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六百十一生目 月琴

「勇者の剣を、魔物が打っていたなんて……」

「勇者は魔の王を払う者。とは言え王には常に叛逆(はんぎゃく)者がつきもの。当時の微妙な戦況を考えても、名乗るのはほぼ殺してくださいと言っているようなものだからね」


 蒼竜が私の家で語る真実。

 魔物や魔王を打ち倒すものがその魔物が打ち作ったという話だ。

 とは言えニンゲンを斬る刃物もニンゲンが打つのだからそう考えたら合理的ではあるのだが。


 蒼竜は砂糖を山程入れたお茶を軽く口に含み飲み込む。


「その種族の名前は知らないが、少なくとも巨人族ではないはずだよ。彼らが作るにはサイズが小さすぎる刃物だし、よくも悪くも手を貸すタイプとは思えない。少なくとも、当時語られた(うた)は真実に近いと僕は踏んでるね。というわけで……」


 蒼竜がそそくさとさも当然のようにどこからかムーンギターを取り出した。

 ……えっ!?


「何ごく自然に歌う態勢!?」

「え? そりゃあ詩なんだし、歌わないのは変な話でしょ。ああ、下手なんじゃないかって不安かい? 大丈夫さ、割と本気で、生きとし生けるものたちの感性を研究し、まるでニンゲンが語るかのような歌い方を理解しているからね! 遠く響き渡らせる竜の歌も良いが、楽器を鳴らしながら下の立場から上を見上げるように語るニンゲンの歌だってできるさ!」


 ううむ。普通に書き出してくれればよかったのだが。

 そうとは言えないほどに自信満々に言い切られてしまった。

 仕方ないので聴く態勢に入る。


 蒼竜は手早くムーンギターの調整を済ました。

 魔力の籠もったように見える弦が美しくきらめく。

 ポロリ、ポロリと意外な程に繊細な指使いで弦が弾かれていく。


「勇者 の 刃 は 力 受け

 ついには ヒビ入れ 壊れ 落ちた」


 い……意外だ。

 本当にまともに歌っている。

 音色はゆったりと始まったが結構困ることでは。


「刃は 砕け て も 心 は朽ちぬ

 真なる 刃 を 探し に 駆けた

 人里 は な れ 野 を 抜けて

 山霧の 向こう 隠れ 里」


 抑揚が上がった後に再びしっとりと下がった。

 いわゆるサビと1番の終わりだろうか。

 続けて2番が始まる。


「勇者 は ついには 辿り つく

 伝説 と 謳われる 鍛冶 師へ

 刃は ふた た び よみが えっ て

 かがやく つるぎ は 勇者 の 剣

 黃竜(おうりゅう) の しっ い ぽ を 芯に

 決して 折れぬ その 力」


 美しい調べと共に普段とは違ってしっかりと弾き語りをした。

 軽薄そうな喋りは腹部から響くような声になりじっくりときかせるもの。

 最後に軽くムーンギターを鳴らして曲が終わる。


「以上、勇者英雄譚から剣の部分を抜粋したよ」

「おお……! すごく良かったよ! あんまり答えにはならなかったけれど!」

「ふふ、キミが褒めてくれるのはなかなか珍しいね!」


 そりゃ普段そんな感じで変にキザぶるからね。

 隠れ里の鍛冶師……か。

 なんか……記憶の片隅にひっかかるような。


『ローズ? 今良いか?』


 おっと。イタ吉が私の"率いる者"で"以心伝心"を借りて念話してきた。

 なんだろう。


『うん。何?』

『例の鍛冶師……ほら、ラゴートの里に武器を卸している鍛冶屋だ。ついに見つけたらしい』

『ああ、なるほどわかった、行くね』


 ……ん?

 まだこれだけだと特定は出来ないが……

 まさかね。


「誰かから連絡?」

「うん、今日はありがとね」

「お安い御用さ! まったくキミも忙しいな。あと2、3曲披露したかったのに」


 私が家を出る間際に蒼竜はお茶を注ぎ足して砂糖山盛り3杯入れていた。

 飲んでほっこり。

 自分の宿に戻らないのかな……?





 イタ吉とジンドという竜人魔物のラゴートと共に冒険者ギルドの別室にやってきた。

 ここは防音加工が物理と魔法両面からされており遠隔監視や透視などかなりの対策済み。

 神の力で突破されなければ大丈夫なほど。


「さっそくだが、これを見てくれ。地図の制作に成功したからな」

「冒険者のみんな、すごい頑張ってくれたんだね」

「これはすごい。確かに我が里周辺の地形と一致しています」


 机上に広げられた地図は手書きながら正確に地形が描かれていた。

 門外不出の地形情報。

 おそらくなんどもなんども書き直し継ぎ足して完成させたものの写しだ。


 この地図はもちろんその存在含めて秘匿させてもらう。

 ジンドの隠れ里とも関わらない。

 今回は……


「このエリアが里で……この離れたとこにあんのが鍛冶屋だ。ここら一帯はただ隠れているってだけじゃない。複雑な魔法が張り巡らされていて、まともに探索できずにいつの間にか元きた道に戻されているんだってよ」

「ええ。まあそこは(わたくし)が最低限伝えたことで、なんとか回避できたようですね」

「空から隕石が降ってこようと、隕石が明後日の方向にいつの間にかワープするような大規模魔法、やりすぎな気はするんだがなあ……」


 すごいな……そこまでか。

 ただまあ気持ちはわかる気がする。

 それなら確かに絶対安全だ。

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