七百二十三生目 幻材
勇者の剣を再生し完成するのに必要なものはどれこれも伝説上のような品々を指していた。
「これ、どれも必要なの……?」
「色々と一晩試したり計算しなおしたかが、すくなくともこのぐらいの物はいる。確実にな」
問題なのは具体的な品の名前や採れる場所がわかるものではないこと。
つまり夢のような材質が求められるということだ。
途中多くの理解不能な書き記しがあるが文脈からするにどうやらカジートのスキルを使った形跡らしい。
つまりカジートの鍛冶に関するスキルと知識と経験とそしてカジート父の分も全て盛りに盛って計算。
勇者の剣という魔王を打ち倒す今度こそけして壊れない剣を作り出すには。
金竜の尾という最難関をパス出来ても求められるものがたくさん。
剣に使う金属は固体でありながら液体としての流動性を持ち気体のように実体が掴めず軽くそして膨大な魔力と同時に頑丈で不変で聖なる特殊性を持つもの。
砂も使うがそれはただの砂ではない。有機物から無機物へと作られた砂が長い年月の果てに邪怨と高魔力がこもった品。
そしてそれらすらも容赦なく溶かす劇毒。特にふんわりと軽く液状ではなく粉状で溶かし壊し狂わし終わらせる猛毒。それでいてその毒は植物のように生きてるものが良い。
さらにもろもろの高級材料があるが霞んで見える。
あと……異界の力を帯びて高い能力を誇る魔力が込められて超強力な死の気配がある粉や牙がいる。
ここらへんはそれぞれ別々でも良いようだが……
「なるほど……これは親父の前に大きな壁として立ち塞がったからこそ、未完だったのか。やっと同じ場所の景色を、後ろの方から見れた気がする」
「これらはある程度別々のものから組み合わせても、まあいいんですよね?」
「限度はあるな……出来る限り、素材の種類は少ないほうが良い。だがこれほどの必要種類を満たそうとすると、困難だからな……実際にやるにはどれだけ合成する必要があるか、さっぱり読めん」
確かに作るものそのものは一振りの剣。
だから合わせて合わせてと圧縮がどれだけ出来るかによって素材の上限数が出来てしまう。
とすると小は大を兼ねるとはいかず良質なものを用意する必要が。
しかもかなりぶっとんだ内容の。
ただ……
「あ……もしかして」
「ン? どうした」
「この素材なら……あるかもしれません。少し待っててください」
事前に断りを入れ空魔法"ファストトラベル"!
私の家! ひとっとびで倉庫へ!
置いてある箱のひとつに……あった。
アラザドの牙や灰や布の切れ端!
パワーが凄まじいのは分かっていたがまだ倉庫の肥やしだった。
こいつを持っていこう。"ファストトラベル"!
「おまたせ! これ使えないかな?」
「うおっ!? 帰って来たたンか……これは……? ……ぬおっ!? ンだこれは、どんでもない力を! もしやこいつが!」
「うん、さっき書いてあった、異界の力を帯びた高い魔力の品なんだけれど……」
カジートは牙を手に取りその手から不可思議な発光をさせながらじっくり観察する。
鍛冶系のスキルだろうか。
「……おお! これならどうにかなる!! こんなもの、一体どこから!?」
「異界に封印されていた元邪神をシバいて」
「……かはは、まあ、とにかくもらっておこう」
かわいた笑い。
嘘だと思われたな……
まあいいか。物を渡しておいた。
「あと……守護竜神からのお言葉覚えています?」
「毒沼の白雪。崖の白砂。砂漠の白金。だったな……そうか、まさかこれは、材料のことを指しているのか!」
「ええ、今の感じだとおそらく」
「さすがは守護竜神様……この未来を見通しておられたか」
守護竜神は視えた未来と言っていた。
おそらくは断片的なイメージを伝えてくれたのだろう。
それがこうつながることは視えなかったために具体性に欠いていたのか。
「毒沼、崖、砂漠がポイント……ということか。心あたりは?」
「ううん、読んだ本に確かそのような迷宮が……あ、でも砂漠は多分……知っている」
テテフフの住む迷宮だ。
確証はないものの調べる。
「ふう、なんとか運び終えた……後の崖と、毒沼? に関しては俺の方でも探ってみるよ」
「よろしく、読んだ文献だと確か――」
本の中身を思い出しつつグレンくんに伝える。
グレンくんはメモを取って……書き終える。
「すまないな。俺ン方でも、調べられることは調べてみる。里の方で情報を仕入れてみる」
「お願いしますね」
「それじゃあ、準備が出来たらその心当たりのあるところにまで行こう!」
グレンくんの元気が良い号令でその場はしめられた。
砂漠の迷宮。
ここは年がら年中気温は暑くジリジリと焼いてくる。
夜は逆に急激に下がるが……
勇者1行と私達はここへとやってきた。




