七百六十生目 古神
ナブシウが復活した。
本当に目の当たりにすると不老不死なんだな……と実感する。
肉体は滅んでも魂は輪廻に乗らずここに帰ってくるのだ。
それが良いか悪いかは個々人の価値観に任せるとして……
今は目の前にいるナブシウが大事だ。
私達を見たナブシウは立ち上がろうとする。
『そうか、私は負け……うぐっ!?』
『無理しない。死んだのは初めてでしょ』
「普通死ぬのは1回なんだが……」
なんだか凄まじい会話を繰り広げているけれど……
それはともかくとしてナブシウは立ち上がろうとして崩れてしまった。
どうやら体力がすぐ戻ってくるわけではないらしい。
「ナブシウ、あんなことした私達が言うのもなんだけれど大丈夫?」
『……我が神に会ってきた』
「うん?」
ポツリと呟くような念話は要領を得ない。
オウカも首をかしげている。
私達に話すと言うより空に向かって自分自身に話しているかのようだ。
『我が神は変わらずに私へほほえみ撫でてくれた。私はひたすら懺悔をした。私は思い上がりも甚だしい行いをして守り手としても我が神の寵愛を賜った者としても、あまりに恥ずかしい!! 例え我が神が私の振る舞いすべてを知っていようと、話さずにはいれなかった』
「テテフフ、死んだあとにナブシウの古代神に会えたりするものなのかい? それとも幻覚か何か?」
『まあ古代神ならば。干渉くらいは簡単に出来そう』
テテフフの言う通りならばナブシウが語ることは真実か。
すごい規模が大きい話だ……
『我が神の顔に泥を塗ってしまった事を詫び、詫びきれずただただなき喚くしかなかった。だが我が神はそれでいてなお、お褒めくださった。それだけですべての努力が報われたような思いと……罪悪感の重荷が強く増したのだ』
「……ねえ、テテフフ、もしかしてだけれど……普段の会話ってナブシウと古代神、言語理解し合っていない?」
『古代神はわからん。が。ナブシウは少なくともわからない』
変な汗が普段発汗しない部位から出てくる……
念話なら通じるだろう。
だがもしかして互いの種族言語知らないのでは? そんなフシがあるし……と思っていたら。
よく『ペットは言葉がわからないほうがかわいい』とか言うが……
これ互いが互いにいい様に受け取っている話を聞かされているのでは……?
今までの話も……特に『ここを守れ』と言われたむねも一気に怪しくなる。
真実は常に疑うしかない……
『だが我が神はそんな矮小な私を見抜いていた! 我が神はやはり私では遠く及ばない、存在が大きさがある。なぜいつのまに私ごときが我が神の代弁者となれると思っていたのか、より苦しくなった。そんな私の苦しみを背負うために、我が神はある罰を私にお与え、そして代わりに罪をすべて背負ってくださったのだ……』
まずい。
古代神の具体的な言語がさっきからひとつも見当たらない!
あっても怪しいものなのにこれ一切言葉を理解せずイントネーションや雰囲気でやりあっているだけだ!!
『で。なんて?』
『私の守り手としての役を一時休職するよう命じられた。そして私にたくさんの時を与えてくださり、自身を見つめ直すようにおっしゃったのだ。私の心はあれほど苦しかったはずなのに、非常に救われた! ひどく辛い罰のはずだが、それでも私は救われたのだ。その矛盾した感情を、我が神は恥ずべきことではないと肯定してくださっただから――』
「ええと、これって……」
『ナブシウは。これだから』
なんというか……元気そうでなによりだ。
『――なのだ。ああ…………そういえばだが、念話によると我が神は別にお前達の破壊工作は気にしないらしい。気が向いた時に直すそうだ。我が神の寛大さに泣いてひれ伏すがいい』
「ああ、はい、ありがとうございます」
それだけはしっかり念話で伝えているのか……
この迷宮世界の様子も含めて何というか豪胆な神様だなあ。
助かるけれどね。
「それで、その、本題なんですが」
『うん? ああ、そうだな。もう負けたことなどどうでも良くなっていた』
いつもの調子が完全に戻っているようで何より……
約束を果たしてくれるのなら。
「砂漠の白金、渡してくれるんだろうね?」
『ああ。そもそも私は一時休職中だ。本当にダメなものなら我が神が私を呼び戻す。ただ……その肝心のものがまだ手に入ればよいのだが』
オウカの問い詰めにあっけらかんとした答え。
あんまりな180度違う答えにちょっと頭が痛くなりそうだが……
それよりもまだ手に入ればって?
「ん? どういうことだ?」
『そのような特徴を持つ金属類などこの世界広しといえどひとつしかない。私の尾毛こそがお前らの望みだろう』
「な、なんだとー!?」
……ああそうか!
ナブシウの身体を回収してきたことをみんなまだしらないのだった。
まさかそういう役にたつとは思わなかったが。




