七百六十二生目 同一
1つめの勇者の剣素材を手に入れた!
なおナブシウによると迷宮内の物は常識範囲内ならもっていって良いらしい。
ナブシウや古代神の常識がわからない……
それにこの黄金砂漠の迷宮の品々はどれもこれも世に影響が大きい貴金属たち。
あんまりとりすぎもよくないだろう。
ナブシウに確認取りつつ節度を守ってありがたく利用しよう。
ナブシウから去り世界からのワープ隔離も解いてくれたので外に出ようとする。
いつの間にか空が明るい。
窓から覗くと空のピラミッドがあった位置に光球がいつの間にか浮いていた。
どうやら古代神が仮の修理をしたらしい。
これでこの果てなき黄金の砂漠も明るくなるだろう。
ワープして黄金砂漠の迷宮を出てテテフフの砂漠へと戻る。
テテフフの送り届けだ。
1羽のテテフフがヒラヒラと私達から飛んで離れ……
周囲のテテフフたちが一斉に集い光のまゆに包まれ……
大きな1羽のテテフフへと変化した!
『ありかとう。久々にナブシウのことを見れた。それに。少しは良くなった』
「そう……なんですかね? 手伝いになれたのなら幸いです」
私から見たらあんまり変わらないようにも見えたが……
少し変化があってそれが喜ばしいことなら幸いだ。
……おや。合体していないテテフフが1羽私の方に?
『……あ、あ、あ、やっぱり!』
「……ん?」
テテフフの念話にしては変だな。
いつものクセのある言葉遣いではなく焦り詰めるような……
『キサマ!! 我を殺しあまつさえ、こんな姿に! 忘れたとはいわせんぞ!』
「……あ! もしかして! アラザド!?」
確かに古き神だった者アラザドは今回の戦いとは違って相性が良くひとりで勝てしかも悪さを計画していたので呪縛から解き放つ意味でもテテフフに転生させた。
テテフフに教えてもらったあのテテフフだ。
ついに記憶を取り戻したのか。
『あああ、違うそうじゃない! 助けて、助けてください! ここにいたら自分がおかしくなる! 我は世界に混乱を呼ばねばならないのに、こんなのは……!』
「え? テテフフさん?」
『ああ。そいつか。気にしなくていい』
さすがに色々と心配になって聞いたがスッと大きなテテフフがアラザドのテテフフに近づく。
羽根の一枚を腕のようにアラザドのテテフフに近づけて優しく身体を沿わせる。
『な、何を、我は――』
『大丈夫、私達は全て知っている。私達は同じ』
『あっ』
アラザドのテテフフの様子がおかしい。
ピクリと身体が跳ねているように見える。
小さいからよくわからないけれど。
『私達は記憶も同じ。心も同じに。だから私達は私の事をよく知っている』
「あっ、あっ」
いきなり始まった何かにやることなくボーッと今の状態のアラザドのことを考える。
転生したために肉体や脳……虫だから脳神経節? そこのものはしっかりテテフフのものだろう。
けれどアラザドは認識をまだアラザドだとしていた。
つまり魂の認識問題なのかな。
肉体と脳の認識がずれると様々な不具合が起こると言うが魂だけ違う場合は?
それは私にも言えるだろう。
私だって転生者なのだから。
『良い子。私達はあなたのこと全て理解出来ている。だから今は休んで。また後で一緒になろう』
『あっあっ! われ……わ。私。私お姉さまの言うこと聞きます。私が。本当に私達になれるまで』
……アラザドのテテフフはヒラヒラとどこかへ飛んでいった。
なんていうか……見てはいけないものを見た気分になる。
「一体あのアラザドに何を……?」
『何も? いつもどおり。ただ。少しずつ大人になる。そして私達になる。それだけ』
うーん。
藪蛇になりそうかな。
やめておこう深入りは。
「ああそうだ、さっきアラザドの記憶や感情も共有しているって……大丈夫なの?」
『大丈夫というのは。私のアラザド化? 平気。できの悪い主人公がえがかれた本を読んだ気分。末路に笑えどそれだけ』
「そ、そうなんですか」
残念ながら私はテテフフみたいな多数が1つに混じる生物ではないからよくわからないが……
手慣れていることと自覚の有りで問題ないだろう。
「じゃあ、また何かありましたらよろしくおねがいします!」
『うん。報酬さえあれば』
なんだか久々な気がするアノニマルース。
なんとか生きて帰ってこれた……
勇者の剣素材1つめからこうだとは命がいくつあっても足りないよ……
久々の我が家。
仕事関係もあるため表扉は常に開きっぱなしなため鍵とかさすことなく開く。
「あー、ただいまー我が家ー」
光神術"サウンドウェーブ"ではなく喉から出るに任せた疲れ声。
テクテク心が重い足取りで中へと進む。
……あれ? 幻覚かな?
そこにはくつろぐ見慣れたような見慣れていないような姿が。
『ふむ、ここが聞いていた通りお前の家のようだな、家主ローズ』
…………そこにはナブシウがなぜかいた。




