七百六十三生目 引篭
なぜか我が家にナブシウがいた。
「ナンデ!?」
『落ち着け。そしてよく見ることだ』
よく見る?
よく見るも何もナブシウ……んん?
なんだかさっきぶりよりだいぶ小さい?
「どうしたの、その姿は」
『フハハハ、これぞ我が神による力の一端! 分神モードである! 私自体は自宅で療養中だ。しかし、これは私の外部端末のような存在! こうして自由に外界を見て回れるのだ。戦闘能力は低いがな!』
あー。テテフフの1羽だけが飛んできているようなものかな。
うん!?
今ナブシウのいる位置が一瞬で変わった!?
「な、早い!?」
「この分神モードではいわゆる散歩を目的としている! 瞬間的にこの街へ来たり、小柄な割には速度が出せる。我が神からのギフトである!」
ああ……全力でも遅いもんねナブシウ。
なるほどまあなんとなく理解したかな。
分神に関しては。
「ああ、わかった……けれど、ええと、それでなぜこちらに?」
『……叔母上が別れ際に言ったのだ。我が神のために休みを利用して見識を広げないかと。お前を倒したヤツのところは今ちょうど面白くなっているとな。あとぐうたらするだけだと我が神に賜った肉体が太るとな。叔母上はいつもひと言多い!』
「まさに、散歩に来たわけね……」
なんというかさらに面倒事追加! ってノリじゃなくて助かったと言うか。
既に目の前に面倒事が起きそうな気がすると言うか。
「それで、なぜ私の家に?」
『お前のさっきの顔が見たかったというのと、まあ、なんだ、外はなんというか――』
「おーい! 帰ったっぽいね! 失礼したよ!」
「ヒャッ」
うん? 玄関から蒼竜が来たかな?
というか今のヒャッって?
誰? ナブシウ?
「おお、いたいた、新しいアイスの味はまだかな?」
「ああ、そーくんちょうど良かった。彼は遊びに来た神の……あれ?」
さっきまでそこにいたナブシウがいない。
よく見ると奥の物陰にいる……?
ただでさえ小さいこどものような身体をさらに縮こませてこちらの様子を窺っている。
「ナブシウ……?」
『お、おい!』
「うおっ! なんだいあの可愛い子! 小さい神様だね、全然格がないけど!」
「あ、さすがに見分けがつくんだ」
蒼竜は怯えているナブシウをみて1発で神だと見抜いた。
分神だとまるでそう見えないのに。
「まあね! 神ならなんとなくわかるさ! おいでー! こわくないですよー」
『うわあああっ、知らない大神だああっ!!』
「えっ? ナブシウ? ……あれ?」
ナブシウがワープして消えてしまった。
蒼竜は少し残念そうだ。
今の慌てっぷりは……?
「まったく、そこまでビビらなくとも……臆病な神だねえ」
「臆病……? あれえ?」
少し後。
各地で突如ワープしてきては見られただけで悲鳴を上げつつ逃げ回る誰かの話が各地から上がってきた。
足は遅いがすぐにまたワープしてしまうとか。
うんまあひとりしかいないよね。
そうして最後に。
『はあ、はあ、すまない、かくまってくれて……』
「いやいいけど……ナブシウ、キミってまさか……」
私の私室へと連れ込むことになってしまった。
どうしてこうなった。
『言うな! 分かっている! 違う、私は単にふだんひとりで慣れていないだけだ!!』
「いや、でも私達と迷宮で会った時とまるでリアクション違わない?」
『あそこは中で! こっちは外だ! 我が神の領地と同じにするな!!』
あー。うん。これは。
「内弁慶……」
『誰がだ!』
「ああ、うん」
ナブシウいろいろな関係で古代神以外とコミュニケーションとっている感じがしなかったもんなあ……
まあこれもナブシウの一面なのだろう。
ある意味もっとも虎の威を借る狐ではない素に近い姿だ。
『そうだ! お前に会いにきたのにはもうひとつワケがあった。我が神から賜った力により引き出された私の力、やろう』
「えっ、いきなり?」
『いきなりも何も、本来はこちらがメインの用事だ。お前は私を初めて……まあ初めて倒した相手だ。少し気に入ったこともあったしな』
「気に入ったこと?」
今さらっとテテフフによる負けをカウントから外したな……
『お前は……自分で言うのは恥ずかしいが、私が我が神に対して無礼を働いている可能性を指摘した。そういう相手は初めてだったからな。おかげで久々に我が神に出会えたしな! 我が神はお前の罪も全て背負ってくださった。ならば私がお前に感謝はすれど恨むのはおかしく、ならば我が神の偉大さを共有することが全て我が神へささげる――』
「あー! うん、わかったから! 散々わかったから! 受け取るよ!」
また1日中聞かされたらたまったもんじゃない!
もらえるものはもらっておこう!




