七百十生目 錆剣
オウケン上級王が見つけてきた勇者の剣。
それはボロボロの塊だった。
「これが……勇者の剣?」
「ああ。しかも修復を何度も試した。この城最高峰の腕と知識を持ってな。それでもこれは、まるで変化がない」
苦々しくオウケン上級王が顔を歪ませる。
"観察"するとたしかに勇者の剣だと表示が出る。
ただしその能力はただの棒の方がマシといったものだが。
「と、とりあえず持ってみます」
グレンくんが前に出て朽ち果てたそれを掴む。
……グレンくんの手が汚いサビに汚れた。
「勇者の力に呼応して、真の力を取り戻すというものであれば、良かったのだがな……そうもいかんか」
「うわっ! このサビ、手についてもあとからあとからわいてくる!?」
「発見当時からそんな調子だったらしい。まったく、これを保管していたかの国が見せるのを拒んだわけだ」
どうやら勇者の剣はひっそりと多くのものには知られることなく聖遺物のように保管されていたらしい。
ただ……そこまでしっかり管理していてもこの様子。
おそらくは……
「もしかして、勇者の剣は魔王との戦いで力を使い果たして……?」
「かもな。かなりこちらとしても不本意だが、そのサビの塊を贈呈することとなる。どこかに、勇者の剣を打ったという鍛冶の腕を引き継ぐものがいればな……」
「オウケン上級王、勇者の剣はやはり誰かが打ったものだったのですか?」
オウカがわずかな望みをかけるかのように顔を上げる。
オウケン上級王は少し悩んで。
「……ああ。勇者の剣は神の力により竜の尾が変化したものではない。確かに誰かによって鍛え上げられたものだと聴いている。ただし、勇者たちはその剣の鍛冶師は明かすことが無かったらしい」
「誰も知らない鍛冶師により誰にも明かさないことを条件に、数々の貴重な素材を用いて人のたどり着くことの出来ない一振りを完成させた。」
「それが市民たちの語り草の中で、鍛冶の神が鍛えたものだとか、光神フォウスにより授けられたとか、噂がうわさを重ねて変化させられる前の、しっかりと保存された真実に近い話だ。だが……真実そのもの、誰が打ったかは、まさに神々のみぞ知るところだろう。蒼竜様に祈る他ない」
オウケン上級王は深い溜め息をつく。
……んん? もしかしてこれなんとかならないか。
それとは別にグレンくんがしっかりとサビの塊を握りしめて顔を明るくする。
「大丈夫です、上級王! 僕が勇者として、この剣に認められるように、そして復活できるように、探ってみます! 例えできなくとも……やる時が来たら、やるまでです!」
「……そうだなッ! あんまり暗いのも我らしくなかったなッ! 貴殿の顔を見ていると、勇気を分けてもらえるかのようだッ! 勇者たちよ、貴殿らの活躍に期待しているぞッ!!」
「「はい!」」
歯を剥き出すような笑顔が戻ったオウケン上級王。
こうして私達はサビの塊もとい勇者の剣を受け取った……
「で、僕に聞きに来たわけ?」
「そりゃね」
アノニマルースに戻って。
早速神に直接聞いてみようのコーナー。
「前も言ったけれど、その魔王関連に僕はあんまり首を突っ込みたくないんだよ……痛い目にあいたくないし、そもそも神の過干渉は世界を乱す!」
「そこに関しては結構今更な気がするんだけれど……情報提供はそう過干渉じゃないから大丈夫じゃない?」
「そうかなあ……?」
ある意味珍しい弱気。
それほどまでに魔王が嫌か……
「とにかく、お願い! 今度新しいフレーバーのアイスクリーム先に食べさせてあげるから!」
「えっ!? あの例のここで作られているアイスクリームの? ……まともに並ぶと本格的にいつ食べられるかわからない新作の……よ、よし。知ってること教えちゃおうかな!」
この神様はいわゆる俗物に弱い。
味とか効能ではなく俗世とノリを共にすることを面白がるタイプだ。
「本当!? ありがとうー!」
「まあ、でも大したことは知らないけれどね」
なんとか話してくれるつもりになったらしい。
いつものように指で帽子を弾いて語り出す。
「鍛冶師に打たれた剣というのは知っていたね。だけれども誰が打ったかは伝わっていないと。まあそれは当然っちゃあ当然か。僕が知っている範囲では、その相手がどんな相手かってところまでだね。昔の話だから、生きてはいないだろうけれど」
「それでも、手がかりにはなるかもしれない!」
今の蒼竜はニンゲン風。
どこか腹の立つ笑顔がよく映える。
「よし! それじゃあそれについて話をしよう! その相手は……魔物だったんだ!」
「えっ!? 1つ目巨人族のような!?」
アノニマルースには確かに魔物ながら生まれつき鍛冶師がいる。
サイクロプスたちはそれで良く鉄塊を作ったりサイクロプスたちの価値観でしかわからないものを作り上げているが……




