七百十五生目 疾病
大ネズミと戦闘。
強くないが数は多かったが……
「ほい! 19匹目!」
「グフッ!?」
"正気落とし"で最後の1体をストンと叩けばそのまま崩れ落ちる。
これで全てのネズミたちを気絶させた。
光魔法"ヒーリング"を範囲化して"無敵"を合わせ回復……っと。
一番の年寄りっぽい大ネズミを起こす。
こらで捕食と被捕食の関係から進展するはずだ。
「おはようございます、起きてください!」
「う……くっ……一体何が……うわあっ!?」
「落ち着いてください。無力化しただけで、殺し合いをする気はありません」
敵意が失われれば今度は逃走しがちになる。
それは事前にわかっていたから道を塞いでおく。
混乱する大ネズミだが……
「わあああ!! みんなやられ……あれ!? 我が子たち、ほとんど怪我もない……?」
「ええ、治しましたし」
「なるほど、敵じゃなかったのね」
急に落ち着かれた。
話が早くて助かるが。ネズミの生きる速度というやつか。
この大ネズミの声や言葉からしてもどうやらおばあさんらしい。
「同族の血の臭いで巣が荒らされたと思って襲撃かけたけれど、どうやら貴方ではないようね」
「ええ。まあともかく、彼は後々蘇生を試みます。なのでちょっとここに置いといてください」
「あら? 食べようと思ったのに……まあいいわかった、我が子たちが起きたら伝えておくよ」
「ええ、では」
なんとか話が通じてよかった。
さっさと後にして走る。
その後も似たような感じで複数回絡まれつつ。
大したことはない相手だったので鍛冶師も問題なく退けれたらしい。
死んでいたのもあの大ネズミだけだ。
大扉を抜ける。
この先に気配が……おやっ。
ここからとんでもなく土の臭いが多いな……
なんというか……
良く乾燥した肉が土となりそしてうごめいているような。
つまりは……
「アンデッド!? ……って斃されている!?」
すでに現場で倒れ伏している1体のゾンビ。
肉体がほぼ朽ちてそれでも明らかにさっきまで歩いていた形跡が残っている。
竜人種の原型が見られる。
近くに持っていたであろう古びた剣を持ち……
その動いていた死体にどこかで見た剣が刺さっていた。
正確には昨日天井に刺さった剣。
ということは!
すぐそばから血が垂れている。
もちろんこの死体のものではない。
続くその先に視線を移せば……
「鍛冶師さん!」
「む……? もしや、獣か。ジンド語でないものだったから、違うアンデッドかと思ったぞ……」
隅の壁にもたれかかるように眠る姿はジンドの鍛冶師。
既に血の多くが固まっているのにまだ出続けている。
私が急いでもこの現場には間に合わなかったがかといってさっさとこなければ命にかかわっていたかもしれない。
それと片方の目のところ。
裂いた布が巻き付けてある。
「もしかして、右目が!」
「くっ……ツバつけときゃ治るはずなんだがな、やけに治りが遅い……」
「そりゃ治りませんよ!」
おそらくざっくり斬られたか。
全身に戦闘の跡がみられる。
ここに住み着く普通の魔物たちならともかくアンデッドは荷が重かったらしい。
「ぐ……すまないな……俺が……死んだら……勇者の剣が打てないってのに……悪い……うっぐうっ!」
「鍛冶師さん!」
「……俺の遺体は……こいつらと違って……鍛冶炉の炎で焼いてく――」
「治しますから!」
「……何? 獣、お前、まさかそんな力まで……!?」
なんだかこういうリアクションは久々な気がする。
まず"ヒーリング"。
どうやら疾病ももらっているようなので"メディカル"。
"ヒーリング"で治した生命力を"イノスキュレイト"で消耗させつつ目の復活。
聖魔法"トリートメン"で傷口を閉じ……
[アンチディジース 対象の疾病状態を治療ししばらくの間疾病を防止する]
これで病を癒やす。
これだけに限らず治す魔法は症状の具合でどれだけやり続けるかとかどれだけの腕が必要かとか力をどれだけ注ぐかとかある。
私は"無尽蔵の活力"のおかげで行動力の摩耗は気にしなくてすむけどね。
今回の疾病はまあかかったばかりというのもありあっさり治せた。
「はい。これで全部おしまいです」
「…………」
「どこか、まだ痛むところはありますか?」
「……ねえよ」
鍛冶師が自身の全身を見渡して右目の調子を確かめつぶやく。
よし問題なさそ――
「むしろ……むしろ来る時より元気だよ! 腰ン痛えのも治って尾も凝ってねえ! 肩もスムーズ! 獣、そんなに力使ったらお前が大丈夫か!? 俺、外は詳しくないが、これほどの回復魔法は村の司祭では遠く及ばない! その、お前それほどの力を使って大丈夫か!?」
「え!? ええ、私は平気ですから!?」
ううむ。ここまで驚かれるとは……




