六十七生目 手甲
(それでは気をつけて帰ってね)
「はい……ありがとうございました……!」
グズグズに泣きながら彼等は帰っていった。
説教はしていないよ、意味ないし。
ただ、ひたすら、理解していない点を洗って、一緒に、理解して、お勉強をした。
それだけだ。
短時間とは言えみっちりしごいたのでヘマはしないとは思う。
イメージ共有は便利だ、相手の脳へ地図ややり方を直接インプットするかのように使える。
スキル思考伝達のレベルは2になったから少しは飛距離伸びたかな。
もちろんちゃんと動けるかは本人たち次第だが……まあ、私の知っている冒険者3人組はちゃんと動けていた。
彼等が出来ないわけではないだろう。
私と出会ったことはまあ森の中の不思議くらいに思ってくれるだろう。
あの日記小説に書いてあった迷宮の中はもっと摩訶不思議に満ち溢れていたからなァ。
冒険を続けていればもっと不思議と出会えるはずさ。
おっとっと、本来の目的をしなくちゃね!
完成するはずの家を見に行こう。
「お待ちしておりました主!
どうぞこちらへ」
現場についたらアヅキに導かれるまま完成品を眺めた。
おお! すごい! 普通の木製の家だ!!
つまり設計どおりに出来ている。
誰かが余計な手を加えたり、多くのミスが積み重なって不格好になったりするかと想定していたのだけれど。
もちろんつくりは雪が降る前提のつくり。
100cm夜中のうちに積もられると普通の家だと出られないし屋根がダメになるからね。
「おう! 魔獣使いの旦那とローズの姐さん!
俺様たちの力作! どうよ!」
「最高だよ! すごい!」
ミニオークの背後で子分たちがわいのわいの喜びの声を上げている。
なにせこれが自分たちの家になるんだ。
家を自力で作れるようになったらもうコワイものなしだなァ。
「中はどうなってるの? 足マットある?」
「ああ、ちゃんとしたのはまだだけれど拭くものがあるので、それで入ってくだせえ」
促されるままに足をきれいな雑巾で拭ってから扉を開けてもらい中に入る。
扉の作り含め一切獣には合わせていない。
あくまで彼等ニンゲンのためのものを造ったわけだ。
文化的に靴は脱ぐらしいので玄関が設けられている。
人数は多いのでそこそこ大きな家だが中に入るとそれが実感出来る。
廊下が続いていてトイレと7つの部屋へ続いていた。
1階のみでこの部屋数だと普通なら土地代だの建築費だのバカ高くなるだろうが森の中で造ったものだから平気だ。
下水や上水道はさすがに引けないからトイレはまあ垂れ流しよりは文化的な程度。
7つのうち4つは同じ長方形の小さめな部屋で子分たちの部屋。
家具などはこれから造ったり買い揃えるそうだ。
1つはミニオークの部屋。
親分らしく少し広めの四角部屋だがまだ何もないので寒々しい。
「寝床はどうするかなー、敷布団も良いが海外から来たベッドも気になるんだよなー」
今までぎりぎり寒さが凌げる状況で雑魚寝していた段階からかなりの発展ぶり。
特に『なんでも作れそう』と思えるようになっているのが大きいようだ。
もう1つは客間。
3人組冒険者たちが来たらここに来て貰う。
ちなみに今日はいない。
彼等もこの森ばかりに冒険しにくるわけじゃあないからね。
そして最後一番大きな部屋は居間。
調理の可能な簡易キッチンもあるし家全体を暖める暖炉付き。
これがないとニンゲンは寝ている間に凍死する。
なので早速点火!
「ところで主よ、この火の置き場は何なのですか?
家が燃えてしまいそうですが」
「燃えないように隔離して暖房する暖炉って装置だよ」
「ほほう、言葉がわからずひたすら単純作業をしていましたがこれが完成形なのですね。これは面白い」
アヅキが言う単純作業のうちの1つはレンガ運びかな。
なんとか作成に間に合ったレンガたちをひたすらこっちまで運んでもらった。
これのつくりがミスすると木製の家だから全体が燃え移る。
今燃え広がる事が無いということは成功だろう。
もちろん、テストはしてたんだけどね。
よしよし、思ったよりしっかり立派にできている。
これが初仕事だとは思われないだろう。
「いやぁ〜、本当にみんな凄いね!
後は中身づくりだね!」
「ほんと……本当にここまで出来たのは旦那のお陰で……! グズっ」
ミニオークたちが感極まって泣きだしてしまった。
泣いている姿は本当にまだ幼い。
「誇って良いぞ、この年でここまでやれるのはお前たちくらいだ」
「それも全て姐さんがココまでやってくれたからこそだよ……!」
「……ッと! 水を刺すようで悪いが、ココはゴールじゃないからな」
まだやることはたくさんある。
盗んだ分の返金や独り立ちまでの勉強もだ。
さあ、ホームが出来たのだからこれからだ。
「これからもバリバリ働いてもらうからな!」
「もち、もちろんですや旦那! 一生付いていきます!」
「こら、独り立ちするまでだ!」
子分たちからそんな殺生なーとか聴こえてくるがスルー。
大事なことだからね。
[5人を服従させる +経験]
……ログめ、判定がよくわからんな。
[経験値累積 +レベル]
しかもレベル上がった!?
すごい経験値入ったのか……?
一通り新築でやることは終えて後日改めてお祝いする約束をして帰還。
アヅキもやっと仕事から解放されたと嬉しそうに一緒に帰った。
「まあ、たまにはニンゲンたちの様子を見に行くのも良いかもしれませんね……グフフ」
「うん、怒られない程度にね……」
何を考えているかすぐにわかるな!
少年たちがまた視姦されるわけか……
まあ彼等からしてみたら睨まれているようにしか見えないだろうけどね。
群れの中に帰るとインカとハックがレヴァナントと遊んでいた。
……遊んでいる、のかな?
「あははは! くすぐったい!!」
「あーそこは……ひゃあ! 良いけど、ひゃあ!」
見るとレヴァナントが両手でインカとハックの肉球やらお腹やら撫で回していた。
楽しんでるなー!?
打ち解けるのめちゃくちゃ早いな!
「先生とおそらくご兄弟の方、ここですか、ここなのですか!?」
「うん、兄だよ……というか仲良くやってるようで何よりだね」
「あ、先生のお姉さんのローズさん! この通りなんとかやらせてもらってますよ」
私にもすっかり敬語だ。
まあそれは良いとしてその首に巻いているのは?
見ようによってはこれ……
「その首の……首輪みたいなのって?」
「それがですね! 先生が私にとくれたのです!」
「えっ」
あー、もしかして。
ペットって何かとあの後詳しく聞かれたから色々答えたけれど。
「ハックくん、もしかして、首輪作ってプレゼントしたの?」
「うん、ローズお姉ちゃんが言っていたのを再現したんだ! プレゼント喜んでくれたみたいだった!」
うん、彼女は確かにめちゃくちゃ喜んでる。
首輪みたいな土器を恍惚として撫で回し恐ろしい早さで何かつぶやいているし。
こう、絵面的にね、純粋なハックの気持ちが生んだのだけれど。
そういうプレイっぽいというか……
いやいや、余計なことを考えるのはよそう!
3体が遊んでいるのは放っておくとして私の用事を済まそう。
普段の訓練の前に土器置き場へ。
アヅキに渡すものがあるのだ。
「はいこれ、家造りした分のお給料みたいなの」
「……えっ!? 私にですか!? も、もったいない!」
アヅキは何かもらえるとは思っていなくてかなり驚いている。
珍しく慌てているのを見れた。
私は部下に支払いを滞らせるタイプではないのだから受け取ってもらうしかない。
「きっちりアヅキ用にサイズをあわせているんだから、これアヅキにしか使えないんだよ」
「おお……おお! つ、つけてみて良いのでしょうか」
「もちろん」
アヅキはそう言ってたどたどしくソレをつけだした。
ガントレット。
手甲とも言う指先まで細かく動かせる金属の手袋みたいなものだ。
まあ私が適当な岩から強化Eスピアを出して頑強そうなのを削り出し細々作っていたもの。
アヅキの関節毎に動くようにするのが大変だった……
前世の知識ではどうしてもニンゲン用だからさらに変化させる必要があるからだ。
「普段雷の剣を持つ左は指周りが頑丈にしてあって、右は腕の外側が硬いからガードのさいに意識してね」
「ああ……私のために色まで黒く。すごい……これぞまさに! 神の贈り物!」
うん、指の数とか位置とかニンゲンと違うからよく測っただけあってピッタリフィット。
また変な事言っているが放っておこう。
「もうこれは外しません……!」
「それはだめ、臭くなるから戦いの時以外はずして」
「……ですね」
凄く惜しそうだが手入れはしてね……