七百十一生目 濃霧
地図を見てイタ吉や竜人の魔物ラゴートと共に遠征計画を練る。
私にもかくれ里周辺や鍛冶屋への正しい行き方を教えてもらい……
ついには今日私単独で森へと足を踏み入れていた。
気づくとあたりに霧が立ち込みだす。
首にまいたスカーフがしなびそうだ。
こうなってからの動きが肝心。
まず隠れ里の魔物たちに気づかれてはならない。
迷惑かけないために。
気配を遮断。
そして頭の中に叩き込んである正規ルートを通りなおかつ仕掛けをといて進まねばいけない。
強引な突破は相手の感知にひっかかる可能性がある。
わりと単純な罠だが鳴子もあるし存在がバレるという点でとても危険。
頭の中で正確に地図を再現する。
これが出来るようになって随分と楽になったものだ。
昔はここまで具体的な脳内イメージを固定化できなかったなあ。
光魔法"ディテクション"を使いより正確な地図を頭の中に立体的にえがく。
前まではどうしても処理の関係上切り捨てざるおえなかった委細詳細も全て理解して脳内にスルスル入っていく。
これは影との対立をこえて私が私本来の力を扱えるようになったからだろう。
"魔感"で足りない情報を補いつつ……
光神術"インファレッド"。
赤外線で見る世界を足していく。
昔はこれの処理に耐えきれなくなったものだ。
今は平然とこの世界を見れる。
普通の霧だらけの景色と熱感知による熱源を探る世界を同時にだ。
"魔感"は見るという感覚ではなく触覚に近い。
魔力を探る手が私の周囲に遠くまで伸びているのだ。
それらも統合して脳内マッピングが直せるので"ディテクション"は柔軟だ。
霧で全てが覆い隠されている世界はあまりにも巧妙な罠たちが隠れ潜んでいた。
こんなところでまともに住める生物は罠を知る者たちだけだろう。
うっかりすれば転移させられ方向感覚を狂わされ道は変わり偽の痕跡が現れやがてこの場所に関する忘却が始まる。
当然そんなことされてはたどり着けないので仕掛けを解いていく。
まず必ず正しいルートを通る。
途中正しい方向へ像を向ける。
それからまた歩みだす。
途中正しい方向にだけ篝火に火をつける。
それからまた歩む。
鳴子を避けておく。
ジンド種の土着信仰である守護竜神にお供えして祈り。
ただしき礼法により道は開かれる。
少し進めはやっと霧が薄くなった。
ここが例の隠れ里か……!
心の中でつぶやき口から出さずに転がす。
ココは少し小高い丘になっていて里を一望できた。
塀も壁もなくとても牧歌的な木造建築たちが立ち並ぶ非常に馴染みやすい風景。
そもそも建築数自体がそんなにない。
夜の月明かりが霧に透けて余計に幻想的に見えた。
畑が無いという話は本当だったか。
この森に棲む獣たちを狩るだけで十分成り立つような数しかいないとは聞いていた。
そして毎日の変化を極力なくしているとも。
だから常に平和な日々が流れ……
性格によってはヒマを持て余す。
そして時にはこの里から二度と帰れぬ旅路にでるのだ。
今回はこの里に用がないので大回りする。
一旦内側に入ってしまえば抜けるまでは森の中は比較的自由に動ける。
……さらに奥の鍛冶師が住むところへいかなければ。
私の4足はやはり森を駆けるのに向いている。
私の知る森とは雰囲気がまるで違ってもこの風を切って走る気持ちよさは変わらない。
腕と脚の筋肉が弾け飛ぶように走り温まってくる。
もちろん罠には気をつける。
ここまでくると鳴子くらいだが知られるとややこしくなるからね。
あっという間に里は背後へ消え去った。
しばらく駆けていけばまた濃霧になる。
惑わす仕掛けが発動したのだ。
ここからはいくつかのエリアをくぐり抜けて進まねばならない。
1つのエリア境目に1つの仕掛け。よそ者のみを惑わす不思議な霧。
そして単純な地理的に迷いやすく道があったりなかったりする。
里の魔物ジンドにうっかり遭遇しないように道からは外れる。
そしてここは山の起伏も大きく崖による飛行移動しようとすると霧の仕掛けで道を戻されたりするので取れるルートは限られる。
本来使うはずの直進ルートからは大きく逸れてかなり迂回するがしかたない。
今回は徹底的に交戦を避けるため草を食む動物たちはおろか飢えて牙を研ぐものたちからもするりと探知抜けする。
当然距離的にはどんどん長くなるものの何ら出来事が起こるわけではない。
起こったら困る。
というわけで。
霧まみれに疲弊しながらもやっとこさたどり着けた。
数時間変わらない霧景色を走っていた気がする……
それでもちゃんと進んでいることを確信しながら進めたのはマッピングのおかげ。
霧が薄くなるその先には地味な一軒家。
推定鍛冶屋だ。