七百六十五生目 温泉
温泉に入りに来た。
3匹で。
いくつか別れている中の全身が毛に覆われている魔物たちが入る浴場だ。
全身を濡らしてまずは身体を清める。
じゃないと温泉が毛だらけになるのでここでは絶対厳守だ。
そうしてインカと私それにハックが順に並び互いの届きにくい背中まわりをきれいにしていく。
「どう? ここらへん」
「んん……! あ、そこ、そこが良い!」
「お姉ちゃん、こうかな?」
「ひゃッ! 結構これ刺激強いね!」
私達は"針操作"で針を生やせるため前足を"変装"で手のように使いやすくしてからすこーしだけ前足に針たちを伸ばす。
そうして手のひらいっぱいに伸びた針を使って……
そうっとガウハリ特有の大きな背槍の間を縫うように撫で付け……
そのまま腰回りまで届かせる。
「んあっ!」
1度針を引っ込めればたくさんの毛が抜け落ちる。
クシ通しと同じである。
それを何度か繰り返し……
「ううっ、これ、なんか、変な感じする!」
「あ、ハック、そこ気持ちよかった! かゆいからもうちょっとお願い」
「わかったー!」
さらに尾をしっかりとぬぐっていく。
こりやすいポイントやどうしてもきれいにしにくいポイントもあるから……っと。
「はーい、やってくよ」
「うおっ、うごっ、ちょっ! 優しく、優しくして!」
「うんうん、あーここ凝ってる? 最近修行してもんねえ」
「うわおおっ!?」
インカは最近より大陸の方での修行に力を入れている。
確かに強くはなっているが今の所大きな変化はない。
ただこうしていると感じる。
まだ開いていないインカの力の根源がどんどんと蓄えられているのを……
「あ、あがっ!? ひゃー! そ、ソレ以上は! ぎゃー!」
「よしおしまい! ひととおりやっておいたよ」
「僕の方も!」
「ありがとう、ハック!」
「ぜぇ……はぁ……入る前から体力使い果たした……」
各々身体を清めた後……
いざ入浴!
他の魔物もいるのでインカは飛び込みたい気持ちを抑えて早めに入浴。
ハックはお湯に触って加減を確かめて驚きつつも……
何度か慎重に触り直して。
いけると思ったのか一気に入った。
私は……普通にゆっくりと。
「うおっふー……!」
「せーのっ、あっ、わわわぁつい!」
「落ち着きないよ〜」
ああー。良いねえ。
身体についた傷や酷使した肉体に染み込んでいく。
こういうのは"ヒーリング"とかじゃあ治せないからなあ。
深いため息が出て肺がしっかり押しつぶされる。
直ぐに自然とあたたかな空気が取り込まれ……
快適……
他ふたりも落ち着いてきたのかゆっくりと浴場の奥へと移動していった。
私はここらへんでまったりしよう。
どうせまた直ぐに戦いが始まるのだから。
……脳裏に浮かぶのはあの時の記憶。
鍛冶師の竜人カジートに素材ひとつめを届けに行った時のことだ。
「うおっ!? 魔物!?」
「魔物……かな? 神様でもあるんですが」
空魔法"ストレージ"からナブシウ半真化の姿を取り出す。
狭い部屋内では入り切らなかったので外だ。
カジートは神と聞いて思わず軽い祈りを捧げだしていた。
「いや、それはバチが当たるってもンじゃ……」
「大丈夫です、許可済みなので」
「はあぁ……まるでわからン世界だ。さすが神としか言いようがないな」
まあ正体がナブシウの尾だとはギリギリまで私も知らなかったからなあ……
「この尾が必要な金属らしいんですが……」
「うン? どれどれ……うおっ!? なんだこりゃ……どうすれば良ンだ……?」
「えっ、何か問題が?」
何らかのスキルを使っているのかカジートが目の色をコロコロ変えながら唸っていた。
だからあまり芳しくないらしい。
「これは俺だけでは……理解しきれない。もっと多くの手を借りて解析しなきゃな……」
「うーん、それじゃあ多分話が出来る相手なら紹介出来ると思うけれど」
「本当か!? 俺ンはここから離れられないがどうだ!?」
というわけで。
アノニマルースから鍛冶師たちを連れてきた。
「うわあああっ!? この身体、凄い!! 触って良いのかい!? え!? 素材に!?」
ニンゲンのカンタと……
「これは、俺もわからんな。確かに、どう読むか……」
そしてサイクロプスのリーダー。
大きさも種族もまるで違う3名がこうして集った。
なお彼らはこの場所の詳細は知らない。
その情報は秘匿されているからだ。
私が直接ワープしてきたおかげでね。
素材は彼らにみてもらうとして……
「あの、実は遺体……だけじゃなくて、もう一つあるんです」
「もうひとつ? それって?」
「……これです」
私が"ストレージ"からだしたものを見て驚く。
剣ゼロエネミーだ。




