七百六十六生目 強化
壊れた剣ゼロエネミーを鍛冶師たちに出した。
「ひでえ……これは完全に壊れているじゃないですか」
「ン、あの立派だった剣がどうしてこんな……」
「ふうむ、もしや、この魔物と戦ってか?」
「そうなんです。私の技術が未熟なせいでこんなことに……」
剣ゼロエネミーは刃の節ごとにバラバラとなっていた。
黄金の砂がたくさん付着していたはずだが完全に分離されている。
これは空魔法"ストレージ"の取り出す仕組みのせいだろう。
それを出したいと思うことでその物の単品を出すため他のものは除外されるのだ。
金の砂を出したいと念じれば砂たちが出てくるだろう。
「いやあ、これは……」
「技術が未熟とか、そういう問題ではない、破壊のされ方だな」
「何があったンだ?」
「実は……」
剣ゼロエネミーがダイヤモンドの砲撃で破壊されたむねを話した。
みんなわりと信じられないという表情だったが。
結果が結果で見てしまったから信じざるをえないといった様子だ。
「――というわけで、本当にゼロエネミーに申し訳なくて」
「はあぁ……この魔物……カミサマ? がそれをねえ。まさに、天の戦いだな。俺達にはさっぱりさっぱりです。でも近くで見たかったなあ、それ! 生き生きとした魔物たちの躍動は、まさに戦いの時にはっきりしますし!」
「まあ、それは武器含め、確かだ」
カンタがキラキラとした目つきで語るのをサイクロプスリーダーもその1つ目を閉じ同意。
うんまあ……
彼らは彼らなりの世界があるというやつだろう。
「ンでだ、いくら凶悪な力で破壊されたとは言えそれぞれはきれいに残っている。おそらく直せるし鞘も作るが少しかかる。それで……だ、ただ直すだけンじゃあ、きっとお前の戦いにはついていけない」
「そ、それは……」
そんなはずはないと言い切れなかった。
私が剣ゼロエネミーの力を引き出しきれない以上また破壊されるかもしれない……
「そこで、だ。ここンには作ったやつも、そうじゃないやつも含めてがここに鍛冶屋が集っている。な?」
「ああ。そうだな」
「作ったやつ? ああ、俺か! そうだな……あの時はあの時の全力を込めたけれど、今ならまた違うものが出来るかもしれない!」
「みなさん……!」
みなが頼もしくうなずいてくれた。
こうして私は剣ゼロエネミー修復と再強化を依頼した……
「ふう……」
時は戻って温泉。
のぼせて外でぐったりし目を回しているインカや尾だけ垂らし入れる通な入り方をするハック。
私はたまに自分に対して火魔法"クールダウン"。
様々な厄介事が溢れているけれどいまは至福のとき。
知らない魔物も知っている身内も同じ浴槽に入って静かにしずかに時を過ごす。
毛皮を包み込み身体の芯があったまって……こう……ほぐれるね。
「ふぅ……」
日は変わり。
とある日のお昼。
「「いらっしゃいませー!」」
元気に挨拶をするのはいつか見た毛皮の赤い犬のような魔物3匹きょうだい。
屋台のようにカウンターと屋根と看板。
そして商品一覧がずらり。
威勢の良い声は隣からもその隣からも聞こえてくる。
後ろからもだ。
ここはアノニマルース自由市場。
アノニマルースで実験的にだが誰でもお店が持てるようにした場所だ。
今まではかなりの割合を公共事業として回していたが……
当然公共事業だけでなんでも回すのは厳しいし自由度がない。
というわけではやっとこさ簡単にお店を出せたのだ。
ここまで長かったような短かったような。
「やあ! みんな、お店を持つ夢叶ったんだね!」
「ローズさんだー!」
「覚えててくれたんだー」
「見てって、買ってってー」
ここは……どれどれ。
看板にはしっかりと[くだものや]と書かれている。
魔物たちはまだ認字率が高くないので横に果物の絵が直接描かれていた。
受信機の効果で魔物たちのかしこさが底上げされ続けているとは言え学ばなければ覚えることはない。
そしてこういう看板づくりなんかの手に職つけるものはだいたい学習意欲が高く素早く駆け抜けた魔物たちだ。
その魔物たちも普段はだいたい公共事業をしつつ……
こういう時に空席だらけの需要特需として唯一の供給で居座れるのだ。
その証拠に看板の文字雰囲気がどの屋台も似ている。
まさにひとり勝ちか。
対して屋台たちはみな雰囲気がてんでバラバラ。
ただしさすがに最初ということで公共建築班が色々指導はした結果だ。
ガイコツたちを借りて各々好きなように組み立てたのだろう。
「果物かあ……あっ! パイロンの実だ!」
「良いものに目をつけたね!」
「安いよー! おいしいよー!」
「子どもはだめだよ!」
「じゃあ……6個買っておこうかな」
「「まいどありー!!」」
フフフ……趣味ではあったがそんな頻繁に手に入れに行く手間暇が面倒だったパイロンの実がここでさっくり手に入るとは。
ニンゲン界では面白いほど流通していないんだよね。
帰ってからのお楽しみが増えた。
「もひとつオマケ!」
「ありがとう! また来るね!」
「またよろしくー!」