七百六生目 麒麟
謎の結晶は神という存在のカケラだと言われた。
このままだと意味をなさないらしい。
「ま! とにかくそのままだと意味がない。同じようなのを……あと3つ程度集まればある程度形になるかもしれないけど。いつまでもふわふわさせておくのもなんだし、取り入れちゃえば? 元の持ち主がなんであれ……何か特別な効果とかなんもないからさ」
「触れないんだけれど、どうしたら?」
「簡単さ。心で命じ、受け入れるんだ。物質的なやり取りではダメさ」
心の中で来てほしいと唱えたらスッと石は私の中に溶け込む。
光が美しく波を打った……が本当に何も起こらず。
少し身体の内側から熱を感じたがすぐ落ち着きそれっきりだ。
「……うん。やはりキミは、神に近づける存在だよ」
「……?」
神格のカケラ……
これをあのアラザドからもらえたということはアラザドの最後のすがりが消えたということかな。
転生魔法が成功したようで良かった。
「主が神なのは当然だ」
「いや、そういうことじゃないんだけれどね……」
「「ハッピーハロウィン!!」」
「あ、え、うん!? は、ハッピーハロウィン……」
ぐったりしているデュランマを連れられてきた先は教会だった!
いやそれは良いんだけれど。
教会の宣教師たちはカブのかぶりものをしていて教会の外見も飾り付けてある。
たくさんの魔法光で教会の外は光輝きシンボル兼看板の螺旋は不自然なほどに光を反射している。
中は休んでいる魔物やニンゲンたちがたくさんいてワイワイと賑やかった。
建設中なのも相まって教会の厳かさなんてものはない。
「あ、ローズさん、その魔法かなにかで浮かべている方は? 今パンプキンケーキ配ってますがどうですか?」
「本当はお祭りなのにごめんなさい、急患なんです! 厄介な呪いにあってしまって」
「まあ! これは大変、首が取れているのに息がある! すぐに奥の部屋を準備します」
「いや……首は……もともと……」
デュランマの小声は聞き逃された。
私が剣ゼロエネミーのように空魔法"フィクゼイション"で浮かしている。
パパッと奥の部屋へと移動した。
奥の部屋はいわゆるスタッフ部屋。
教会に務める者たちが仕事休憩なんかにも使う。
まあ今は建築資材の積む場所だが……
治療の呪いについては移動中に解説した。
「ええと、首……じゃなくてこの肉体変化の呪いでしたね」
「ええ。一度は治したはずなんですが、復活したんです」
「呪いの根源はわかりますか?」
「はい。あ、だけれど術者は倒してすでに呪いを使えなくしたので再度かけられたわけではないと想います」
何度かこうやって神父さんに質疑応答をしつつシスターさんが呪いの状態を調べていく。
本格的な道具を取り出しデュランマの身体にペタペタ文様を描きほんを開いて魔法陣のページを見開き。
最終的に色の変わっていく札たちを並べふたりで話し合い……
「おまたせしました。結果のほうですが、比較的定期的に再発しやすいもののようです」
「まるでしつこい夏風邪……ですが、究極的には風邪のようなものです。初期段階での処置が適切だったのと、根源が絶たれたために、治療さえ続ければ発作的に繰り返しつつも、いずれおさまるでしょう」
「よかった……お願いしますね」
「うう……? もしかして、しばらくはこれを繰り返す……?」
デュランマは頭が横に回転して変に浮いている。
あんまり気分はよくなさそうだ。
「こんにちは!!」
「うわっ!? びっくりした! ここは関係者以外立ち入り禁止ですよ!」
全員不意にバーンと開けられた扉の方へと視線が釘付けになる。
そこにいたのは……身体ががなかった。
正確には首が浮いている……キリン。
「「本物の幽霊!?」」
「あっ、その言葉は――」
私が何か対処出来る前にキリンの姿が眼の前へと迫る。
そう猛然と突進してくるキリンの首だ。
「出会い頭にケンカ売るとはいい度胸だねー!!!」
「「うわああああ!?」」
その日。
みんなはキリンの頭にツノがあるということを思い出した。
「うう、はぐれたあとも、元気そうでなにより……」
「……改めて。なあに? 死の気配があったから見に来てみたら、あなただったの。なんとかなりそうだからきくけど、コイツは死ぬの?」
「あ、いや、あらかた吹き飛ばした解呪品を元に戻して、施しをすれば徐々によくなるかと……」
「……そう、良かった。心配かけさせないでよ。ああ、あと……さすがにそこまでやるつもりはなかったの。ごめんなさい 」
「いえ……みんなにデュランマ族は妖精だってちゃんと伝えておくべきでした……申し訳ありません」
現場はひどいありさまである。
大暴れ後なのでとっちらかっているがなんとか致命的なことは避けられた。
建築中の柱にダイレクトアタックとかデュランマにダイレクトアタックとか。
さてキリンの彼女だが……"観察"!
[デュラフィア デュランマのトランス体。誰かの死が迫る未来を常に察知するために日々ほとんど寝ずに見張りを行う。そうして察知したそのどこかの誰かの未来を出来る限り速く知らせに行く性質があるが、それがデュラフィアからの最後通達と気づくものはほとんどいないうえ、巷に溢れる死の気配でどれを優先するかはそれぞれである]




