七百二十九生目 最終
水銀の大河を渡りきった。
ついでに互いのことを話し合い仲が深まったようだ。
相変わらず風に乗って鉄が飛んでくる……と思ったら。
今度は新たに結晶が飛んできた。
どうやらまた違うエリアが近いらしい。
それはそれとして方角を確かめつつ歩む。
確か……大河を越えたら水晶やら結晶やらがたくさんある方へ歩いていけば良いはずだ。
実際に目の当たりにする光景でそれらが見えだしてきた。
全体の光景としてはあまりに奇妙。
私達が海にやってきたかのようだ。
カラフルな石たちが地面からたくさん生えているのだから。
こっちの石は……石とは言ったけどよくみると違う。
宝石だ。
宝石がサンゴのようになっている。
色は薄く赤く透き通っていて……つまりルビー!?
木のようになっていてサイズもそれほどある。
もちろん群生していて……ええっ!?
「おやおやっ、これ全部もしかして本物の宝石かい? まとめて売り払ったら、いくらになることやら……」
「とんでもねえなあこの砂漠、金属がたくさん取れるのなら、軍需がとてつもなく高い」
「きれいですけれど、うっかりこれが市場に出回ったらと思うと、ちょっと怖いですねえ」
「うん……」
ちょっとやそっとの値段たちではないからな……
市場が大混乱して収拾がつかなくなる可能性もある。
多くの宝石関係者たちが店じまいするかも。
この宝石たちの木をよく見ると中に本物の木の枝や葉がある。
さっきから私達含めて風にのって鉄なんかが飛んできても弾いている。
身を守るために宝石をまとうとは……なんとも美しくも不思議で合理的。
さらに水晶が大きく地面から突き出ているものもいくつもある。
何となく光が地下へと導かれているようで見てみると……
その地下には本物の木が!
屈折反射で地下まで明るい光を届けることで安全に光熱の力を得て地下で育つとは……
ということは実のところ地面の下は木たちがぎっしりあったりもするのだろうか。
なんだか気持ちがおかしくなってくる。
確かにこの迷宮は圧倒的に地下が安全だものなあ……
水もなぜか下の方にある。
光さえ手に入れば問題ないということが。
とにかく猛風とそれによって運ばれるものたちが痛いので環境適応の姿が他と大きく異なる。
周囲の鉱石風樹木たちがどんどんと大きく群れだして森のようになってきた。
同時にその影響で風が薄まっていく。
「……ん?」
「どうした?」
「魔物……いや、あれは……」
私の5感が何かの動きを捉えた。
その影はあまり強い警戒心を抱かずにさっさと移動している。
不意を打たれる前にみんなで背後に回り込む。
なにせメンバーがメンバーだ。
全員隠密はムリに近い。
速さと地形でカバーするしかなく……相手の姿をなんとか捉えれた。
「あれは……!」
「さっきの銀色スライムの、小さいバージョン……!」
小声でたぬ吉とオウカがチェックし合う。
スッとというよりズッと擬音がつきそうな重さで奥へと消えていく。
全員うなずいて跡を追うことに。
どちらにせよルートはこの先みたいだからね。
十分距離をとってガチャガチャ足音を立てつつ近づく。
スライムって基本的にそこまで賢くないかわりに動いていないとこちらのあらゆる探知から逃れやすい。
ぶっちゃけほぼ水だから……
ここのは金属のようだが。
周囲と同じようなものに適応しているから違いが薄い。
なので警戒心だけは常に高く。
スライムが単純なのを利用してわざと派手に動き待ち伏せ先行行動を誘う。
そうすれば動いた気配を感じれるからね。
しばらく追尾して宝石の木々が絡み合い珍しく風の薄い場所になってきた。
スライムはもう少し奥へ行くようだが……
「来ました!」
「ここ、多いぞ!?」
「待ち伏せされた? いや、もしやここは……巣か!」
金属スライムたちの巣!?
オウカがそう叫んだのもムリはない。
あたりにいたスライムたちが系10匹もうごめいてやってきたのだから。
確かにココは身体を休めるのにぴったりだ。
だからと言って金属スライムの巣になっていたとは……"観察"!
[メルスライム Lv.10 異常化攻撃:腐食 危険行動:金属喰い]
[メルスライム 金属を食べることに特化したスライム種のひとつ。よく腐食させたあとに金属だけを食べるためスライム種の中でも珍しくより好みが激しい。ラストモンスターと呼ばれるうちの魔物の一体で全身はほぼ金属なためキズを負わない]
「ら、ラストモンスターだ!?」
「なんだって!? 私の知っているやつは、もっと虫っぽいが……」
「おんなじ力を持っているうえ頑強そうです!」
危ないうっかり剣ゼロエネミーを出しかけた!