、自覚の違いでしょうね……」
「なるほど、自覚ねえ。つまりアイツら、ガキんたちをこき使って血を浴びせるのを、良いことだと思っていると?」
「ああ。神のための奉仕だからね。それでどちらも、罪がそそがれるわけじゃあないが……これ以上は文化の違いでしかないね」
事実確認は済んだので私達はその場から離れた。
うっかり彼らの耳に入れたくない話をしているしね。
遠く離れた賑わっているカフェで各々注文し話し合いは続く。
「少年兵のことはわかったけれど、他にも危ないことが?」
「彼らは根本的に人類至上主義さ。つまり……」
「ああ……」
グレンくんの切り出した話にオウカが答えつつ私の方をちらりと見る。
別に各々の種族が各々自身の種族を最優先するのはよくあるしごくごくふつうだ。
しかし言いたいのはそういうことではないのだろう。
「彼らは彼らの中で法すら自身のものしか適用しない。国に縛られていないからね。そしてその中に、あらゆるがいてきを討ち滅ぼすことに、なんら縛りがないうえ、推薦しているのさ」
「外敵……害敵……」
人類至上主義で害をなす相手や外の相手となるとつまり。
ニンゲン以外ドンドン殺してもなんら問題ないという認識だ。
強烈だなあ……
「ついでに、邪教徒もね」
「ええ、まあ、彼らからするとこの帝国のニンゲンは大半邪教徒でしょうね……だからこそ来たのが意外だったのですが」
「目的は……いくつかチラ見えするけどね」
目的か……
さっき話した魔王討伐のためにというのは大きい理由のひとつなのは間違いない。
ウォンレイ王たち率いる帝都奪還組も少しでも戦力が欲しいところにありがたい話だ。
だが……だとすると。
「彼らは言っては何だが無敵の戦士たちで敗北知らず。多くのアンデッドや悪魔的存在を討ち滅ぼし、世に威光を知らしめ人々を救った……カッコよく言えば」
「ええ。もちろんその見返りは常に存在しているというのを忘れてはなりません。それは……改宗」
「ははーんなるほど、もう勝ったときのことを考えている、と」
オウカにゴウそしてダンが理解しうなずく。
グレンくんはさすがに話についていけなかったらしく少しうなっていた。
「うーん、誰がどう何を信じるとか、そこまで他者に求めるのはどうしてなんだろうなあ……」
「あ、そんなところまで理解を」
「さすがグレン君! そうだねえ、明るい理由には少なくとも、自分の好きなものを広めたいというのはあるよね」
「そして暗い理由としては、自分が信じるものと違うことを信じる相手を信用できないという不信に……利益です」
グレンくんは想像よりも深い段階の悩みを見せていた。
オウカとゴウが届いたものを飲みながら考察を重ねる。
「利益か……カネってだけじゃねぇよな」
「ええ。いろいろ目に見えるものや見えないものの利益はありますが、最終的に、安心安全盤石……永久に不安とおさらばできるような理想郷というものは、誰もが求めて個人では無理だと気付かされ、それを世界単位でやろうとしているのが、螺旋軍でもあります」
「感謝の対象であり畏怖の対象でもある……個人的に言ってしまえば、カエリラスのやることとそこまで大差あるのか、私には疑わしいね」
「それはさすがに言いすぎですが……言いたいことはわかります」
私は広い意味での世界情勢には詳しくないので情報は助かる。
助かるんだけれど……
「オウカさん、もしかして螺旋軍に私怨が?」
「ああ、昔仕事で、ちょっとね」
ひえっ……
指でかわいらしく『ちょっと』を表しても隠しきれない怖さ。
オウカの大暴れしていた過去の事を考えるとまた突いてはいけないことがひとつ増えただけだ。




