七百二十五生目 鉄嵐
「なんだこりゃ、壁一面に魔力壁が!?」
洞窟の最奥。
勇者1行と私はテテフフに連れられここまでやってきた。
見上げるほど大きな魔力の壁が天井まで続いている。
いわゆる結界だ。
不透明な緑色が奥への視界を塞いでいる。
テテフフがその結界に触れて何やら念じた。
『許可済みにキミたちを追加した。少し見てから。戻ってきたほうが良い』
恐る恐る結界に触れてみたら私たちの身体が結界を突き抜ける。
向こう側は……不自然に現れた砂の階段だった。
これは……迷宮が切り替わる階段だ!
「……行きましょう」
「うん」「おう!」「はい」「ああ」
ゴウが弓を背中から取り出しつつ歩く。
いわゆる斥候の役割だ。
背後警戒はあまりしなくていいためあとはごちゃっとひとまとまりになり進む。
階段を降りきる……直前でゴウが止まる。
合図に合わせ全員静止。
「ちょ……ちょっとこれ、覗いてみてください!」
「どうした?」
ゴウに誘われるがまま覗き見ると……
嵐。
上の砂漠に比べると外は暑くないが……
飛び交うものの一つに目を向ける。
速いものほど良く捉える目だが……
それによると。これは。鉄片。
「なんで鉄が嵐になっているの!?」
「こ、これ鉄なのか!?」
「だとするとここを進むのは……」
オウカが驚いて後ずさりしグレンくんが引きつった笑い。
……言われた通り一旦引き返すことにした。
『なんで行かせないか。わかった?』
「弱い人がうっかり踏み込んだ瞬間にミンチですね……あれは……」
テテフフの念話にゴウ含めてみんなうなずく。
あれは……私やオウカみたいにグラハリーで全身を固めたり元々ああいうのが効かない体質じゃないと……
相当厳しい旅路を覚悟しなくては。
『ちなみに。奥に行けば行くほど。嵐は強く激しいものになる』
「「ええっ!?」」
「そんなところで何か住んでいるのか……?」
『意外なほどに。生物は多い』
テテフフの言葉が信じられないほどだ……
いくらなんでも環境的に厳しすぎる気がするが。
それでも生き抜こうとする生命たちはたくましい。
「い、一応聞くけれど、裏ルートから楽に行けるだなんてことは……」
『ない。けれど。いつもストームが吹き荒れるわけじゃない。たまにストームが吹かない時間もある』
「ううーん。天気の運で切り抜けるには厳しそう……」
グレンくんの頼みの綱は絶たれた。
私も思わず苦笑い。
「真面目に切り抜けるには、俺ではむりだね……」
「私であの鉄くず嵐ならなんとかってとこだね」
「俺は防具が浅いからな……!」
「僕も、あまり……」
グレンくんやダンとゴウはムリ。
全身を固めたオウカでなんとかか。
私もこのグラハリー姿前提だ。
「……あ、そういえば、例のその……番犬さんはどこに?」
『番犬は。黄金の砂漠にいる。どこにでも目があり。あの嵐の世界では。ずっと侵入者を見ている』
「ホラーじみてきたな……」
ダンが筋肉山盛りな身体を縮こませるように両肩掴む。
確かにそこまで徹底して中に誰も入れないようにしているとは……
私達は入って本当に平気なのだろうか?
「あのー、それって本当に私達入っちゃっていいの? いけるやつだけで行くけれど、死にには行かないよ?」
『中のものは。取らないほうが良い。それが監視の理由』
「ああ、中の物を取らなければ……うん?」
「僕たちの目的、もしかしてあの迷宮にあるものじゃあ……」
鉄嵐の中にあるとしたら……間違いなく番犬さんに見つかるだろう。
つまり逆に言えば。
「何を集めるにせよ、とにかくその番犬に会わないとね。その黄金の砂漠はそこそこ近くにあるの?」
『砂嵐の最奥。いくつも乗り越えなければ行けない』
「ますますムリじみてきた……」
オウカの質問にテテフフが返すものの……
これは普通ではそうそうムリだぞ。
魔法で天気系の効果をとにかく弱めていくしかないか……
「まあ、ともかく編成をしなおそう。今回行かないものは、残り2つの場所を探すってことで」
「オウカさんとローズさんはなんとかいけそうですね。残りはどうしましょうか?」
「私の方でなんとかなりそうな面々がいるから、その魔物を連れてくるよ」
オウカが振るとゴウが選び私が足した。
全員他に意見はないようでうなずく。
ならばこれでいこう。
砂嵐の迷宮。
進むのは私のグラハリー進化済みとオウカ。
そして……
「黄金の砂漠か……本当にあるのか?」
「鉄の嵐はすごいですね……これ外に出たらすぐにやられちゃいそうです」
身体から岩が生え鉄の嵐でも平然と歩くクマのジャグナー。
そして大きな草たぬきゴーレムを作り出し2足で歩くその中にいるのがたぬ吉。
計4名でこの嵐を突き進む!




