七百十九生目 神託
聖魔法"リザレクト"を行使した。
部屋中の魔法陣や魔法記述それに魔力が大ネズミを中心に一気に収束する。
すると何が起こるか。
「「うわあっ!?」」
聖魔力の大爆発である。
大爆発といっても吹っ飛ぶような力は受けない。
私達の大半は素通りするため誰かに片手で押されたくらいの衝撃だ。
そのかわり光が凄まじい!
低い衝撃音と共にまさに白!
聖魔法の魔力は透過色ではないため部屋が白く染まる。
数秒。
徐々に光が収まる。
そこにいる大ネズミは復活したか否か――
『ふむ、どうやらうまくいったようだな』
「「……え?」」
全員固まる。
私も固まる。
代わりに目の前にある大ネズミは生気を取り戻し……浮かんでいた。
しかも念話を放った。
なんで?? そういう魔法ではないですよ???
『ふむ、まあそうなるか。では頭から説明しましょう。我は守護竜神と呼ばれる者。死ある者たちよ、我はこの者の魂がここへと戻るついでに、意識を間借りしています』
念話はお年めいたお婆さんの優しげな声。
しかし見た目は大ネズミが浮いている。
かわりにあたりの空気がまた変貌していく。
今度は異常なほどの静謐。
声やら音やら多数の面々がいて当然騒がしいはずなのにどれも音とならない。
そう……ノイズキャンセリングイヤホンでもつけているかのよう。
聞こえるのは私と大ネズミ……いや自称守護竜神のみ。
周囲を見渡すとだいたい同じ感じの様子。
この耳が痛くなり目の奥が刺激されるほどの純粋な聖気が大ネズミから放たれているということはおそらく……
「ま、まさか本物の守護竜神!?」
『いかにも。証拠はありませんが、嘘のつけぬ気配で魂に理解してもらいました。まあ……それでも邪神たちならば、ごまかしようはあるかもしれませんが』
幻術系の高等なものを仕掛けられたりしていたら困る。
ただ……この神と理解するのは2回目。
前は蒼竜。
あの時とはまるで受ける感覚そのものは違うがどちらも神だと理解させられるもの。
例えるなら熱気が蒼竜で冷気が守護竜神。
どちらも熱であり……そしてすぎれば痛む。
先程までの強い聖気が薄れだし空気に溶け込みだす。
おそらくわかってもらえたからひっこめたというところか。
『本題です。これは特に貴女と鍛冶師に話をします。先程の祈りは、たしかに私の住む神の場所まで届きました。しかし、話すことでさえこうやって、誰かに身を借りねばならぬ身、直接あの願いを叶えることは、難しいでしょう』
「そ、そうなんですか……」
それは残念だ。
さっきのすごい像の効果があったからなんとかならないかと思ったが。
『そこで、その代わりに神託を授けます。良く聞きなさい』
「は、はい!」
『勇者の剣という死あるものたちが呼称する武器……未来を覗き見ると、必要な神の力があり、それを使うことで復元できるでしょう。しかし、それらのどれもが、調べ上げるのは困難なもので、時間がかかるでしょう。死あるものにとって、時間とは常に進み続けてしまうのですから』
なお浮かんでいる大ネズミは無表情に目を開いたまま。
尾も動いていないため感情を読み取ったりはできない。
ただ……念話なのでその感情が声以上に伝わってくる部分もある。
彼女はとても真剣だ。真面目で真摯で……まさにジンド種の手本なのかな。
『魔王というものは、わたしの知る範囲の相手ではありませんが、その復活も近いと、あなたたちの心内や言葉で知っています。それを倒すための勇者の剣だということも。なので、間に合わせましょう。その時が来たらきっと意味が分かる言葉を、伝えます』
「……はい」
ひと呼吸置いて強く念話が響く。
『毒沼の白雪。崖の白砂。砂漠の白金。それが求めるものです。わたしが視えるのはそこまで。死あるものよ、限られた生を、誰かを守るために尽くしなさい』
「ありがとうございます! ……あっ!」
気づいた時には先程までの気配が消え去っていた。
大ネズミも地面に落ちて「ぐえ」と言う。
どうやら今ので本当に終わりらしい。
「い、今のは……夢か? 守護竜神様が語りかけてくれるだなんて!」
「俺にも見えたぁ!」
「このババアにも変なやつが見えたよ! おぞましいほどの気の持ち主だったが、我らの繁栄を見守ってくれると申してくれた! ありがたや……!」
後ろは大混乱である。
さっきまでの静謐さがまるでない。
これはこれで良いのだが……
さて私の魔法が無事成功して復活した大ネズミくんだが。
「あれ? また俺何かしちゃったっすか? なんかしばらく寝ていたとばかり……」
……死亡前後の記憶が曖昧になるのはこの魔法の特徴でもある。
おそらく彼の記憶は交戦よりも前。
そこらで休んでいた時までなのだろう。
神さまとの橋渡し役をしていただなんて夢にも思わなかっただろう。