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七十一生目 遊戯

「はぁ……落ち着いて来たら将来が不安になりました」

「不安って?」

「僕……強くなったりするのは夢見るけれど、だからと言って殺したり殺されたりはいやだなぁって。」


 この先否応なくそうなって、自分が自分じゃなくなるのか。

 ころしたりしたくなるのかな。

 ああ……きのみだけ食べて過ごしていたい。

 ドラゴンはそう言葉を続けた。


 めちゃくちゃ平和思考なドラゴンだ……

 間違いなくここまで生きてこれたのが奇跡だ。

 なんか、目が離せなくなってきた。


「ねえお願い、なんかないかな、なるべく僕が僕でいられる方法!」

「でも、そのうちきのみだけじゃあお腹が空くぐらい大きくなるんじゃ?」

「う、まあ……でもなあご飯のための狩りのせいで暴れん坊になって何もかも見境が無くなると思うと……ブルル。

 せめて、僕は僕を忘れないまま、狩りできないかなぁ

 頼みます、何か知っていることがあったら……!」


 何にも頼れないせいか、ひどく私に対してすがりついている。

 でもなにか、どこかで私と似てる気もするなぁ。

 ……あ、そうだ。


「ふたつ、心当たりがあります。が、解決出来るかの保証は出来ません」

「本当ですか!

 なんでも良いんです、僕、もう1つの季節巡るくらいの間逃げ回って、でも何も進まなくて……!

 お願いします!

 僕、なんでもしますから!」


 わわっ、必死に詰め寄ってきた!

 デカイ! 見た目怖い!

 にしても1年か……1年逃げ続けてこの森まで来たって言うの、単に弱いだけじゃあないなぁ。

 何か凄い素質を感じる。


「わかった!

 わかったからまず落ち着いて!」

「あ、はい、ごめんなさい、もう僕心細くて……」


 なきそうになっているドラゴンを慰めつつ早速お試し。

 内容は私がやれることと、私が教えれることだ。


「じゃあ落ち着いて、リラックスしてね、触るからね」

「あ、はいお願いします!」


 ヒーリングと無敵を組み合わせて彼の手に前足を乗せて送る。

 暖かな光が発せられた。

 まあ正直これだけでは解決しないと思うが……無敵が戦意を無くすのなら少しは効くかもしれない。

 ん、スキル効果通ったな。


「ひゃあ!?」


 彼がすっとんきょうな声で驚くと同時に心臓が跳ねた!

 ドクン!

 と強く鳴ったのが私の耳にも聴こえた。


 え、なに!?

 健康元気で起きてるやつに最初から使ったことはそういえば無かった。

 初めてこんなリアクションされてビビったよ!


「い、今なに、を……」

「戦意を無くすためのスキルを使ったんだけれど、多分これは根本的にはどうしようもない方。

 あくまで一時措置だね」

「ふあぁ……何コレ凄い……!

 よくわかんないけど、凄い……!」


 そ、そうなのか…、

 アヅキと違って凄いしか言ってないけれど心臓が乱れて口をだらしなく開き涙まで流されたら何となくわかるが……

 何が凄いのだろうか。


 無敵はスキルの中ではバトル中に使うには向いてないかなり弱いスキルだ。

 レベルは上がってきたがしょせん戦意を無くす以上の力は持ってない。

 効力を上げるためにヒーリングに上乗せしなくちゃだし、やる側としては利点がよくわからない。


 ただ倒した後に襲われないという点だけは本当に評価している。

 相手と交渉がしやすいからね。

 ただ……目の前のコレはなんだろう。

 ゾクゾクビクビクしているんだけれど。


「ごめん、僕もう……」

「え、ちょっと!?」


 ズシン……と音を立ててそのまま倒れてしまった!?

 え、何なんだ、初めて無敵で相手を倒した!?

 もしてかして、この子が弱すぎて変な副作用が……?




 結局なんで倒れたかわからないまま数十分介抱してやっと起きた。


「あ……すいません、ご迷惑おかけしたみたいで……」

「このスキルでこんなに反応したのはキミが初めてで……びっくりしたけれど、大丈夫?」

「はい、なんとか……あの、よくわからないけれど、とても良かったです……」


 それが結果的にどう転ぶかがこの子の場合よくわからない!

 良いと言っても将来の凶暴性を抑えなけりゃ意味はないのだけれど、その将来大丈夫かなァ。


「あの……たまにあれ、やってもらって良いですか?

 いつもだと僕が耐えないから……」

「あ、まあ、うん、さらっとこの先もついてくる気なのね」

「え! だ、駄目ですか!」


 あ、しまった。

 ひどいショックを受けている様子。

 擬音でガーンとつくくらい。


「ごめんなさい、ごめんなさい!

 本当にあなたのためならなんでもしますからどうか、僕の味方でいてください!!」


 全力で平伏したあと無防備のポーズ。

 ようはお腹を見せて寝そべるやつ。

 完全に藁にもすがる思いってやつだ……

 私の中の前世ドラゴンイメージが音をたてて崩れる……


「ごめん、今のは私が悪かった!

 いじわる言っちゃったね、大丈夫、さすがにココまで来て見捨てる気はないから」

「いえ、謝らないでください!

 僕の思い上がりでしたから!

 ……って良いのですか!? ありがとうございます!!」


 ないたり喜んだり忙しいドラゴンだ……

 完全野良ならともかく私はそこまで鬼ではない。

 ただ……もう一つの方は彼次第だ。


「それにおそらく効果が高くありそうなもう一つの方法は、私が教えてキミに学んで貰わないとダメだからね。

 さらにもうちょっと強くはならないと使えない方法だから。

 だからつらくて逃げ出すまでなら味方だよ、もちろん」

「あ、ありがとうございます、ローズオーラ様……!」


 とうとう崇めだしたよ……

 ツッコミが追いつかないのである程度流すようにしよう。


 こうして私は彼に『進化』を教える日々が始まった……

 群れは……もうみんな慣れきってた顔してたから大丈夫だった。




 日と場所が変わり家の中。

 居間を使うことでぬくぬくしながら授業をすることにしていた。

 といっても今回は少し変わり種だ。


「さて、今日は『娯楽』について学びたい!」


 私がそう言った途端、ざわりと空気が揺れた。

 ちなみにアヅキも同時参加なのでアヅキにも一緒に通訳。

 わ、私がふたり欲しい……


 まあ、教えの場で娯楽について学ぶってまるで真逆なので驚くのはまず間違いないだろうが……


「ご、娯楽って、今日は遊ぶんですかい?」

「ああ、だけれどこれはとても大事なことなんだ、それを含めて学んでもらうぞ」


 引退した冒険者用の声もすっかり慣れてつくれるようになったなぁ。

 ただ、演技するという部分に脳が持っていかれるのがつらい。


「娯楽は、実は全ての学びを利用した先の究極の勉強だ」

「え、ええー!?」


 まあ、彼等の反応は予想済みだ。

 ただアヅキだけはまるで全部わかってる風を装っているいるが……

 心音が穏やかじゃない。


 そこから語ることはまあふつうのことだ。

 あらゆる娯楽はルールを守り文字を理解し時には策略を巡らせなくてはならない。

 それに……


「娯楽をきちんと知らないと悲惨なことになる」

「悲惨?」

「楽しみ方を知らないと、楽しむために暴行と……ばかり楽しんだりする。

 まともに生きるには楽しみがないと難しいけれど、それを得る方法が大事だからね」


「え、今途中なんて」

「はい、というわけでやっていきまーす!」


 スルーだスルー!

 前世でもイルカとかヒャッハー人間とかそれの典型例がいたがな!

 とにかく遊びだ!

 ゲームだ!

 『生きる』ためにつまらない生涯を送らないためにもな!


 というわけでここに用意しますはトランプ。

 いや、正確には違う。

 ミニオーク(ガラハ)たちに買ってきてもらっていたカードゲームだ。


 この世界の基準なので絵札とかが若干違うが基本は同じ。

 ルールも多数あるみたいだし同封されていた。

 私は主にジャッジ側に回ってアヅキとニンゲンたちが楽しむ姿を見る。


 言葉はまだまだ通じないがアヅキもニンゲンたちも凄い。

 ちゃんと文字を理解出来るようになった。

 アヅキが全力を出して簡単な数字や基本的な部分を理解してしまったのだ。

 ニンゲンになめられるのが嫌だと私に直接教わっていただけある。


 ニンゲンたちも負けてない。

 ここまでの時間までかけて彼等は多くの事を学んだ。

 ガラハとその子分達は家も親もなく生きるために荒れていた無法者だった。

 それが今や賑やかにルールを守りルールを利用して魔物とも仲良くやっている。


 遊びの大事な部分。

 それはこうやって誰とでも笑い合えることだ。

 娯楽は高度な総合力を要求される。

 それと同時に仲良くなる可能性があるんだ。


「あ、コラ!

 俺様にババひかせやがって!!」

「そっちが勝手にひいたんじゃないですかー」


 まあ、たまにはこういうこともあるけどね。

 それでも、やはりこの暖かい光景は私の『生きる』に近い気がした。

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