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七百十二生目 人竜

 おそらく鍛冶屋の前まで来た。

 見たところ看板もなく見るからに古びている相当年季の入った建築だ。

 木材も近くの森で見たものを使われている。


 ジンド種は特徴として彩色のある化粧を建築物にも施す。

 つまりカラフルな線を多数描いて絵にするのだ。

 守護竜神が定めたとされるその化粧は組み合わせて魔法効果のある紋様にするのだ。


 守護や警告それに勇気など複数の意味があるらしい。

 美しさを示すのにも使う。

 そしてこの家は……その塗装がくすみ剥がれ欠けている。


 竜人種(ジンド)……住んでいるんだよね?

 魔物の中では特殊な彼らとはいえ話によるとそうそう自分の家は棄てないらしいが……

 "見透す目"……ん。ちゃんとひとりいるね。


 霧に混じって煙が煙突からあがっているのも見える。

 "インファレッド"で熱が多量に含まれているのもチェック済み。

 それに倉庫なのか軒下の一部に箱が積まれている。


 中身は……保存食と金属。

 そして……打ち据えた刃。

 ほぼここが鍛冶屋なのは確定。


 だけれどもそれが謳われる鍛冶屋なのかは……怪しい。

 とりあえず中をいつまでも透視していないで入ろう。

 気配を通常範囲に戻して……


「こんにちはー、すいません!」


 呼びかけてみる。

 中から音がして移動している。

 金属音? 鍛冶屋だから金槌かな。


 扉の前で少し待つ。

 においが迫ってきた――


「うおらっ!! 死ね化け狸!!」


 扉が急に横に開いたかとおもったら手にした剣が振り下ろされた!?

 "防御"を反射的に行う!


「うわあああッ!?」


 ガキン! っと金属音。

 割とパワーがある!

 刃の纏う(エフェクト)と私の纏うシールド(エフェクト)がかち合って……


 剣が空へとスっぽぬけた。

 そのまま天井へと刺さる。


「ぬうっ!?」

「待って、待って!! 化け狸じゃないですから!!」

「……なんだ、よく見たらいつも狩るヤツじゃなかったの」


 あ……危なかった。

 驚いて額の目が飛び出るかと思った。

 相手はすっと構えを解いておとなしくなる。


 殺気が曖昧だったのは素人だったからか。

 剣がスっぽ抜けたあたりも察せる。


「で、霧使いの化け狸が誘い込んで餌にするためでないとしたら、お前さんはなぜここにいる? こんなところ、ジンドすらめったに誰も来ん。お前は、誰だ?」


 しわがれた声で話して来るが竜人種(ジンド)特有の恵まれた肉体で衰えていない筋肉が鱗の向こうからもはっきりと形作っている。

 その瞳は険しく奥に炎が渦巻いているようだ。

 ジンドは魔物だし鱗が引っかかる関係であまり服を好まない。


 その代わりローブ系統でゆったりと身を包んでいることが多いそうだが……

 この鍛冶師は上半身をはだけさせ腰に布を巻き付け縛っていた。

 見た目と初対面の印象共に荒々しいな……


「え、ええと、実は聞きたいことがありまして……」

「ん? 道か? 器用に迷うたか? まっすぐそこらへんに突っ込めば外に出る。帰れるぞ」

「いや、そうじゃないんです! 鍛冶の話なんです!」


 露骨に嫌な顔をされた挙句尾の先をビシと床に叩きつけられた。

 いまのはいわゆる……舌打ちに近い動き。

 私は"言語学者"で理解している分気まずい……


「客か……入れ」

「し、失礼します……」


 めっちゃ入りにくい……!

 行くしか無いので案内されるがまま中についていく。


「……悪かったな。いきなり斬りかかって。知らない奴は基本敵か獲物だからな。まさか言葉を話す魔物が俺ら以外にもいるとはな……」

「い、いや言葉自体は結構どんな魔物でも……まあジンドの言葉を理解している魔物はほとんどいないでしょうけど」

「フウン、言葉に詳しそうだな。俺はこの森の外のことはしらんが、お前は森の外から来たんだろう。外はお前みたいなのがいっぱいるのか」

「いや、珍しいと思います」


 囲炉裏のような居間に通される。

 誰かの訪問を想定していないらしく散らかしっぱなしだ。

 邪魔なゴミや器具や金属を蹴り払って座る場所を作ってくれた……


 いいのかな。それで。


「ま、座れ」

「し、失礼します……」


 内装は意外なほどにしっかりとしていた。

 外見は風が吹けば飛びそうなボロ屋だったのに中は何度も改築した形跡がある。

 とくに耐火の工夫なのか木だけでなく石や金属も加工して貼り付けてあった。


 物はごちゃごちゃしていてどれがなにかとイチイチチェックするのも面倒なほど。

 明らかにひとり暮らしで誰も中に入れない前提の散らかし方。

 扉の奥で区切られたところが工房につながっているのだろうか。


「茶は……無い。で、仕事の話だったな。お前さんのような、俺の剣を跳ね返す獣が、何のようだ?」

「まあ、あれは使い方が……ええと、用事でしたね」


 勇者の剣のこと話してみよう。

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