表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/2401

六十九生目 衛兵

 雪が最近殆ど降らなくなったとあるお昼。

 ついに鎧の音の群れが森にやってきた。

 暴力ではないことは確認済みだが果たしてうまくいくのか……

 隠れて様子見中である。


「おおー! ピカピカのニンゲンたちがずらりと並んでる!」


 なぜか隣にイタ吉もいる。

 まあ、迷惑にならなきゃいいか。


 ずらりと並んで歩く衛兵の姿。

 装備も統一され全て磨かれている。

 つや消しして装備もバラバラな冒険者たちとは一目見て違いがわかる。


 あと全体的に空気がゆるいかな。

 明らかに『仕方なく来ました』というやる気を撒いている。

 25人も数がいるのも緩む要因だろう。

 社会性のある動物は集団時は危険を忘れるからね。


 レベルは……多分アヅキが無策で突っ込んでそのまま勝つくらいの強さ。

 イタ吉は負けるな。

 そのぐらいなので運が悪くなければこの森では死ぬことなく行進出来るだろう。


 正面からミニオーク(ガラハ)が接近する。

 衛兵たちが気づいた。

 敵意は感じれない。


「おや? 冒険者よ、止まれ。我々は街の衛兵だが、訊ねたいことがあってだな……」


 ガラハの背にはシャベルが括られている。

 護身用だから今回は出番はない。

 ただ森の中、まあ誰に襲われるかはわからないからね。


 ガラハはにやりと笑い、腕を組んだ。


「お待ちしてました、噂の件ですね?

 温かい場所を用意してあるのでぜひそちらでお話をしましょう」


 !?

 思わず噴き出しそうになったじゃないか!!

 誰だお前、普段のドスの効かせた声はどこへいった!

 あ、でもまだ身体運びとか顔が無理している!

 緊張してカタイ!


「ああ、何か知っているのだな。ではぜひ案内してくれ」




 その後道中で話をしながら新築の家へと向かった。

 ガラハは緊張はしていたものの衛兵の先頭の1人が気さくでなんとか保っている様子。

 天気、名前、それに最近の噂まで。

 普段から慣れているトークの仕方な気がする。

 まあ、ガラハがどう見ても子どもなのも影響しているだろう。

 衛兵も良い子相手ならば談笑してくるのだ。

 顔にも兜つけてて笑っているかの表情はわからないんだけどね


 そしてついには家にたどり着く。


「凄いな……これが噂の?

 おい、記録良いか?」

「はい」


 背後の方にいた衛兵たちが慌てて何かを書き出す。

 いやまあ森の中になぜか家建ってたら驚くよね。


「お……私達の建てた家です。冒険者の中継地をこの付近に作る予定なので、その下準備ですよ」

「ここに住み込みで働いて拠点をつくると?

 それの申請は……いや、それは管轄外だからそっちに話を通してもらうとして、その、平気なのかい?」

「大丈夫ですよ、頻繁に街には戻っていますから」


 ガヤガヤと話しつつ家の中へと入っていく。

 『申請はあとで取りますね』とフォローも入れつつ案内していた。

 あの、ガラハが!


 移動して聞き耳をたてる。

 子分たちがお茶をくばり客間でくつろがせているようだ。

 天然洞穴の交換所の話やどうしてこういうことをしているかの話をしていた。


 ガラハが言葉に詰まっても子分たちがフォローを入れて成り立っている。

 ヒヤヒヤしてたらまた移動だ。


 今度は天然洞穴で交換所のチェック。

 炭の作り方とかなぜ現金NGなのかとか。

 肝心な……ようはガラハも知らない事は商売の秘密ということにしておいたようだ。

 物々交換なのは、


「そもそも森で大金の取引もおかしな話でしょう」

「それもそうだな」


 と上手い具合に質問を回避していた。


 また移動して家の中へ。

 外から聞き耳をたてる。

 話は『指導するホエハリ』の話へ。

 なぜ噂は微妙にねじれるのか。

 ミリハリだよ! その時は!


「恐ろしく強く毎度叩きのめしてから冒険者たちを癒やし、スキルで思考交信をしてくる謎の魔物……

 冒険者たちは揃って良い魔物というが、何を考えているかわからず不気味だ。

 そもそもホエハリは人の言葉を解するほどの知能はないはずなのだが…、」


 さあてうまく返してくれよガラハ……!

 考えたのか、少し間が開いてからまた声が聴こえてきた。


「それは、まあ推測になるんですが……この森にいる魔獣使いの噂は知っていますかい?」

「ああ、少しだけなら聴いたことがあるかな」

「その魔獣使いがホエハリを遣わして、ホエハリを通して指導しているんじゃないかなと、お……私は思うんです」

「なるほど」


 おお、なかなか良い線だ。

 さらに話は続く。


「そのホエハリに会ったことは」

「ありますね、指導も受けました。

 実際にかなり役立ちますし、言っている事が人でなければ分からない事も多いですね。

 なので実際に人が言っているんだと思いますよ、お節介焼きなのかと」

「その2つの噂はセットの可能性が高い……と。

 ありがとう、このぐらい記録が取れれば上も納得するよ」


 よし、凄いぞガラハ!

 後で褒めようっと。


「で、なんて言ってるの?」

(かくかくしかじか)

「ほほー、うまく誤魔化したんだな!

 ウソっていうのも面白いなー!」


 なぜか私がずっとイタ吉に翻訳するハメになっていたことだけが納得いかない。




 衛兵たちはその後しばらくしてから家を去っていった。

 ガラハは家に残り見送り。

 私はもうちょいこっそりついていくか。


 衛兵たちはすっかり仕事終わりのムードだった。

 色々見せられて報告できる内容が多いのが満足なのだろう。


「いやー色々あるみたいだけれど、まあ俺達の管轄じゃないしな」

「こんだけ書類書いたんだ、後は余所がやってくれるさ!」

「あとは面倒なのに出会わなければ、やっと帰れるわけだ……ったくなんで俺達が街を離れなきゃならないんだ!」


 そんな風にのんきにあるき続けていた。

 そして……


「会敵!」

「ああ、やっぱりこの時期は!」

「ヒヤフリーズ! 炎の準備!」


 うわー、面倒くさいやつ筆頭に出会った!

 なんか探索系の魔法でも使ったのか見事に氷魔が彼等に襲ってきた。

 いや、近くに来て襲われたと勘違いして魔法を撃ったのか?

 いずれにせよ激しい交戦が発生。


 だけど油かなんかで火を纏わせている武器でちくちくと……いけそうか?

 ……うわッ。


「くそっ、スケルトンまできやがった!」

「最近確認され始めた奴らか!」

「ぐああっ!!」


 スケルトンたちが数体……雲行きが怪しい。

 切られた衛兵は下がって治療したか。

 氷魔自体がかなり強いんだから増援は厳しいよな。


「おい、負けちゃいそうだぞ、良いのか?」

(よくない、行ってくる)


 進化は下準備がやや時間がかかる。

 唱える、練る、安定化、そして『進化』!

 "私"の出番だ!


「うわぁぁ!!

 ホエハリまで来た!!」

「いや、あれはミリハリ!?

 危険だ退避しろ!!」


 お、あの先頭にいた人は判断が早いし正確。

 まずは衛兵に斬りかかってるスケルトンをタックルで崩してから斬り裂く。

 邪魔なスケルトンたちは土槍魔法(Eスピア)と物理技で破壊だ。

 そんで最後のスケルトンには武技畳返し。

 床ごとスケルトンをひっくり返してやった。

 そのままガリガリ破壊!


「な、なんだ!? 魔物同士で?」

「今のうちに下がれ!」


 氷魔のつららを避けつつ接近、影避けで時間を稼いで強化フレイムボール。

 火力を上げてぶつける!

 冷凍魔法を貫通してジュウジュウと蒸発音。

 炎付与(フレイムエンチャント)で棘に炎をつけてから術の針操作!


「凄い……圧倒している!」

「あんなのに襲われたら勝ち目がない、逃げるんだ!」


 そのまま攻めに攻めて、籠もらせない。

 最後には炎膜付与(フレイムガード)をしてからタックル!

 炎の突進で全て破損、蒸発させた。


「つ、次は俺らが……」

「足を動かせ!」


 バトルおーわり、私に交代。

 ガンガン衛兵たちが逃げていくがちょっと追いかけよう。

 流石に鎧着ているニンゲンより速く走れる。

 すぐに追いついた。


(こんにちは、今日はお仕事で?)

「なっ……」

「もしかしてコイツが噂の……?」


 敵意がない事をさり気なく伝えるために気配を落とす。

 困惑が広がっているようだが、足は止めてないね。

 そして……


(では、またお暇なときにでも)

「あ、ちょっと!?」


 面倒くさいことになる前に離脱!

 これで噂の裏付けが出来つつもボロを出す前に逃げる。

 まあ、これで良い具合に行けばいいけれど……


 その後進化を解いてまた隠れていたがなんだかんだと縄張りの外まで歩いていけたようだ。

 困惑はしていたが物騒な事は言っていなかったしね。


「はぁ〜、お前も随分強くなったよなぁ」

「そう? イタ吉も鍛えなよ」

「おう! もちろんだぜ!」




 その後木家に戻って彼らを褒めたら緊張がとけたようでまたドスの効いた声で喜んでた。


「よっしゃあ! 俺様たちにかかれば衛兵なんてチョロいもんだぜ!」

「うん、言い回しに問題があるのはともかく、今回は本当に助かったよ!」

「なあに、旦那たちに貰った恩は必ずこうやって返していくって所、見せれてよかったぜ!」


 こうしてこの事件は片付いた……のだが。

 彼等はその後『冒険者たちの中継所制作申請』にめちゃくちゃ苦労したという。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ