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七百十三生目 頑固

 レンドという隠れ里に住む竜人の魔物。

 さらにその奥に隠れ住むレンドの鍛冶師。

 いきなり斬りつけられるなどトラブルはあったが通してもらえた。


「用事なんですが……実は勇者の剣に関してなんです」

「何!?」


 うわびっくりした。

 いきなり声が大きくなり目を見開くのだから。

 さっきまでのしわがれやる気なしとは真逆。


 これは……当たりかな。


「……すまん、続けろ」

「あ、はい。勇者の剣が最近勇者の手に渡ったんですが、その剣は見事に壊れ錆びついていまして。再び剣が元に戻るように打って欲しくて……」

「それは俺では無理だ。帰んな」


 即答。

 何かを見たわけでも何か具体性を伝えたでもなくすぐに言い切った。

 これは……


「待ってください! あなたは、はるか昔に勇者の剣を打った者に関して、何かご存知なのでは!?」

「話は無い! どこの誰に何の話を聞いてきたか知らんが、俺に伝説の剣を打つ力などない!! とっとこ出てけ獣ぉ!」

「お願いします……! もう私、思いつくアテがないから……!」


 鍛冶師が立ち上がり何かを手に取ろうとしてやめた。

 先程跳ね返されたことが思い浮かんだからだろう。

 代わりに私を掴もうとしてきたので……あんまりやりたくない手段だったが。


「うぐっ……!? 動かねえ!?」


 小技! 地面餅!

 自身の脚に力を込めて伏せまるで地面に引っ付いたかのように動かない!

 こうなると床を剥がしたほうが早い!


 そしてこうやって接触している間に……

 "無敵"プラス"ヒーリング"!

 相手との対話できる可能性をこじ開ける!


 これまでそうしてきた。これからもそうする!


「お願いします、話を……!」

「な、何を! とにかく、俺は……! くそ、出ていけ……!!」


 居座り訪問販売のようだかま彼のとりつく島を探すためにもここは引けない。


「ぐ……おお……!? うおお……!!?? ち、力が……! 抜けていく……くそう、なんなんだ、一体! ……なんだが変に落ち着いちまった……! すまん、無理やり追い出そうとして……あんまりお前は悪そうに見えんのに、その言葉を聞いて、俺の頭の中が……くそっ」


 鍛冶師は力なくその場に座り込んだ。

 "無敵"単体の効果は友好化もねらえるのでうまく狙ってみた。

 効果はなんとかあったようだがそれは無理やり追い出されなくなっただけ。


 対話がどう成立するかはここから次第。


「ごめんなさい。どうしても話を聞きたくて沈静化させてもらいました」

「ハァ……悪い。どうしても勇者の剣に関してはな……俺は血が上りやすいから正直沈静化は助かった。このあとひとり反省会を開きたくはない。ただ……」


 ふたたび元の位置に鍛冶屋は座り直す。

 頭を片手で抑えうつむき深い溜め息をこぼす。


「そのことは……少し話が重い。壊れたということも含め、唐突にそんな話を切り出されて、変化に対して俺の頭がついていかない。頭ン中がグチャグチャだ。悪いが一晩待ってくれ。逃げはしない」

「ああ、ごめんなさい、外から来ていきなりこんな話を持ちかけたりして……それなら私は一旦帰ります」

「ああ。その勇者も、剣も、まだ見てないというのに、悪い。俺は……ジンド族はもう長いあいだ何も変わらないことで生きてきたから、こういうのに慣れてないだけだ。何、火酒を呑んで寝れば治る……はずだ」


 それもそうか……

 ジンド族は基本的に律儀で真面目だ。

 それは裏を返せば変化に対しての弱さを表す。


 外に飛び出て戻らない者すらとんでもなく硬い印象なのに隠れ里の者はまさに頑固一徹でもおかしくない。

 普段イレギュラーが起こらないように徹することで安穏とした暮らしを享受している。

 だのにそこへ私というイレギュラーが勝手にやってくるのは地獄のようなものかもしれない。


 果たしてはるか昔に勇者がジンドの鍛冶師に打ってもらったとしたら一体どんな裏技を使ったのやら。

 とりあえず今日はそのあとひとことふたこと交わして去った。

 最後に謝ったら鍛冶師は私の謝罪を受け入れてくれあのでひとまず安心できた。





 次の日。

 扉の前にジンド語文字で板に言葉。


[獣へ 少し発つ ここで待て]


「どこかへ行ってるー!!??」


 私知っている。

 コレ放置しとくとマズイやつ。

 フラグっていうんだ……


 それはともかく堅物頑固一徹な彼が混乱したあとに約束を違える可能性を考慮してまで出かけたというのは危険だ。

 朝食を取りに出かけたというには前日と物が動いてなさすぎる。

 具体的には使用痕の多い背負籠がそのままなのはおかしい。


 ……追うか!

 彼のにおいは覚えている。

 集中して足跡を探しにおいを辿ろう。


 しばらくずーっと続いてるようだ。

 真新しい形跡が確実にどこかへ確かな意思を持ち向かっている。

 駆けていこう。

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