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七十二生目 因応

 こんにちは、オジサンに会いに来たよ!

 3匹でね!

 インカとハックと一緒だ。


 オジサンはオジサンの隠れ家にいたので堂々と入らせてもらった。


「「「こんにちわー」」」

「おや? さ、さんにんとは珍しいね。

 こんにちは」


 初対面同士が自己紹介を軽く終えたあと、さっそく来た理由を話した。

 まあ別に隠すわけじゃないしね。


「いい加減私のオンジンを兄弟たちと会わせたくて、きちゃいました」

「そ、そんなオンジンなんて……」

「話は聞いてます! 進化を考え出したんだって!」

「それに、お姉ちゃんを救ってくれてありがとうって、言いに来たんです」


 インカとハックに詰め寄られてオジサンはたじたじだ。

 その後落ち着かせてから会話を続けた。

 オジサンは褒められる度に謙遜……というより自身を卑下した。


 まあその度に私が持ち上げたけどね!

 実際に彼は凄いのだ。

 変わり者であるというだけで卑下する理由にはならない。

 そしてインカとハックも彼を見る目が熱を帯びる。


「オジサン、俺ももっと強くなりたいんだ。

(ローズ)に守られてばかりじゃあダメだからさ!」

「僕も!

 お姉ちゃんの横にいたい!」


 おお、なんともうれしい事を言ってくれるじゃないか。

 最近ふたりとも私にはめっきり敵わなくなっていたからなぁ。

 インカは狩り、ハックは芸術に上手いから私と違ってまた良いんだけれどね。


 それでも強くなりたいという気持ちはわからないでもない。

 やっぱり強くなるのって楽しいよね。

 スキルが増えると生活が豊かになるし、なるべくビクビクしないですむ。

 景色が後ろへ流れる気持ちよさは良いものだ。


「え、ええと、別に俺が教えることなんてそんなに……」

「何言ってるんですか、オジサンにしかできないですよ。

 オジサンはなんたって、凄いんですから!」


 実際私の元では彼等はうまく強くならなかった。

 いや、それでも同年代と比べると強いみたいだけれど。

 もう一段強くなるには別の師が必要なのは確実だろう。


 ハートペアが教えるのは強くなる方法ではなく生き残る方法だ。

 私が教えるのは私が感じやれている自身の鍛え方。

 オジサンならまた別の事が教えられるだろう。


「そ、そこまで言うなら」

「「ありがとうございまーす!」」


 こうしてオジサンにハックたちは遊びに……そして訓練しに行くことになった。




 たぬ吉はかなり気弱だ。

 最近増えていくメンバーにも慣れずすっかり木影に隠れる事が多くなった。

 新しいドラゴンに対しても、


「うう……準備体操疲れる……」

「ほら、こんなんだよ? 大丈夫だって」

「いえ……大丈夫です……」


 青ざめた声色で拒否される。

 準備体操でバテているドラゴンは明らかにたぬ吉でも一方的に勝てる。

 ただ、力の差ではなく根本的に他者が苦手らしい。

 私には懐いてくれるんだけどね。


 時間をかえてふたりきりになった時はここぞとばかりに近づいてくる。

 ぐっと距離を縮め寄りそって暖を取った。

 そんなたぬ吉には謎が多い。


 イタ吉にも心は開いておらず私にだけぴったりくっついている。

 彼は無敵のスキルレベル上げの時についてきた珍しいやつだ。

 劇的な出会いはなく好んで過去を語らうこともなかった。


「ねえたぬ吉、たぬ吉はなんで私についてきたの?」


 最近落ち着いて来たのでついに私は話を聴くことにした。

 何となく後回しにしてきた話。

 踏み込んではいけないような、きっと答えてくれないだろうと思っていた話。


「それは……」


 何となく言いづらそうなたぬ吉。


「おや?

 ふたりしてここにいたとは」


 反応したのは意外な相手だった。

 この群れの中のジョーカー持ち。

 ようは虐められ役のホエハリだ。


 彼はクローバー隊なのもあってあまり私と話したことがない。

 だから彼がすっとたぬ吉の隣に来てもたぬ吉が逃げなかったのも驚いた。

 それに……


「あの時の事を聞かれてて……何となく、言いづらくて……」

「私には話してくれたのに?」

「貴方とはなんとなく通じる所がある気がして……」


 えッ、今のたぬ吉、拙いけどホエハリ語!?

 おじいさんもたぬ吉に寄せている気がする。


 このふたりが仲が良いようなのにも驚いた。

 私の知らないところでたぬ吉はうまくやっていたらしい。

 それにしても今の話は……


「まあ言いづらいなら言ってしまうが、だいたい私とこの子は同じだよ」

「同じ……群れでの扱い、ですか」

「ああ、まあ私の場合はキングの兄だから引き受けている部分も、ままあるんだけどね」


 父の兄なのは何となく想像がついていた。

 何せこの群れにはよそから来た血の繋がらない者はふたりしかいないが彼ではないと聞いていた。

 だが彼だけ明らかに年齢が高い。

 そろそろ8歳ほどか……


「というと、やはり……」

「ええ、そこからはボクが言います。

 本当にちょっとした事なんです」


 ぽつりぽつりとたぬ吉が過去を語る。

 自身が虐げられていた日々を。

 群れの捌け口。

 小さな社会を形成する場ではストレス解消や楽しみをそういうのに向けるのは、珍しくない。

 おそらくそういう作りに自然となってしまうのだ。


 全体の崩壊を避けるためのシステム。

 たぬ吉の場合は役割を背負っていたわけではない。

 ただ生まれつき扱いがゴミのようだったという。


 ただ、たぬ吉にとってはそれが全て。

 産まれてからそれ以外の扱いを受けたことがなかった。

 そしてホエハリに群れが襲われた時とうとう切り捨てられる。


 だがたぬ吉にとってはそれが全てだったから、何も問題はなかった。

 問題を認識するために必要な前提が存在しなかった。

 そして私たちに挑み、群れを逃して死ぬ。

 そんな運命だった。


「だから次に目を開いた時には驚きました。

 ボクが何故か救われていましたから……」


 所詮は私にとってはスキル上げの1つだった。

 だが彼からすればそれこそが転機だったという。

 初めてその時に問題を認識する前提が生まれたようだと。


 私がなぜこういうことをしているかは後から知ったという。

 だけれどたぬ吉はそれすら関係ないと思えたと言いきる。


「ボクから見ればローズさんこそが救いだったんです。

 というより、ボクがボクとして生まれた瞬間だと言うのが正解かもしれません」

「ちょっと恥ずかしい……って生まれたって?」

「ボクという意思です」


 それまでは生まれつき物心なんてものがなく、常にふわふわとした存在だったと彼は語った。

 そのことすら認識出来ずにただ道具として生き続けた日々。

 自己というものを手に入れたのは私と出会った後なのだとか。


 だからそこからまともに話すことを意識的に覚えたため、必死にホエハリの言語を学んだとか。

 幸いホエハリ語とたぬき語はそんなに遠くない。

 それに難しくもないからね。


「だから、ローズさんは私の産みの親みたいな……いやそれ以上な気がするんです!」

「ひゃあッ、な、なるほど」


 聞いている側が恥ずかしい!

 こんな熱をたぬ吉は秘めていたのか……


 なお、イタ吉は一切話せない。


「だから、こんな自分の惨めさをローズさんに語るのが、何となく気恥ずかしくて……

 でも救われたのはボクだけじゃあないんですよ?」

「うっ」

「え?」


 そう言ってたぬ吉が見たのはジョーカー持ちのおじいさんホエハリ。

 バツが悪そうな顔をしている一方、たぬ吉はお返しとばかりに悪い顔。


「彼は間接的にローズさんに救われているって語っていましたよ。

 群れを良くしたおかげだって」

「というと?」

「ほら、色々と楽しみを増やしたじゃないか……」


 そこからはおじいさんが今度は少しずつ語る。

 私が色々とやって群れに様々な恩恵が結果的に増えていった。

 その影響で『ストレスのはけ口の役割』が薄れているとか。


「俺をなぶるよりも楽しいことが出来たらしくてな」


 食事の改善や土器作り。

 冬ごえの不安が減り火への信仰が生まれる。

 その新鮮さの影響でみなストレス解消が別方向へ向かったという。


「まあ、俺の場合は頼まれてやっていたから、こいつとはまた違うがな」

「というわけですよ」

「いつの間にそんなことに……」


 私達はその後も今までがウソのように話し合った。

 私がやっていることがそんなプラスになっているなんて気付かなかった。


 なんで私は彼等を自然と深く関わろうとしなかったのか、何となくわかった気がする。

 触れたくなかったんだ、あらゆる影に。

 自分が暗い側に本来はいるのだから。


 光に向かってもがく死者。

 元の存在を隠し逃げて騙して生きてきた。

 どこかでまだ私が彼等を信用しきれてなかった。


 話さなくてはならない。

 私の秘密を。

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