七百二十八生目 呪印
オウカさんが冒険者になった経緯を話してくれている。
水銀の大河を浮いて渡る間私以外ヒマだからだ。
「暗殺集団に捕まって拷問!? そんなむごいことが……」
「因果応報としては、当然のむくいさ。そして、暗殺集団たちもとても人さまには言えないことをやっていたらしいね。冒険者たちが乗り込んできて潰され、私は保護された。小娘の時代はそうして終わりをつげたのさ!」
出来る限り明るい口調で言うものの中身はどうしようもない。
冒険者たちは場合によって自警団みたいなのから未知の地で地図を作っていたりもする幅広さがある。
信頼稼業なので国が管理し色々手厚いもののその分厄介事を押し付けられやすい。
そして底辺だとその信頼がないためなかなか厳しいとも聞く。
そうして自警団が信頼を失えば一転して暗殺稼業に走ったりするわけだ。
そういうのを取り締まるのも衛兵だけでは足らず冒険者たちの自警団が動き……と。
「また壮絶だな……そこから冒険者にだなんて、なれるのか?」
「まあね! 保護されたあとに治療されたけれど……顔バレしているわけで。あわや投獄かと思ったら、そうはならなかった! 私が色んな意味でダメになっていたのと、それでも腕はあったから、冒険者ギルド側が保護を申し入れたのさ。だけれども当然この顔は恨みを持つ。この時、大刀を操る誰かさんはいなくなったことになり、代わりに全身鎧を纏う私が生まれたってわけ!」
……あっ!
前オウカさんが顔を見せた時にゴウとダンが驚いた理由が分かった!
事情を知っている相手ならば……それは確かに……
あの顔を持つ大刀の戦車はもう存在しないのだ。
そこそこ昔で大陸の方では特に異名は広まっていないだろうからあの時ゴウがからかい混じりに呼べたのもわかった。
オウカにとって顔を見せるとは……
まさに命を預けるに相応しい信頼。
脅迫に近いほどの意味合い。
それを理解していないだろうと踏んで私にするとは……鬼か邪か。
後からこのエピソードを聴かされることによりこの呪いは完成する!
…………まあ良いけれど。
「……えっ!? じゃあオウカさんって本名じゃないんですか!?」
「うーん……微妙なところかな。正直名前が変わったって方が正しいかな。今はオウカでまちがいないよ」
「なるほどなあ、自分が何かを知られるとマズイから、冒険者になってからはその鎧姿でずっと活躍を……うん? 待てよ、俺達にそれ話して良かったのか?」
「なあに、キミたちはそもそものことを知らないだろう? それに、キミたちがよそに話さなければ良いだけだ。イイね?」
「「は、はい!」」
オウカが最後だけしっかりと私の方を見てきた!
うぐうやはりそうかあ。
まあいいとして……あの顔の傷のことをやはり思い浮かべてしまう。
傷は心と連動して深く刻み込まれると採れないと効く。
暗殺集団に雑な治療を受けた以上に心の傷が目に見えているわけだ。
どんな責め苦があったのか想像すらおよばない。
「ま! 地道に信頼積んで仕事に真面目なうちは生かせてもらえてるってことで、もう過去の出来事だよ。とりあえず……上のヤツはやる気っぽいね」
「む……! 後少しだったんだが!」
上空から大きな結晶鳥の1羽が舞い降りてきてた!
近くに来るとその大きさがわかる。
私達合わせても翼を広げた結晶鳥に大きさが敵わない。
今すごく困るのに……!
コントロールが楽にできる魔法じゃないのだ。
なんとか突破できるかな……うわっ!?
下から急激に膨れ上がる気配!!
「……え!? この感じは……?」
「「うわああ!?」」
水銀が舞う。
前方の大河が大きくうねったのだ。
それはまさに普通ではありえないほどに。
結晶鳥を水銀が覆い尽くす。
そんな大規模なうねりが突如自然に発生するはずない。
なによりこれで結晶鳥が引き込まれ無残に悲鳴を上げている。
これは……もしや……!
そう思っている間に私達の目の前にいる結晶鳥が包み込まれ水銀の塊が盛り上がっている。
そこにとってつけたような顔が現れた。
「スライムだー!?」
「スライム!?」
「こんなに大きいのも……しかも水銀の中にいるとは!」
結晶鳥を飲み込むと何事もなかったかのように水銀の水位が下がり再び大河と戻る。
……ゾッとする。
無言でルートを変えてその後無事に対岸へとたどり着いた。
「空飛んでいるときに途中、生きたここちがしなかったよ……」
「いやー、私の経歴のあとみんなの経歴も聞かせてもらったけれど、みんな面白いねえ、個性的で!」
「ちったあ互いのことは知っておかないとな!」
少しの間ストームにはなっていないが鉄飛び交う中を歩く。
さっきの大きな水銀スライム……他にもいなければいいけれど。