六十八生目 蘇生
おはよーございます、平和な日々が続いております。
一時期はどうなることかと思ったけれどアレからは平和なまま。
森の中をウロウロするとたまに冒険者たちがいるので絡みにいったりしている。
強い人弱い人色々いるけれど人との戦いは結構楽しい。
豊富な連携と魔法と技術の道具を駆使して攻撃してくる。
今のところ負けたことはないけどね。
反省会も好評なようでリピーターもたまにいる。
冒険者たちもホエハリ狩りの依頼でなければ私を殺すことはないからね。
互いに楽しいスポーツバトルだ。
前に上がったレベルで29になった。
それで手に入れたスキルは……
[ズタ裂き 相手に複雑な切り傷を与え出血を促しスリップダメージ状態を狙う武技]
スキル切り裂きの隣に合ったものだ。
継続的なダメージを与える技らしく、"私"向きでもある。
気をつけないといけないのはズタ裂きでの継続ダメージにスキル峰打ちは乗らないらしいことだ。
ウサギが血塗れになったあげく斃れたのはなかなかスプラッタだった。
"私"補正で思い出の中のそれは美しい光景のように思えるが……うっかりではシャレにならないからね。
それとスキル変装のレベル上げも頑張っている。
レベルが2になると身体の一部分の輪郭を曖昧に出来始めた。
ただまだこの時はなんにもならない。
ちょっと面白いだけ。
そして今レベルが3に!
うまく息を合わせ、ゆっくりとスキルを適用させていく……
範囲が広ければそれだけうまく出来ない。
前脚だけによせて……
もっと集中。
より足先だけに……
徐々にカタチが変わって行きグニャグニャとなりながら伸びていく。
前足は広がって行き姿が落ち着く。
おお! 手だ!
4本指だったり肉球はそのままだったり気を抜くとすぐに姿が戻るがそこは訓練。
毛皮はいい、無くすの大変な割には寒くなるだけだし。
問題は……神経の通りがそのままって言えば良いのかな。
ニンゲンの指先みたいな動きは出来ない。
あと地面に付いてないと身体を支えないしね。
訓練はまだ続くなあ。
せっかくいるのだからということで、レヴァナントに色々とニンゲン界の話を聞いてみた。
冒険者3人組たちには正体明かしていないからあまり深くつっこめないのよね。
とりあえず敬語はやめて、とか改めて名前を聞いたりとかもした。
名前知っているけれど観察で読み取っただけだからねぇ。
そうしたら『姓がヤマナ、名がユウレンよ』とフルネームを知れたのは意外だった。
観察では全部知ることは出来ないわけか。
「そう言えば来てから数日たっているけれど、何を食べるの?
食べた所見たことがないのだけれど」
「ああ、それはワタシがレヴァナントだからよ。
普通の人と違ってあんまり食事はいらないの。
水と……生気か邪気があれば良いのよ」
聞くところによると、生気は生きている存在、邪気は死んでいる存在がごく自然と発しているものらしい。
無理やり吸い取ることもできるがこの森ほどどちらにも満ちている場所なら必要がないのだとか。
さらに話を聞いていく。
彼女はだいたいハックの側にいるがハックはだいたい土器づくりに専念している。
だから動き回らずに話が聞けて楽だ。
「……という感じで本では読んだんだけれど」
「あー、蘇生ね。
一般人だとそのぐらいの認識の人が良くいるのよね。
あながち間違いではないのだけれど、実は死んだ人をなんでも蘇らせる事は出来ないのよ」
「というと?」
何か過去の嫌な事を思い出すかのように苦い顔をしつつ答えてくれた。
まず蘇生系の魔法の多くは聖魔法というらしい。
光魔法とはまた違うようだ。
「それで蘇生する聖魔法は、例えば骨だけになった相手に使って、再び人のカタチに戻し肉を戻す回復魔法なの」
「実に、蘇らせるという感じだけど……」
「いや、ここには大事な物が含まれてはいないの。
魂は無いのよ。肉の器を戻しただけよ」
つまり、意識がそれだけでは戻らないらしい。
こうなる可能性が高いのは時間。
それと本人が死を納得したり宿命の死……ようは寿命等なんらかの理由でその先の未来が存在しない場合。
「あとよくあるのは、蘇生のミスね。魂がどこかで縛られたままなのに肉を治したり、肉を治す儀式に失敗したり……
だから私達死霊使いが大事なのよ」
「死者と対話して、悪霊すら味方につける……」
なるほど、顔が完全に過去の仕事でのトラブルを思い出している顔だ。
死霊使いは死者の魂の状態を診れるそうだ。
時には弔い、時には蘇生時にと魂側を担当する。
だがかなり難しい時も少なくなかったらしい。
「1番大変だったのは灰になった財閥の人ね。そもそも死んだ後焼いて壺に入れたのを持ってきたんだもの。
大人数でやって肉体がどうの魂がどこにいったのかどうのこうのと……
寿命死らしいし本人の身体もほぼ無いから無謀も無謀よ」
「ちなみに、なんでそんな事を?」
「遺産に関する事が納得出来ないとか言っていたのよね……」
出来ない時はできないのに、なんでも蘇ると思う人は後をたたないらしい。
それに彼女も死後世界に関われる限界があるから確実性はないそうだ。
それでも出来なきゃ事がことだけに大モメ。
「何度依頼主を呪い殺そうかと思ったか……!」
「と、とても大変そうですね……」
「でも!
今は先生のペットでとってもフリー!
人間界にはもう戻りたくないのよ!」
そう言ってハックを見ながら首輪型土器を撫でている。
まあ満足ならそれで良いと思います。
蘇生にまつわる話は興味深かった。 もっと彼女と話そうっと。
さらに日が流れて新築の家にいたらものすごい勢いで冒険者3人組がやってきた!
「あ! いた! 家の完成おめでとう!」
「ありがとう! さあさあこちらへ……」
「いやそれだけれど!大変なんだ魔獣使いさん!」
ツッコんだプラスヒューマンから話を聴く。
彼等が別の場所からこの森の近くの町へ帰ってきた頃。
冒険者たちの間では森のとある噂でもちきりだったらしい。
「何をどう考えても魔獣使いさん関連の噂ばかりで、それはまだ良かったのですが……」
「今日にでも衛兵たちが真相を突き止めに来るという話が出てたんだよ!」
「ええっ!?」
なぜそこで衛兵たちが!?
プチオーガの発言にぐっと出てきそうな言葉を押さえ込む。
そんなこともわからないとなると『引退した冒険者』設定が崩れる。
「まあどうせ働いているポーズのためだろうけれど……」
レッサーエルフがそうつぶやいてくれたおかげてホッと胸をなでおろす。
なるほど、たまにはしっかり働くさまをみせるためか。
「だからこそ、確実な成功報告をしたがるから厄介なんですよ」
「うーん、何か納得させないと……特にこの家が壊されたりしたら大変だからなぁ」
そうかあ、何か良い方法は……
そう思ってると近くにいたアヅキが言葉がわからないため聞いてきた。
「主よ、みな一様に暗いようですが何かありましたか?」
(かくかくしかじか)
「ならばおまかせください、このガントレットの餌食に……」
(座ってなさい)
暴力以外の解決法じゃないともっと酷いことになるっての!
そんなアヅキはしょんぼり座らせておいて、どうしようか居間で悩んでいたら外からミニオークがやってきた。
「だいたい話は聞かせてもらったぜ! なあに俺様たちに任せな!」