七百三十八生目 小屋
はてなき黄金の砂漠へたどり着いた。
ダイヤモンドの嵐が危険で私以外は戻りピラミッド探索へ。
私はこの黄金の砂漠をひとつの道を歩む。
何かはっきりしたものがあるわけではない。
ただ感じるのだ。
番犬の視線を。
それに従ってひたすら駆けていく。
近づけば近づくほどに視線に敵意が増していく。
番犬と呼ばれているゆえに近づかれるのは好まないのか。
それでも話をするには近くへ行くしかない。
念話をしてくる気配もないからね。
仲間の支援がある間に砂漠を駆け抜け続ける。
しばらく駆ければ不自然にダイヤモンドストームが消えて光景が広がっていく。
……空に天井が見える。
大穴があいていてそこから強烈な光が降り注いでいた。
どこかで見たことがある光……
あのピラミッドのものに似ている?
ココは一体……?
そして目の前に現れた小屋。
……と呼ぶにはいささか豪華な豪邸。
形状そのものは犬小屋とも言えるがそれを数万倍豪華にしている。
建築材料の石ひとつとっても大理石以上のものがふんだんに使われ宝石たちも惜しみのない利用。
家のサイズはまさに豪邸一軒家。
そもそもこの嵐の中傷つかない加工が施されているだけで家としての能力はトップクラス。
視線は中からだ。
やはり番犬の小屋か……
4足でも開けやすい扉をくぐって先へ進む。
中は複雑な部屋わけはされておらずかわりにこれでもかとおもちゃや食べ物が特殊防腐魔法保管の記述加工済み。
これらをみるだけで誰かに飼われているとしたらとんでもなく愛されてるなあとは感じられる。
そして何者なんだ……? とも。
その奥に……果たして番犬はいた。
その姿は意外にも小さい。
普段の私であるケンハリマからひと回り小さくしたサイズの……犬らしき何かだ。
それは生物と呼ぶよりもひとつの宝石と呼ぶほうが正しかった。
閉じられたような細い瞳。
後頭部にある大きな角のようなもの。
砂漠生物らしい大きな耳。
後頭部から伸びる長いたてがみは宝石で結ってある。
ふさふさの尾はなかに宝石が多く見えた。
そしてそれら全身が黒い宝石のようだった。
柔らかそうな毛皮だがその実あれは恐ろしく頑丈だろう。
おそらくダイヤモンドのように。
そして額には本物の宝石ブラックダイヤモンドが強烈な魔力をたたえていた。
何より特徴なのは……鎖である。
足輪同士に鎖が伸びており拘束済み。
首輪に大きな錠がついていてあれも外すことは出来ない。
床に縫い付けられているわけではないがあれは完全に縛られているといえるだろう。
鎖が短いため駆けられないからだ。
ギリギリ後ろか前の足どちらかは伸ばせそうだが……
あれでは普段の生活も困難ではないだろうか。
とりあえず"観察"……は当たり前のように弾かれる。
『……貴様がここに入ってから、ずっと見ていた』
「ええと……こんにちは。まずは勝手に入ったことをお詫びします。それと……少し失礼します」
念話が飛んできた。
こちらはまだ彼の言葉を覚えれてないので普通に帝国語で謝る。
断りを入れて空魔法"ストレージ"からお見通しくんという眼鏡を取り出す。
どうやら向こうは気にしていない様子。
遠慮なく眼鏡を使い……"観察"!
[ナブシウ Lv.60 異常化攻撃:即死 危険行動:古式猛牙流槍術]
[ナブシウ 本来はダイヤウルフの種族のひとつ。しかし神の力をその身に宿していることで通常ではありえないほどの力を身に宿す唯一個体となった。小さき神としてけして朽ちない体で世界を見守る]
『終わったか? 私を見る蛮行、今は許そう』
「……ええ、その、ありがとうございます」
『ほう』
いつものように言葉を覚えれたからそれで返した。
というかまた即死じゃないか!
しかも神様!!
なんて相手をテテフフは紹介してくれたのだ。
確かにこの世界には詳しそうだけれど!
閉じているような瞳はそのままにこちらをじっと見つめてくる。
『ところで……やはり、叔母上! なぜ来たのだ!』
「えっ?」
明らかに私ではない誰かに話しかけている。
そしてその正体は。
私の鎧の隙間からヒラヒラと前に躍り出たことで明らかになった。
1羽のテテフフだ。
『現在。その端子を通してそちらを見聞きしている。手は出さない。お構いなく』
「ええっ!? いつのまに!?」
『叔母上そういう問題ではない! そもそも侵入者を招きいれたのはどうせ叔母上だろう!!』
えっと……どこから突っ込めば良いんだろう。
お怒りなのはわかるが……叔母上??
なんだか厄介な気配。
「あの……誰か説明を――」
『少し待っていろ侵入者。叔母上はいつも事前の連絡もよこさずこんな風にやってきて、来られる側の身にもなってみては!?』
『しばらく会ってない間。変わってないようで何より』
だ……誰かー!!




