七百二十六生目 水銀
オウカとジャグナーそれにたぬ吉。
そこに私を含んで4名。
絶賛鉄の嵐を踏み進む。
ちなみにこの迷宮の名前は黄金砂漠と呼ぶらしい。
今の所サビているような鉄が飛び交う嵐の中歩み続けているため黄金というより赤黒。
サビているようなというのは私達についた鉄をぬぐって払ったさいに気づいたことだ。
「まったく、本当にこんなところでも植物は元気だねえ」
「飛ぶ鉄たちと共にとんでもなく微小な植物が生えているだなんて、草の多い僕としてはなんだか親近感がわいてきました!」
なんとこの嵐の中植物が少なくともふたつもある。
1つは"観察"したところ[サビクサ]と出た。
赤サビのようだが非常に強固に生えている。
そう。サビて脆くなれば楽なところ、絶賛鉄を固くする草なのだ。
これはこれで使えそうだが今はテテフフの言う通り番犬に合うのが先だ。
ガンッ! と頭に大きめの鉄が当たってまたどこかへ飛んでいった……
そんな音が私だけではなくたびたび横や前やと聞こえるので心に良くない。
サビクサのせいでたまに細く鋭利なままの鉄もあるからとても心によくない。
ほとんどダメージはなくともね……
そしてもう一つの植物。
私達に否応なしに張り付くのでわかった。
"鷹目"の応用でズームインしてやっと何かがあるのが見える。
それまでは鉄砂にまぎれ色が不思議だとしか思えない。
……植物プランクトンだ。
粘液のせいで私達に張り付くし小さいので鉄の嵐では死なない。
おそらくこの嵐を利用して自身を遠くへ飛ばしては繁殖するやつなのだろう。
"観察"をしたところ[陸プランクトン]と出た。
たくましいものである。
「方角はあっているかー?」
「大丈夫ー! テテフフに言われたとおり、まっすぐ歩いているよ!」
「目印がないから迷いやすい! 常に微修正するぞ!」
オウカに言われ脳内にいつもの魔法とスキルで作ったマップを良く見ておく。
"見透す目"と"鷹目"でこの環境でも透視して視界を確保。
風が乱れすぎて嗅覚があまり役立たない。
マップは正確に作られてゆきしっかりと入口からまっすぐこれている。
方角は合っているしおそらくそろそろ私には何かが見えるはず……
なおこの環境でも魔物たちはあちこちに潜む。
サビクサがあればそのサビクサを食べる虫や草食魔物。
陸プランクトンがあればこの鉄嵐を泳ぐ鋼鉄のような小魚たちがいる。
昆虫食のモグラたちは鉄くずの地面を掘りかき分け小魚狙いの肉食鉄鮫がたまに飛び出す。
ここでも食物連鎖があり私達はよそ者扱いということにどこか感動。
ここにいる魔物は草食も含めて比較的おだやかで私達をテリトリーから追い出そうという気は薄いらしい。
相手はどれもこれも硬いか特別な生態なので助かるからこっちも荒らさないようにする。
「くそっ、まだ何も見えねえか!?」
「ううん……もう少しかな……?」
ジャグナーが腕を振るうと鉄が弾かれ飛んでいく。
場を荒らさないためにも精神的に早く抜けたいがためにもみんな駆ける。
方角が合っているのはわかるため軽いランニングしたほうがずっと効率が良いからだ。
入口から入って1時間近く。
そろそろ次のエリアが見えて欲しい……
おや!?
「何か……何か見える! まだ少しは向こうだけれど……銀色! 何かの銀色が見えるよ!」
「よっしゃ!」
「いきましょー!」
やっとこさ見えだした先への道。
何分かかってももうあまり辛くはない。
見えれば駆け抜けるだけ!
「「抜けたー!!」」
ついに鉄の嵐を抜けた!
そして視界がひらけることで全員が目に出来る。
この先にある……銀色のそれに。
「な、な!?」
「うお、すっげえきれいな川だな……それにでかい!」
「……うん?」
「うわー! ちょっとすくってみましょうよ!」
ジャグナーとたぬ吉がかけていった先は川。
とても広く大きな川はまだ少し距離がある。
私も後をついていくが……え。あれ。本当に?
"観察"!
[水銀]
うわああああ!?
水銀の大河だあぁ!?
前世でいうナイル川みたいに水銀がなっている!?
いくらなんでもこれはおかしいでしょ!?
独特性のある迷宮世界の中でも限度があるよ!?!?
あっヤバイふたりが先行している!!
「おーい! 近くで誰も敵意を向けてない! いくぞー!」
「待って待ってー!」
「いやー、まさかあれ、液の銀じゃないのよね……? まさか……?」
「現実です! あれ水銀です!」
オウカが現実離れした光景に苦笑いしているが残念ながら現実である。
私とふたり顔を見合わせうなずいて…、
急いで先行組に駆け寄った。
「それに触らないでー!!」




