七百五十三生目 撤退
私の渾身で放った焼却炉魔法が楽に文字通り真っ二つにされてしまった。
直立した姿は真ん中の足が浮いてしまう。
……だがそれは問題がなかった。
あの時の違和感。
そうだまるで猿の前足のようなもの。
あまりにゴツくて足でも違和感がなかった。
ということは今の状態は立派な手。
そして握られているものは……
新たな……そしてどこかで見たことのある槍だった。
3本目の手を使うために直立し左下の手にそれは握られている。
ダイヤモンドの槍ではない。
あれは……そう! ナブシウから生えていた大きな角が両方引き抜かれていた。
それはナブシウの体内構造を疑うようなしっかりと1本槍の長さ。
半透明のブラックで角のころから美しさに目が惹かれていた
ただ角先が双方に大きく湾曲していてあれはまるで……
『我が神から授かった宝具である杖、ヴァス・カルンの力見せてやろう!』
「杖……!? 杖で斬り裂いた……!?」
『ふはははは、下等な次元にいる存在では、形にとらわれ本質を見抜けないから困る。刮目せよ!』
ヴァス・カルンと呼ばれた杖をナブシウは左下手で高く掲げる。
またあの刃のエフェクトだ!
避けるために駆けて離れる!
『避けられると思うな! 地杖!』
杖が輝いた!
と思ったら地面から突如大きすぎる光の刃が!?
「ガッ!?」
鎧すら通し腹から身体の中をあまりに熱い何かが通り過ぎ背中から抜ける感触。
その次に急速に通った後が冷える。
そう……それは刃が身を引き裂いたときのように……!?
う……が……!? 私の身体が……
まっぷた……
…………いやっ!
「危なかった!」
今確かに刃は私の身体を両断したのだろう。
生命力が危なくなっているので急いで回復。
だが……やはりそうか。
おそらく今のが即死の攻撃。
"戦場の獣"が最大効果を発揮してなおかつ今は直接使えないが蒼竜の神力が宿っている。
例え相手が神の宝具でもこちらも神の守りですんでのところで耐える!
生命力があるうちはやられるわけにはいかない!
鎧の換装!
『何? 今の手応えは……盗掘者め、どうやらただの賊ではないらしいな! デミゴッド……いや、神使か?』
「何でも良いけれど、今のはめちゃくちゃ痛かったよ!」
『ふん、あれで死ねば痛みなど無かったものを……まあいい、どうやらあまり出し惜しみする場合ではなさそうだな』
ええっ!
今のなけるほど痛かったんだけれどまだ何かあるの!?
とにかく距離とって駆けるしかない!
割と今のは大技っぽかったから連発できないのは祈るしかない。
いくらなんでも生命力削れたところで真っ二つでは死を免れない。
『逃げるな!』
真横を光の斬撃が飛んでいった!
杖をふるってきたらしい。
もちろん3刀流なので他の槍は光を伸ばしてガンガン斬り裂いてくる!
「うわああああっ!!」
もはやあたり一帯がどんどん斬りはぜていく!
この中を駆けるだけでどんどん傷が増すのにダイヤモンドの嵐すら吹き荒れる!
ダメだ! 回復が追いつかない!
ならば……
『さあ、我が奥義と風の魔法どちらで死にたい! 選ぶか良い!』
「私は……」
当然それらの選択肢は選ばないわけで。
だから……
[サモネッド 承認を得た相手の元へとワープする]
「こうする!」
『何!?』
空魔法でワープ!
あんなのまともに相手していられるか!
目の前の景色が切り替わり一転して薄暗いところに。
「どうやら相手はヤバそうだね、ローズ!」
「ええ……かなり」
目の前にはオウカが出迎えてくれた。
遠くの方にジャグナーやたぬ吉が見える。
この感じ……やはりピラミッドの中なのか?
「ここピラミッド……だよね? あの灯りが見えないけれど……」
「ああ、それは私も思った。不思議とこのピラミッドの中は少しだけしか明るくないんだ」
「うーん……もしかしてここだけ暗さを増すように仕組んであるのかな」
魔法であれ科学であれ今私が解き明かすことではなさそうだ。
周囲を見るとわりと広く天は四角錐の先だから少しずつ細くなってずっと向こう。
足に触れているものがしっかりとダイヤモンドたちだというのも気づく程度に余裕が戻ってきた。
『盗掘者!! 何処へ行った!! 私から逃れようなどと……何!? そこか!? お前……!! 私が手を出せぬ神の寝床に!! まあいい……お前たちは私を斃さないかぎり逃れられんように、この世界を隔離してある。次がお前たちの最期だ……!』
「えっ……! あっ、本当だ!」
空魔法"ファストトラベル"で外界に行けない!
なんて手を……
この世界を任されているだけある。
ただ思わぬ収穫もあった。
どうやら本当に神の寝床……ピラミッドに手を出せないらしい。
強すぎる大きすぎる遅すぎるとあまりにピラミッドを傷つけずに戦うには不便。
今が作戦タイムだ。