七百九生目 随分
ミミミツを連れテテフフに会いに来た。
まずは前の通りミミミツに蝶たちにつっこんでもらい……
「あはは! そこはくすぐったいって!」
ミミミツの蜜をテテフフたちに提供する。
蝶が魔物1匹によってたかる光景はいつみても凄まじい。
全く無害な光景だがミミミツ以外は全身摩り下ろされる。
もちろん私も例外では無いので少し離れておいて……
「こんばんは! 私です、ローズです! 少し話がありまして!」
蝶たちの総数はまさに数え切れないほどにいる。
なのでその一部だけでもとんでもない数だが……
それらが蜜吸いの恩恵から一旦離れて1つの塊へと集合していく。
眉のような光に包まれたかと思えば中からテテフフの進化体が出てきた。
前より少し小さめだ。
ミミミツにたくさん寄っているからね。
『なるほど。私達に届けさせたの。またあなたか』
「ええ、少し聞いてほしいことがありまして」
『手短に』
私はことのあらましをざっくり説明した。
テテフフは集合した姿ならば明確な感情がある。
一切表情はかわらなかったがにおいや気配が『めんどくさい』という意識が漏れ出ていた。
『なるほど。押し付けられたと。だから貢物を』
「ええ、まあ本当に申し訳なかったので、ミミミツさんに協力してもらいました」
『……その魂。あの違和感のある魂を持つ私達の子。それだろう』
どうやら覚えがあるらしく移動が始まる。
ミミミツにたかっておらず普通に休眠している蝶たちもたくさんいるので緊張する。
それでも奥へ奥へと進んで行き……
とあるところで止まり指す。
『この。新たな私達』
「このテテフフが……?」
見た目は……テテフフだった。
小さいテテフフではあるが。
なんというか想像していたものとは違う。
こうもっと幼虫的なものかと思った。
生まれつきこうなのか。
「……さすがに見た目は他のテテフフと違わないですね」
『魂が。違う。馴染んでいるが』
「まだ記憶は戻らないでしょうし、こういう状態なら無害でしょうが……この先はどうなるかわかりません」
テテフフは単体ならばはっきりした意識もなく非常に単調な意識しかない。
そのかわりテテフフ同士なら常に微弱につながっているらしい。
進化した方のテテフフがどうやら更新を行ったらしい。
『……まだ。ただの私達。いずれその記憶蘇る。けど。その時は。私達が教育する。任された』
「本当に、ありがとうございます! かなり困っていたので……」
淡々と念話が来たがなんだか恐ろしい言葉を聞いたような……
『それにしても。思い出す。彼の事』
「彼……とは?」
『隠した秘境。砂漠の奥にある砂漠。その場の番犬。ずいぶん会ってない。そろそろ会いに行くか』
「アラザドと……似ているんですか?」
「いや。彼は。古代の神に仕える。だから思い出した」
テテフフは集団でずっと記憶を引き継いでいる。
つまりははるか太古から。
その感覚での『ずいぶん』って相手生きてないんじゃあ……
そうとは言えずに苦笑いしてその場はお開きとなった。
時は戻りハロウィンの一連騒動と同じころ。
私はとあることをしに武の街へ訪れていた。
勇者1行と共にだ。
勇者グレンくんに人狼っぽい弓使いゴウ。
拳で戦う人牛っぽいダンに全身を光の鎧で包むオウカ。
このメンバーだ。
今回行くのは呼び出された先であるお城の中。
前に大会で褒美をもらいにきた以来だ。
それで今回はここから呼び出されたわけで。
前回報酬として勇者の剣捜索を頼んだ。
なので今回はそのことに関してのはずなのだろうが……
「どうも歯切れが悪いんだよねえ」
オウカが手紙を見せてくれた時にそう言った。
実際手紙にはあったとかなかったとかの情報がうやむやにしてあった。
とにかく来て欲しいらしい。
今回も玉座の間で少し待って。
それから武の王オウケンが玉座へと座る。
ひじをつき足を組むのはだいたいは『王相手でも親しんで貰っていいよ』という下々に対するひとつの作法だったかな。
でなければ顔を見ることすら許されない場合もあるからね。
「……さて。くだらない挨拶は抜きにしよう。実はな、勇者の剣は発見し、この場に運んである」
「おお! 本当ですか! ありがとうございます!!」
グレンくんの声と違いオウケン上級王の顔は渋い。
いつもの快活で筋肉な笑顔は失われている。
「……とりあえず、見てもらった方が早いだろう」
「あ、はい?」
「もってこい」
言われるが早いかすぐに脇から台座が登場する。
上には丁寧に布が被せられていた。
あそこにあるということかな。
なぜだか張り詰めた空気の中誰も何も言わずにただその台座を見つめる。
私達の前に運ばれたあとに……
布が取り除かれた
「「ええ!?」」
「本物の、勇者の剣だ……見ての通りだがな」
それは。
勇者の剣と言うにはあまりにも……
ただの朽ちた金属片だった。




