七百五十二生目 槍術
『ローズ、大丈夫か!?』
『わりとキツイ! 相手が姿を変えちゃって!』
『この上から下がよく見えるから遠くで見ていたが……なんだあのいきなりでかくなった化け物は!』
『本当にそう!』
ジャグナーから"以心伝心"による念話だ。
どうやらピラミッドからこちらを見下ろしているらしい。
こっちからは良く見えないけれど。
ナブシウが構えたダイヤモンドの槍。
さらに古式猛牙流槍術という名前。
事前に"観察"したときに見たあの危険だとされている技だ。
「来る……!」
ナブシウが槍を構えた。
また魔法を唱え直さねば!
完全に炉が破壊されたしさっきよりもサイズがずっと大きい……
戦っていくつかわかったことがある。
ナブシウだって背負うものがありそれに飲み込まれているようにも見える。
でも私は私で多くに支えられている。
今もジャグナーたちはピラミッドで準備をしていてくれているしね。
アノニマルースのみんなや……故郷の群れのみんな。
母親と父親。
私はみんなの力を借りてここに立っているんだ!
ナブシウが古代神の力で古代神を語り自身を同化して話し動き振る舞う。
実体はナブシウ単独の暴走に近いのに。
その自覚がないということが危険だ。
そしてそのまま力が振るわれる!
『ぬんっ!!』
私と距離があるのに大きく振り払った!
えっ待って!? 光が……
槍の全長の倍以上伸びて砂山ごと切り払った!?
「うっわあああだっ!?」
ギリギリジャンプしたがあまりの力で余波と共に黄金ごと私が吹き飛ばされる。
なんだそりゃー!
ありなのかそれは!!
『古式猛牙流槍術壱式基本の型、襲牙!』
「ぐえっ!?」
地面に落ちて受け身を取るものの自分の重さが身体にのしかかってしまった。
1回振り回すのにナブシウの遅さも合わさってとてもゆっくりだ。
だというのにとても見てから避けられる範囲ではない。
こんな時に飛んで避けれたら……
ああ! 『ネオハリー』になりたい!
だが龍脈はまるで気配がない。
おそらくはナブシウが意図的に隠しているか……
この世界はナブシウに味方しているかのどちらかだ。
もしくは両方! ならばやはり『ネオハリー』にはなれない。
ないものねだりは良いとして……とにかく魔法の完成が先だ。
『そこだっ!』
やはり槍と言えば突きか!
私の方にまた倍尺ほどの光を纏って槍が突っ込んでくる!
走れ走れ!
「うおわっ!」
重く大きいものが重く大きく突き出される。
全体はスローに見えても時速換算ならばとんでもないはやさ。
ナブシウ自体が遅くて助かった!
なんとか跳んで身を捻ってかわす!
着地! 駆ける! 2撃目避ける!
槍が大きいからとにかく私の身体をえぐりそうでこわい!
とは言えダイヤモンドの砲撃よりはまだマシな気がするが……
『はっ!!』
槍を縦に!
ここは……"すり抜け回避"!
前跳びしながら発動すると私の身体を槍の光が貫く!
だが私は当たらずに地面を光がたたっ斬るのみ。
物理的干渉を一瞬だけ回避したわけだ。
抜けてそのまま着地。
『手応えが無かったな……奇妙な技を。だが……古式猛牙流槍術弐式……!』
左手も背中のダイヤモンド槍を引き抜いて持った!?
槍の二刀流とかありなのか!?
だが実際既にナブシウは両手に槍を構えたわけで。
『交牙! そして流牙!』
X字に交差した刃が迫る!
想像以上に避けづらい!
なんとか跳んで……
そのまま連続して斜め切り下げ!?
凄まじい衝動と共に金属が割かれ食いつく音。
「うぐっ!?」
直撃はしていないが……跳ね飛ばされた!
私の鎧は見た目以上に刃を喰らい折るのに向いている。
光は砕けないが食い止めて身を守ってくれたようだ。
よし……そろそろ。
再び魔法発動!
巨大な焼却炉生成!
『流石に硬いな……むっ?』
「やああっ!」
気合を入れて一気に生成!
巨大で頑丈な炉だ!
これならばあの身体を暑さでダウンさせるまで持たせることが――
『……古式猛牙流槍術、参式』
次の瞬間に作った焼却炉に光が差し込む。
ソレがヌルリと横へと移動してゆきまるで抵抗がないかのように切り裂いていく。
うそっ……?
「直ら……ない!」
あっさり裂かれたことも驚いたが魔力を込め直しても修繕されない。
"ヒーリング"を唱えつつだからダメとかそういうのではなく……
くっつく気配がまるでない!
そうしてゆっくりに。
しかしあっさりと。
両断されてしまった。
『断杖』
魔法そのものを破壊された……!
そう魔法を行使していたからこそ感じれた。
中から出てきたナブシウは直立していた。




