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七百二十七生目 戦車

 この黄金砂漠の迷宮にある大河。

 それは少なくとも上部は水銀で出来ていた。

 当然下側に何があるのかまるで見えない。


 4名とも近づいたところで……"見透す目"!

 おや……意外にも水銀の下はきれいな水である。

 比重の関係で本来はこうならないはずなんどけれど。


 正確には本来水銀の上に水が行く。

 なんなら私達が上に乗ることすらできるだろう。

 流れがあるからやめておいたほうがいいが。


 ソレ以上に細かいキズから水銀が入ったら取り返しがつかないかも。

 どのような原理にせよ不可思議さと美しさと危険さが隣り合わせだ。


「かーっ、一度はこういうので泳いでみてえな!」

「よっぽど対策しないとむずかしいかな……」

「どうやって渡りましょう……?」


 徒歩の案。

 まずこれは却下だ。

 水銀の中からヌルリと液体をかき分け潜む影。


 ワニだ。

 金属のワニ。

 多分普通に生きていると思うがのんびりと獲物を待っている。


 ワニもいればカバもいる。

 背中や鼻から煙を排出している……

 機械では……ないと思う。


「錬金術師たちが垂涎(すいぜん)ものの光景だなあ」

「水銀は有用な資源ですから、産業に限らず引き手あまたでしょうね……」


 オウカが周囲に渡れそうなものを探しつつこぼす。

 そう……この水銀の大河は求められるだろう。市場価値が崩壊するほどに。

 この水銀はみるからに次から次へとどこからか来てどこかへ流れていく。


 その一連の流れを抑えれれば?

 ……水銀研究がはるかに進みそうだ。

 私達でどうこうして良いものではないのは確実だろう。


 さあそうと考えが決まれば渡る方法を考えねば。

 実はテテフフからは『銀の大河を越えて』と言われていた。

 まさかこんな水銀が流れているとは思わなかったが。


 水の流れのこともよく銀と表現するせいでなんとも思っていなかった。

 まさかここまで直球でくるとは!


 空にちらりと目をやる。

 意外に低空を大型の鳥たちがいろどりみどり飛んでいる。

 こういうところで魚の気配をさぐっているのだろうか。


 大きな鳥たちは私達より断然大きく……そして結晶のように透き通っている。

 羽根ひとつひとつが結晶みたいだ。

 宝石のような瞳でこちらを見下ろしつつ滑るように飛んでいく。


 ……やはり通るには低空を飛ぶしかないかな。

 上と下どちらも刺激しないようにしよう。

 "ミニワープ"するには距離がありすぎる。


 『エアハリー』になるには危険なのでここは『グラハリー』のまま他の魔物が使うスキルを借りよう。


(まかせてー! それ〜!)


「みんな! 魔法で飛ぶけれど、あんまり制御利かないから、周りの魔物たちを刺激しないでね!」

「うわっ!? ま、またこの魔法かーっ!」

「おお、全員を浮かす魔法だね!」

「うわお、ゴーレム、飛びますー!」


 ふわりふわりと浮かび静音を維持したまま4名とも浮かび飛んでいく。

 うう……大丈夫だと思っていても常に不安がつきまとうなあ。

 ただ恐怖感がある方がちゃんと心を配って動かせるはずだ。


 慎重に……丁寧に。

 水銀の大河を眼下に。

 飛び回る魔物たちを頭上に。


 その隙間を縫うように飛んでいく。


「ふう……なんとかなりそうだな。そういえば……オウカ、だったか? まだあんまり話していなかったな。ココであったのも何かの縁、なんで冒険者になったのか聞かせてくれないか?」

「お! 聞いちゃう? そうだね、良い機会だから話してみようか!」


 飛ぶ間私以外は警戒以外やることがない。

 オウカの冒険者のきっかけか……

 そういえば知らないなあ。


「ええ、ぜひ!」

「まあ今ではずっと昔、私がまだ小娘だった頃さ! その頃、私は大きな刀を振り回してね。人間同士の争いで、魔物との狩りあいで、依頼されて雇われては血を正面から行って血を浴びる、そういう生活だったのさ」


 大きな刀……ああ! ゴウが言っていた『大刀の戦車』時代!

 今では獲物(ブキ)も違うし随分生き方が違うけれど。


「ひええ、怖い人だったんですか!?」

「ははは! そうさ、剣を交えたヤツは誰だって轢き潰される。人だろうが魔物だろうが全員轢き潰し殺した覚えがある。やりすぎだって声に耳を貸さずにね。だからこそ……ヤキが回った」


 ……あ! オウカが1度だけ見せた素顔を思い出す。

 おばあちゃんである以上に深く刻まれた傷跡たち。


「なるほど、大方恨みをかったな?」

「ああ、しかも依頼の違法性だなんて気にしていなかったらからねえ。多くの罪状で首に賞金がつき……そしてついには非合法な暗殺集団に捕まった。誰に雇われたかはわからないが、その思い当たる節はたくさんある。殺すのではなく日々死ぬ寸前まで拷問され、その後に回復させられた。死ねないから、無限に繰り返される。負け知らずが知った初めての大きな負けは、心の受け身が出来ない小娘の心を折るは容易かったね」


 水銀の大河を渡り切るにはもう少しかかる。

 気軽に振られたことに関して中身が重すぎる……!!

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