七百八生目 冒涜
みんなと別れ再びお祭りの時に戻る。
夜の回はみんなで賑やかに遊ぶ状況になっていた。
もちろん静かにしたい者が過ごすのもそれを尊重するのも事前に取り決めしたルールだ。
『ネオハリー』状態も解除して……と。
今回は時間が短かったがやはりこの一気に力が落ちる倦怠感はあるし本来の四足に戻れたから良くノビしたくなる。
マントも本来である首の風のスカーフに戻っていた。
……アザレアに対して私は非常に相性が良かった。
だから相性の有利でゴリ押せたのだ。
しかしあれが世の中に出てきたらどうなっていたことか。
単に強いというだけではなく神としての力を振るう存在……
そういうたぐいのものが敵に回ったさいの対処ももうちょっと考えていかねばならない。
私が神の力で対抗出来るのはあくまで蒼竜から借り受けた分のみなのだから……
一番いいのはもう二度とあんな邪神と関わらないことである。
それができれば苦労はしないが。
後々分かったことだが"トリック"の魔法はアラザドの有り様を変質させるためのものだった。
アラザドの神としてのありようを変化して共生しようとした存在……
最終的にアラザドはそれを蹴り全てを拒絶したが……そんな誰かも昔にはいたのかもと思うとちょっとした希望が胸に響いた。
「うん?」
お祭りの終わり際。
何やら向こうから騒ぎが聴こえてくる。
悲鳴というか……狂乱?
しばらく歩いて近づく。
周囲には無傷なのにぐったりしている者やうわ言を繰り返し座り込むものたち。
たまに大声で意味のわからない言葉を話す者がいるから彼らが遠くから聴こえた狂乱の原因だろう。
「一体何があったの!?」
「ああ、アレがアレが来る……」
「アレって?」
駄目ださっぱり要領をえない。
とりあえず変な状態異常にはかかっていない。
純粋な恐慌のようだ。
もしやまだアラザドの力が何か……?
とにかく治療を……おや?
角を曲がってくるナニカ。
それを。私は振り返り。見た。
ねちょりねちょりと不快音が耳に響く。
ひと目見てその存在はこの世界の者ではないと理解させられた。
全身のシルエットは絶え間なく変化し不浄でおぞましくそして触手のようなものが蠢いている。
全身がそれで出来た何かは形を取ることもなくそれでも冒涜的な玉座に座っていることがわかる。
あの湿った耳に張り付くような音は近づくに連れ正体を表していく。
か細い笛の音に濡れたものを叩きつけ続ける音。
そしてなにを言っているかもわからないがひどく汚してくるような呪詛に聞こえる。
それらが延々と流れていて……そして。
正気だとは思えないと直感させる。
近寄ると酷くにおい私の脳へと直接恐怖を叩きこむかのようだった。
「う、うわあああああっ!?」
さすがに腰が抜けた。
なんだか危なげなガスも出ているようで瘴気がただよっているかのよう。
危険の塊。早く逃げないと……!
「……あら? ローズじゃない」
「おお、ローズじゃん!」
「……え?」
ソレの動きが止まり背後から何かが出てくる。
ナニカというより……
「ユウレンとウロスさん!? 一体何なんですかこれは!?」
「何って、そりゃ仮装じゃん?」
「昼だと映えないから、夜まで待っていたのよ」
当然のように言ってのけたそれは確かに丁寧な作りだがよく見たら何かがつなぎ合わさっている。
つまりは人工物。
それをここまで魔法加工してしまうのが彼らの恐ろしさだが。
魔物の一部やいくつかの儀式を得ておそらく置いておくだけで多くの者をパニックに陥らせるようなもの。
単なる見た目の恐ろしさだけじゃなくて1種の設置型魔法罠になっている……
「いやいや、さすがに迷惑になるほど本気で怖がらせる物はダメだよ!? みんな倒れちゃってるって!」
「あら? ……本当ね。最初の方にいた子どもたちには好評だったのに」
「あ、あの子たちじゃん」
歩いていく魔物の子どもたちがちょうど角から見えた。
彼らは……あれは!?
蒼竜のお面を頭の上につけている!?
まさか……
「あのお面、恐怖から身を守ってくれる……?」
「あ、さっきのだ!」
「わー! 変なのだー!!」
「またねー! ヘンナノー!」
……その後。
被害者たちは聖魔法"ピースマインド"で治療をし。
冒涜的な仮装は封印される運びとなった。
巡り巡って蒼竜の配布が役にたったとは……
本人には絶対言わないでおこう。
土着信仰。蒼竜教。光教。
そして前世の信仰によるハロウィンのお祭り。
誰かが信仰し成り立っていただろうアラザドの教え。
多様な信仰が入り混じりそれでも最後まで大事故は起こらず。
むしろ互いに干渉を起こし合いそれぞれの発展につながったかもしれない。
その影でひとつの元神がついにはその身をなくしたが……
ちなみに。
コッコクイーンのプリンセスたちの争いは全員イーブンだった。
同時に同じ相手にお菓子要求してまわっていたらそりゃそうなるということを今回学んだようだ。
そして少なくとも私のハロウィンは終わり。
夜にやってきたのは砂漠の迷宮。
崖の下にやってきていた。
「ようし、今回ももらうものはもらったし、いってくるよ」
「よろしくお願い!」
全身から蜜を出す魔物ミミミツと取引して崖の先に向かってもらう。
……そこには壁1面にとまっている蝶たちがいた。
テテフフだ。




