七百六十八生目 新味
白衣を来た真っ白い小さな獣人に話しかけられた。
彼はこの研究室でのアイス新フレーバー担当のひとりだ。
アイスをもっとおいしく追求するために日夜腐心している。
「アイスの新フレーバー! 心躍るね! 僕はいつでも歓迎さ!」
「というわけで、今回は連れてきた彼がテスターだよ」
「はい! ではこちらへどうぞ! 今度の新作、商品化は決定していますがまだ門外不出、秘密にしていてくださいね」
通された先はかなり寒さを感じる小部屋。
あちこちから冷気が見える。
アイスを冷やしているのか。
「もちろん! こう見えて結構口はかたいのさ!」
「それは良かったです! 今度の新作でもビックリしてもらいたいから、ぜひぜひあなたにもビックリしてもらって、当日までヒミツの共有者となりましょうー!」
研究者の彼が小さい体躯で頑張って台車を動かし奥から出してきた容器。
その中から冷気が出ている……
研究者が蓋をあけると中の冷気が溢れ出して白い煙が溢れ出す。
その中に2重に入って蓋のある容器。
これこそが……
「うーん! 待ちきれないや! どんなのがくるかな!」
「さあさあ、取皿に今わけますよー!」
パカリと開けばアイスが出てくる。
中のアイスはピンクカラーに赤いものが浮かんでいた。
「おお! 美味しそう! においは……うん?」
「これは何の味? ストロベリー?」
「それは……ぜひ食べてみて当ててください!」
さりげなく誘導する。
ガウハリの嗅覚は強いもんね。
蒼竜の気がそれてその間に取り分けたアイスを受け取る。
小皿に乗っけたアイスを食べやすいように布を引いた地面へと置かれる。
地面のほうが4足は食べやすい。
今蒼竜はガウハリだからごく自然に顔を近づけた。
「うーん……? イチゴ……?」
「さあ、一気に一口どうぞ!」
「よし!」
蒼竜はあっさり乗せられパクリと口に含む。
口の中で何度かコロコロと転がしてかんでゆき……
蒼竜の顔色が大きく変わっていく。
だんだん冷や汗をかいて……
そのまま下から震えが上がってゆき。
「かっらああああーーっ!?」
「はい、新フレーバーの激辛唐辛子味です!」
「うわわわ水! 水!」
「はいどうぞ!」
研究者から水皿を差し出され慌てて飲み舌を冷やしマズルを前足で抑えこすっている。
珍しい蒼竜が見れた。
「うごご、ご、こんなん聞いてない……!」
「言いませんでしたから! このアイスは今まで甘味中心だったアイスに新たなる客層を取り入れるために開発されたものなんです」
このアイスはまさにチャレンジらしい。
甘味になるものを限界まで抜いてその代わり香辛料が込められている。
唐辛子味と簡単に言ったがかなり多くの配合が試されたのだとか。
「な、ナンデそんなことを……」
「はい! 我々魔物たちの舌は好み以上に種族によって味覚の好みが変わります。味覚と言っても味蕾……いわゆる舌で感じる場合と、主に嗅覚で感じる場合、それと視覚や触覚で味わう場合に、体内に入った後に感じたり……多岐にわたる上、甘い物、苦いもの、辛いもの、すっぱいもの、しぶいものと分かれてくるのです」
蒼竜がガウハリの姿で鼻を抑えているのは味を嗅覚で主に理解するからだ。
鼻の奥が焼けるように痛む感覚はまさに辛み。
「そうそう。だから今までは多くいる甘い物好きの魔物を中心にラインナップを整えていたんだよね」
「はい! 今回の物は新たにアイスとはという部分から見直し、新規顧客開拓として作り出したのがこの商品! 甘い物好きの多い私達ですが紆余屈折あってこの商品の開発に成功したのです」
「ううっ、ケホッ、ケホッ、これ本当に売るの!?」
「もちろんです!」
ちなみに私は食べたいと思わない。
激辛だけどうまいというウリだがそもそも既存顧客ではないところへのアピールなので。
ではなぜ蒼竜を食べさせたか。
それは蒼竜と『新フレーバーを食べさせる』という約束を交わしたからである。
それ以上の他意はない。
その後あれこれとアイスについて語る研究者やちらりと2口目を食べまたもん絶する蒼竜で場は平和的に終わった。
一体蒼竜は何をしているのだろうか。
数日後新フレーバーが告知され各地に衝撃が走り……
そして発売日を迎える。
現場は異様な熱気に包まれていた。
いや感覚的なものではなく……
実際に。
いくら気温調整機能が働いていても暑いのが好きな魔物が集まれば高気温の場が大きくなってしまう。
買いに来たお客たちは偶然かなんなのか口から炎を吐いたり背に炎を背負う魔物たち。
買ってアイスを業火で焦がしながらおいしそうに食べていた。
すごい光景だ!
さらに……
「予約してあったんだけれど……そーくんで」
「あ、1ケースですねえ! どうぞぉ!」
蒼竜が今度は赤い竜のような姿で大量に買っていた。
なぜ!?




