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七百三十五生目 三角

 しんどい。

 宝石の嵐の中駆けていくのがしんどい。

 ゴールはいまだ見えない。


 たまに道端の魔物と会話をかわす以外は駆ける足元の宝石たちを踏みしめる音と私達にぶつかる宝石たち。

 そして唸る嵐の風音しかない。

 三角の山とやらはまだ見えない。


 視界不良。においはかき飛ばされ音は乱され。

 もはや歩むだけで人生の意味を考え出す始末。

 油断すると自身の頑強さを貫いてくるものも飛んでくるので精神修行にばっちり。


 ではない!

 こんなのただ心と身体に過大な負担かけて壊すだけのものじゃないか!!

 こんなもので強くなれるのはマゾヒスト心だけだ。


 それはそれとしてこういう経験自体で経験が入っているのはログを見てもわかる。

 レベルが上がる気配はないが。

 やはりトランスが必要か……


 ただ現状これ以上のトランス先はない。

 新しく作るという前に九尾博士にやってもらったやり方も出来ないと言われた。

 そう簡単に奇跡は2度起こせない。


 だけれども私はもうやると決めたのだ。

 自分で選んだ道だから迷う必要はない。

 どうにかしてみせるさ。


「魔法更新……完了っと。これでも天候影響力だいぶ落としているのに……まるでさらに上から何かの力を押し付けられているみたい」

「その可能性はあるかもね! この迷宮、明らかに自然が自然じゃない。番犬ってやつが何か知っているんじゃないか?」

「あるいはその番犬がやってるんじゃないか!?」

「まさか、そんな力を1匹が持ちうるとは思えないですよ」


 もはや口をついて出るのは嵐に対する不満とまだつかないのかという話。

 平地を駆け抜けるのと砂漠を駆け抜けるのはやはりだいぶ負担と速度が変わる。

 それ以上にジュエルストームがきつい。


 おそらくこのままでは誰かが脱落する。

 あまりにか細い情報。

 あまりに打たれ続けすぎてなんだか嵐が弱まっているかのような錯覚がする。


 ……嵐が弱まっている?

 え? あれっ!?


「な、なあ、なんだか嵐が弱くなっていないか?」

「偶然だな……俺も同じことを思っていたところだ」

「え!? 僕の勘違いじゃあ……?」

「あれ!? みんなも!? じゃあ……!」


 ――陽が射した。


 今まで嵐が乱れ照らすことの無かった太陽光。

 私達を切り取るように降り注ぐ光はやがて広がっていく。

 それと同時に風の音が止むことで久しぶりに風が唸っていたことを思い出す。


 静音。

 この迷宮に入って初めての音のない世界。

 つまりは……嵐が止んだ……!


 視界も開いていく。

 世界がクリアに。

 砂漠の波で出来ている小山の上に私達はいて……


 ずーっと先にそれはあった。

 一面広がる花畑よりも輝く希少なはずの宝石や鉱石たち。

 それらの奥に据えられた……巨大な三角。


 やっと見えた!

 あれは……山のようだが山ではない!

 信じられないような光景だがあれは!


「おお、あれが山――」

「ピラミッドだ!!」

「「えっ?」」


 それは美しく白い宝石で出来ていた。

 白というのは正確ではないかもしれない。

 それは重なり合った結果そう見えるだけで……


 実際は透明。

 だが水晶ではなく見た者たちは思わず感嘆を漏らすだろう。

 ……ダイヤモンドで出来たピラミッドなのだから。


 美しき宝石砂漠は輝きを得て初めてその美しさを全体でこれでもかと主張する。

 しかしそれですら主役を映えさせるための舞台!

 主役こそはダイヤモンドピラミッドだ!


 それを正確に表現するにはどのような言葉を尽くしても表現しきれないだろう。

 ピラミッドは人工物だ。

 当然ダイヤモンドも原石ではなくカッティング済み。


 巨大なダイヤモンドたちが金とプラチナの装飾が霞むほどにピラミッドの段石として用いられている。

 まさにありえない光景!

 それでも遠くからでもはっきりわかるほどにある!


「ははあ……すごい……」

「ええ!? あれ全部ダイヤモンド!? ウソでしょ……しかもおそらく、相当手が入っているし、高品質変質もしているような……?」

「なんだかわからんが、そのピラミッド? とやらがあの山なんだな。あれが見えた先にあるんだろ? いくぞ!」

「……ん? あ、待ってください、この感じは……」


 たぬ吉がみなの足を止めたけれど一体……

 うん? 

 足元がくすぐったい。


 きらびやかだった砂漠の姿が一気に緑に変化する。

 それはもう絨毯を裏返したかのように。

 おっと!? 足元から何かが跳ね上げる!


 足をどけると……双葉?

 みんな踊るように足元から草たちがはえたことを驚いていた。

 言葉もなく驚きと興奮で胸をつまらせつつ歩み続けると一斉につぼみをつける。


 そうして不毛の砂漠は一瞬で色とりどりの花畑へと変わったのだ。

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