七百十七生目 守護
墓の中には骨壷と小箱が埋められていた。
カジートの父親のところらしいが……
竜人種は土葬じゃなかった?
「親父は、火葬だったんだな。鍛冶の炎の中で眠ることを選んだのだろう」
「さっき言っていたカジートの遺言? と同じだね」
「あ、あれは! 忘れろ!」
少しからかいつつ骨壷の隣りにあった小箱に注目する。
ジンドも何も言わず取って屈んで私に見える形で箱を開いた。
中身は手帳のようなものと……魔力の籠もった水晶かな。
ジンドが中身を開いてパラパラとめくる。
「おお……! これは、本物だ! 親父が書き記した記録、それと……鍛冶の方法! どこだ、勇者の剣に関する記述は……」
カジートが高速でめくっていく内容をできる限りいつものように速読で画像のように脳内へと保存する。
こうすることでのちのち役立つかもしれないからね。
そうしてついに最後の方のページ。
「――ここか! こ、これは……!? フフ、ハハハ!」
「えーと、『これを息子が読んでいるのなら、私の勇者の剣は不完全だったのだろう。魔王が復活したり、勇者が使った後の剣が破損したからこそ、これを読んでいるのだろうから』……! もしかして、こうなることを事前に?」
「ガハハ! その先も読んでみろ!」
何か吹っ切れたかのように笑い出すカジート。
促されるまま先を読んで見る。
内容は息子カジートへと宛てたものだ。
勇者の剣に関する簡単にかいた作り方とその詳細への出典表記まで明記してあるいたれりつくせりぶり。
だが最後に書かれたものは……未完の字。
勇者と共に成長するのを期待したようだが……結果的にもう一度打ち直す機会はこずに勇者は剣の力を使い果たした。
そして今の今まで時が流れ……晩年はそれを悔やむ言葉が刻まれていた。
剣が壊れたともしらずにこっそりと研究を重ねて……そしてうまくいっていない様子も。
ジンド族は魔物として特有の力と伝統と文化があったが……新しいものを取り入れて変化する交流は断っていた。
なのでここでしか勇者の剣は打てずとも足りないものがあるとそれ以上は望めない。
その壁にぶち当たってしまったのだ。
「……『私は、武器とは使い手と共に成長するものだと信じている。しかし、それとは別に、私は鍛冶師として完璧な仕事をこなせなかった。それが毎夜いつまでもよぎる。この重荷を息子に背負わせたくないから、伝えないことにする。だが、もし私の死後に息子がこれを読むことがあるのならば、頼む、私の無念を晴らして欲しい』か……」
「俺は、これを認めたくなかったのかもしれない。完璧だったはずの親父すらも、仕上げられなかったということなのだから」
それとなんで火葬したかもわかった。
肉体に強い生への執念があるとどうしても邪気に取り憑かれやすくなるらしい。
自身のアンデッド化を避けたかったのだろう。
……現代知識としても前世では剣を武器とするのは廃れた。
魔剣なんてものは当然なく事実上強い剣ならばこの世界のほうが段違いに上だ。
もちろん錆びず柔軟で切れ味の優れた包丁みたいに伝えれることや芸術性を高めた剣たちの話はできるだろうが。
「……ふう、少し落ち着いた。受け取ったよ、親父…………それと、ここまで来たのだから、祈っていこう。もしかしたら、打つときに本当に守護竜神様が助けてくださるかもしれない」
「あっ、はい」
前よりもしっかりした足取りで歩くジンドの後ろ姿を慌てて追う。
いい方向に向かうと良いなあ。
像の前にある捧げ台の上に正しい手順で香料を置き火を付ける。
あたりに心地よいかおりが広がっていく。
守護竜神像は座ってあぐらをかき片手で横に腕を突き出している。
すごく勇ましい雰囲気だ。
カジートは拳を胸の前で合わせ片膝を降り半分座る。
あれが祈りのポーズだ。
私も"変装"を使えば出来るが今やったらカジートがびっくりするので止めておこう。
「我らを護りし竜神よ、我が声を聞き届け給え。我は鍛冶師。至高の一振り、神の力ある勇者の剣を創る時に……何卒、何卒」
「わわっ!?」
像から不思議とあたたかな光が風のように流れ込んでカジートを包んだ!?
「……ん? ああ、この像は特別だからな。ご加護を授かれるのだ。鍛冶とは関係ないが、鱗を鍛えた鉄のように頑強にしてくれる。半日程度だがな」
「す、凄い……」
さも当然と言った様子で語ってくれたがリスクなしでそれはとんでもない……
まさに神の像か。
蒼竜の像もこういうのあるのかな。
大ネズミをこの部屋へと運んできた。
道中かなりカジートにいぶかしがられたがなんかかんや協力してくれた。
大ネズミの仲間たちにも説明済み。
この部屋は聖気が満ちているから環境としてはばっちりだ。
『ネオハリー』ならあんまりいらないと思うが……『ホリハリー』でも少し怪しい。
きっちり補助線を引くこととしよう。




